第5話 悪夢再び……

『そうですか。残念ながら死んでしまったのですね。あなたはまだ・・この世界に抗うつもりなのですか?』


「…………」


『それはよかった。ならばワタシの最後の力を使い時間を遡らせ、もう一度だけアナタに命を授けましょう。さぁゆっくりとその目を開け、一刻も早くこの世界を救いなさい』


「…………」


『ってかもう復活してんだから、さっさと早く起きんかいワレっ! てめぇもう一回沈めんぞクソガキがっ!!』

 ブゥンッ! そんな重々しい音と共に何かが俺へと向かって振り下ろそうとされていた。

「うわぁぁぁあっ!?!?」

 俺は慌てて飛び起き、そして状況を確認するため周りを見渡した。


「こ、ここは俺の部屋だよな? 今のは全部夢だったのかよ……ふぅーっ」

 安心するように溜め息をつくと無意識にお腹に手をやり擦ってしまう。少し違和感がありペタペタと体中を触って確かめるが特に体には異常はなかった。

 だがどこか拭いきれない違和感があり、その途端気分が悪くなってしまう。得も言えぬ不安に駆られると簡単な身支度をして朝食も食べず家を出て走り、急ぎ学園へと向かうことにした。


「あれは夢だったんだよな? そうだよ。きっとそうに違いないんだ!」

 自分に言い聞かせるようにそんなことを一人呟いて納得させるのだが、学園に近づくにつれてそうだと思える自信がなくなってきた。気づけば学園まで全速力で走り、ようやく学園の門が見える所までやって来た。


「はぁ~よかったぁ~。やっぱりあれは夢だったんだな♪」

 普通の校舎が見えることに安堵するとあれが夢だったと改めて確信し、走るのをやめてゆっくりと息を整える。

「ったくよぉ~、朝っぱらからあんな夢見るかよ普通(笑) まったく夢のヤツめ、今度会ったらタダじゃおかないからな! 明日にでも『嘘・大げさ・腹立たしい』で有名な所にクレーム入れてやるからな! せいぜい今から覚悟しとけってんだ」

 朝の気持ち悪さがまるで嘘のようにそして安堵したせいか、俺には不思議と笑みが零れてしまう。


「大体だな、あんな安っぽいどこぞのアニメやゲームの主人公みたいな展開があってたまるかってぇ~の! 異世界? ファンタジー? RPGの世界? 勇者様に僧侶だって? んなもんあるわけねぇし、いるわきゃねぇよな。なんだか安心したら腹が空いてきたなぁ」


 思えば昨日は家に帰るや否や眠ってしまい、今日も急いで学校に来たせいで昨日の昼から何も食べてないということに今頃気付いた。


「ふわあぁ~っ。こんなことならコンビニに寄ってパンでも買ってくりゃ良かったよ。とりあえず学園の購買部でパンでも……いや、でもちと早すぎるかな?」

 そんなことを思いながら欠伸を噛み殺し眠く半分閉じた目を覚ますかのように強く擦りながら、俺は学園の門へと一歩踏み出して校門を潜った。


「ほんっと、あんだけ寝たのに眠いったらありゃ……んんっ!? なんか俺の目をありえないモノが占領してんだけど。き、きっと欠伸しながら片目で見てるせいだよね? そうだよ、そうに決まってるよな!?」

 お目目パチパチ。俺はメバチマグロばりにもうアニメなら太鼓でドドンッ! っと効果音が付かんばかりの勢いで何度も瞬きをしてしまう。そして両目を痛いくらいゴシゴシっと擦り再びそれ・・を目にすることにした。


「ありゃいわゆる『お城』だよねぇ。うん、悲しいことに」

 俺の目の前には先程まで普通の校舎だった建物が、いきなりRPGに出てきてもおかしくないくらいの『洋風なお城』へと早変わりしていたのだ。


「あーこれもどこかあの夢で見たことあるような……」

 今朝の夢と同じく木で作られた立派な洋風のつり橋の真ん中に立っていた。下には川もちゃんと流れ目の前にはお城が聳え立っていた。


「(もしかして読者のみんなはこの景色を見たことあるかい? 俺は初めて・・・かなぁ~、あはははっ……ぅぅっ(泣))」

 俺は笑い誤魔化すことで現実逃避を始めたのだが、世知辛くも逃げるのに失敗したようだ。

「うん? おい、そこのオマエ! 何故この『エルドナルド城』を見て笑っているのだ?」


『だが門番のおっさんに声をかけられてしまい、現実へと引き戻されてしまったのだ!』


「(あわわわわ、こ、この展開はもしかして……いや、もしかしなくても……)」

「(おいコイツなんか怪しくないか?)」

「(確かに、な)」

 おっさん二人は俺に聞こえぬようにヒソヒソと話をしている。

「(おい。今のうちに西門と東門から応援を呼んだ方がいいんじゃないか?)

