第6話 異世界ファンタジー風『RPGの世界』よ、コンニチハ!

「静音さんがなんでここにいるのさ!! いやそれよりも大体この世界は何なんだよ! それに静音さんが僧侶様ってどうゆうことなの? あと七階で催されてるっていう物産展はどこのなのさ!?」

 この世界にはいるはずのないあのクソメイドが現われたことで嬉しいやら恐怖やらで余計に大混乱してしまい、そして何故だか物産展の催しを気にする余裕さえ出てきていた。


「そんないっぺんに質問しないで下さいませ。ちなみにですが、例の如く今回も北海道のようですよ」

 静音さんは興奮気味に質問してくる俺に対して、少し落ち着くようにと促してくれる。ってかやっぱり定番の北海道なのね(笑)


「あの僧侶様。こんなことを聞くのは恐縮なのですが、コイツとはお知り合いなのですか? 何やら親しそうに話されていらっしゃいますが……」

 門番のおっさんは声を震わせ遠慮がちにしながらも、静音さんと不審者である俺との関係を質問していた。


「えぇそうです。彼は私たちの仲間・・ですので不審者ではありません。ですから貴方達が仲間を呼ぶのは不要です」

 静音さんは門番二人に『仲間』という言葉をやや強調すると、仲間を呼ぶことを止めるようにと再度命令をしてくれた。


「はっ! 僧侶様がそう仰るのなら……な!」

「はい! 私たちは僧侶様のご命令ならば、奴隷の如くただただ頭を地面に擦りつけ従うのみです!」

 門番のおっさん二人がメイド服を着た女に命令されて逆らえない構図。この絵面すっげぇ違和感しかないな。ってかよく見るとこの門番のおっさんら、そもそも日本人じゃないぞ!? 二人ともまさに洋モノって感じのガッシリっとした体格であり、金パツ頭に渋いヒゲ面で『兵士』と言った感じである。


「ありがとうございます。ところであなた達のお名前は何ですか?」

 静音さんはおっさんらにお礼を言うと彼らの名前を聞いていた。たぶん何かあった時の為の保険・・に名前を聞いたのかもしれない。

「はっ! 私の名は『メンデス・メンドーサ』であります!」

 姿勢良く『気をつけ!』と敬礼をするとスポーツ刈りにちょび髭の門番のメンデスさんは静音さんに自分の名前を告げた。

 よく見たらこの人、夢の中で俺に1番初めに槍を刺した人だわ。忘れるはずがない。何せ俺はこのおっさんに刺し殺されたのだから……。


「わ、私の名は『山田・カプート』と申します!」

 こちらも姿勢良く『気をつけ!』と敬礼をしていた。

「って、おいおいおい! 何だよその名前は!? 山田ってアンタ日本人なのかよ! ハーフ&ハーフピザ的存在なのかよ!?」

 いかにも西洋風の顔立ちなのに『山田』と名乗られてしまい悲しいかな、ツッコミ担当を任命されてしまっている主人公の俺はそれにツッコミを入れないわけにはいかなかった。


「失礼なヤツだな。この怪しいヤツめ!」

 ただいま話題沸騰中の山田さんは槍を構えながら『今にも刺すぞコノヤロー!』と、首をくいくいっと傾げながら少しずつにじり寄って来ていた。

「それはもうええっちゅうに! あとその首をくいくいっとかしげながら、歩み寄ってくんの半端なく怖すぎんだろ!?」


「それは失礼ですよアナタ様!? アナタ様は作者の方から名前すら戴けない分際なのによくもまぁ人様の名前の事を言えますね! 早くこのピザ野郎・・・・に謝りなさいな! さあさあ!!」