「(そ、そうだな何かあってからでは遅いしな……)」


『門番のおっさん二人は仲間を呼ぼうとしている!』


「ち、ちょ~~~っと待ったぁぁーっっ!!」

「(とりあえず少し様子をみたほうがいいんじゃないか?)」

「(ああ、そうだな。それからでも遅くはないだろう)」

 俺は間入れず門番のおっさん二人に対して待った宣言をするとその動きを止める事に成功した。


「…………」

 止めた。止めたは良いのだが、正直何を言えばいいのかわからなかった。

「んっ? 何だ何なのだ? オマエが『ちょっと待った!』と言ったのだろう?」

「そうだ何か喋ったらどうなのだ?」

 門番のおっさんらに続きを急かされるが、生憎と何も思い浮かばず言葉を発せない。


「(やはり……)」

「(ああ、そうだな……)」

『門番のおっさん二人は再び仲間を呼ぼうとした!』

『ここでアナタの窮地を救うべく私こと選択肢さんが助太刀いたしますね! 以下より選択コマンドを選んでね♪』


『たたかう』こっち丸腰、あっち槍持ちでしかも兜鎧のフル装備……勝ち目まるでなし!

『にげる』てめぇ今逃げたら背中に槍二本刺しちゃうぞ♪

『とりあえず説得を試みる』な~んか無難で面白くない。はん、つまんない男。ぺっ


 ええいっ、だまらっしゃい! こちとらまさに自分の命がかかってるんだからな!? ここはやはり無難に門番のおっさんを『説得する』しかないよな?

「あ、あのですね。ちょっとお聞きしたいんですが、ここは一体どこ何でしょうか?」

 とりあえず軽い世間話ジャブから説得の糸口を探ることにした。こんな時は無難な会話から始めるのが一番である。


「どこってオマエ。ここは『エルドナルド城』だが。オマエ、そんなことも知らないのか!?」

 おっさんらは『コイツ頭大丈夫か?』と訝しげな目で俺の様子を窺っている。

「で、ですよね~。あははっ……はっ」

 俺は顔を引き攣らせ乾いた笑みを浮かべながら誤魔化そうとした。


『ブーここで時間切れです。アナタは彼らの『説得』に失敗しました。またのご利用をお待ちしております。なお七階の物産展では……』

「怪しいヤツめ!? おい西門と東門に行き、早く仲間を呼ぶんだ! 俺はコイツを足止めしておく!」

「ああわかった! 頼んだぞ!!」

「やっぱりそんな展開なのか~いっ!?」


 門番のおっさん二人は仲間を呼ぼうとしている。俺は今朝の夢と同じ展開になりつつあることに混乱していた。あの夢のとおりならばこの後槍を二本刺されてしまい、そして最後には殺されてしまう。

「(俺はまた槍を刺され、あの痛い思いをして死んじまうのかよ!? 一体どうすればいいんだよ)」

 そんな考えが一瞬脳裏を過ぎ去ると絶望と恐怖から諦めるように両目を強く瞑ってしまう。


「そこの門番二人! 仲間を呼ぶのは少し待ちなさいっ!!」

 っとそこへ、謎の女の人の声が門番のおっさん達を止めてくれたのだ。俺はその声に聞き覚えがあった。

「あ、あなた様は僧侶様ではないですか!? 何故勇者様ご一行の僧侶様がここにいらっしゃるのですか?」

「た、確か僧侶様も王様に謁見していたはずではなかったのですか?」

 門番二人は僧侶と呼ばれる女が目の前に現われると、不審者である俺なんぞ始めからいなかったように振る舞い敬礼をしていた。


「なにやら外が騒がしいので『もしや何かあったのでは?』と様子を見に来たところです。ですが……来てみて正解でしたね」

 門番のおっさん二人に僧侶様と呼ばれる女は艶やかな長い黒髪に全身を黒服に包み、右手には鎖付きの鉄球『モーニングスター』の武器を持っていた。そうそれは俺がよく知るあの悪女クソメイドだった。

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