 おっさんら2二人も『そうだーそうだー!』っと静音さんの後ろに隠れながら一緒に煽りまくっていた。


「(え゛っ゛? 俺が悪いのかよ!? だって『山田』だよ。しかもそれが苗字じゃなくて名前・・になんだよ。これは誰だってツッコミたくなるだろうが……」

 俺は苦情を言いたくなったのだが、槍二本プラスモーニングスターの前では謝る以外の選択肢は残されてなかった。


「ご、ごめんなさいすみませんでした! どうかお許しくださいませ」

 正直不本意この上ないのだが、文字通り命がかかっているので全力で謝り平伏してしまう。

「はぁーっ。まったくもう、アナタ様ときたら気をつけてくださいね!」

 静音さんは溜め息混じりにやや呆れながら、俺のわき腹を小突いてきた。


「(あ、俺にも名乗れってことなのか? この物語の主人公なのに今まであだ名すらなく散々『名無し』で通してきてやっとこさ、この第6話目にして初めて自分の名前が言える……そんな主人公前代未聞だわ!)」

 などと作者に対する愚痴もここまでにして、俺は『こほん』っと息を整え名を名乗ることにした。


「お、俺は勇者だ!」

(ふふっこれを読んでる読者さんもここで俺が自分の名前を名乗るとか思ってたんだろ? だがなそうは問屋がなんとやらってやつだぜ!)


「「(カチャ)」」

「(ダダンッ!)」

 そんな自己紹介をすると門番二人は槍を構え、静音さんはその重量感満載の鎖付きの鉄球モーニングスターを地面に叩きつけていた。


「あれあれーっ? 三人ともお怒りのご様子ですが……どうかしましたかね???」

 ど、どうゆうことなんだ、どこかで選択肢を間違えちまったのか!? だってよ俺はこの物語の主人公なんだよな? ならこのRPGの世界での役割って言ったら、もう勇者しかねえだろう? これを読んでる読者諸君だってそう思うよな? だがどうにも俺の認識と彼女達の様子から察するに違うらしく、馬鹿正直に聞いてみることにした。


「あ、あの~~静音さん。少し質問しても……」

「ちっアナタ様。おふざけもいい加減にしないとワタシだってもう怒っちゃうんですからね♪」

 ブンブン♪ 静音さんはその笑顔だけで人を殺せるほどの可愛らしい笑顔でモーニングスターをぶん回していた。もはや後は目標目掛けて当てるだけの簡単な作業を残すのみである。


「(えーっ!? 何それ? もしかして俺の役割は勇者じゃないのかよ!? この物語の主人公だってのにそんなことってあるのかよ)」

 静音さんに近寄ると門番のおっさんらに聞こえないよう、小声でこんな質問をする。


「(じゃあなんて名乗ればいいのさ、意地悪しないで教えてよ)」

「そうですねぇ。なら『村人C』なんてのはどうでしょうかね? ぶふっ」

 すっげぇ思いっきり笑われてしまった。そりゃCだもんなぁ~。


 そもそもCなんてナンバリングはモブの王様なのである。ちなみにAは第一村人で町や街の名前を紹介する役割で、Bは『武器は装備しないと意味が無いぞ』などある意味誰でも知っている事を改めて教えてくれる役割である。しかもその命尽きるまで永遠にそんなセリフしか喋れることができないのだ。それなのにCなんて言ったら……。その名付けに対してかなり思うところもあったのだが、静音さんと門番との関係を鑑みるにとりあえず門番二人に向き合い、アドバイス通りに名乗ることにした。


「俺は『村人C』だ!」

(もしこれでも文句があるなら言ってみろってんだっ! 文句を言った瞬間、お前らが頭が上がらない静音さん名付け親が黙っていねぇからな!)

 俺は静音さんの威光を借りると堂々と自らの役柄を声高らかに名乗り挙げた。


「「よし! 通ってもいいぞ! 門を開城せよぉーーっ!!」」

 ガラガラガラ~ッ。門番のおっさんら二人は武器である槍を収めて開城させる声かけをすると、鎖を巻き上げる大きな音がして城の門が開き通るように促してくれる。

「(し、釈然としねぇ!? コレ・・は何か納得できねぇわ!!)」

 俺は首を傾げ渋々ながらも門を潜り抜け静音さんの後を追うように街へと入って行く。


 どうやら俺が城の壁だと思っていたモノは城を取り囲む防御壁外壁の一部だったようだ。また本来なら通行書が欲しかったり、荷物検査を受けるはずなのだが、『勇者ご一行の僧侶様のそのお供荷物持ち』という事で顔パスならぬ『村人C名前パス』で街の中に入れてもらえることになった。

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