第2話 自己紹介するのなら華麗に、そして過激にいたしましょ♪

 今朝の騒がしい入学式が終わると俺達は各々教室に帰り、HRホームルームに勤しむ事となった。まぁ勤しむと言っても名前順の席に着き、教壇の前に来て簡単な自己紹介をするだけなのが入学式の出来事を鑑みるに、まぁ無事に終わるとは思えない今日この頃。そしてクラスメイトの半分ほどの自己紹介が終わり、ようやく俺の出番が回ってきた。


「じゃあ次の人、あっ……キミなのね」

 胸元を大きく開けたスーツを着ているいかにも・・・・ビッチそうな担任の女教師は俺の顔を見るなり、複雑そうな顔をして前へ出てと手で合図をする。

「(どうっすかなぁ~。普通にするか、それともインパクト重視にするか……読者のみんなどれか選んでくれ!)」


『入学早々遅刻しました♪』遅刻した事を明るく誤魔化してみる

『ヒーローは遅れてやってくるものです!』スベると理解していても、ウケを狙ってみる

『このクソビッチがうるせぇよ!』脇にいる女教師ビッチに対してとりあえず逆切れをしてみる


 いやいや、最後のはあまりにもダメすぎるだろ(笑) おいおい最初から飛ばしすぎじゃねぇか? そもそもここはまだ序盤なんだぜ。だからここは俺に任せてくれよな! とりあえずここは普通が1番だよな?

「……です。よろしくおねがいしま~す」

 先程の出来事とは全然これっぽっちも関係ないことをアピールしながら、あくまでも普通に名前だけを告げて、俺の自己紹介は終わる事となった。


(ふぅ~っ。なんとか無事に終わったな。でも何かすっげぇ見られてんだけどさ。さっきあんな出来事があったせいか、俺の出番になった途端しーんっと静かになりやがってからに! 俺だって別に好きであんなことになったわけじゃないんだぞ。それこそ普通の高校生活を……)

 バンッ!! っと俺の心の描写途中にも関わらず教室後ろのドアが盛大に開け放たれた。っつうか、破壊されたね。そしてソイツら・・・・は現われたのだ。


「天音お嬢様、の彼があそこに……」

「(コクリ)」

『みなまで言うでない、分かっておるわ』っと言わんばかりに頷いていた。

 なんとそこに現れたのは、スラリとしつつも自己主張をやめない大きな胸に腰よりも長く美しい赤い髪、左腕を腰に当ていかにもお嬢様オーラ全開中の美少女! っとその付き人であろう全身黒ずくめのメイドさんが現われたのだ! 


 な~んかどっかで見たことあるな。もしも『知ってるよ♪』って読者さんがいたとても俺にだけは教えるな、いや本気で頼むよぉっ(泣)

 もしかするとソイツらの姿が教室になかったことで、俺は油断しきっていたのかもしれない。まさかまさか教室乱入事件をこの身で体験するとは思いも寄らなかったからだ。


 コッコッコッ……ただ赤い髪のお嬢様とメイドさんの歩く音だけが教室中に響き渡る。


「あっ、その……」

 そんなことを考えていると赤く長居髪を靡かせたた美少女がついに俺の目の前に辿り着いてしまっていた。

「(あわわ、どうすればいい!? 読者のみんな、今こそ力を分けてくれ! もしくは俺が死んだら家の小鳥にエサを……あっそういえば、そもそも小鳥飼ってねぇわ!?)」


『どうやら主人公は極度の混乱に陥っているようだ』


 そして俺はこの後起こるであろう現実から目を逸らすため、ぎゅっと痛いくらい目を瞑り衝撃に備える。だが、いつまで経っても何も起こる気配はなかった。

「(どうゆうことだ? もしかして……)って、うわぁ!?」

 俺は恐る恐る目をゆっくりっと開けると、目の前には赤い髪をした美少女が仁王立ちで立ちふさがっていたのだ。しかもあと数センチでキスでもしてしまうのではないかという距離だ。


「ちょっとキミ。少しばかりそこを使いたいから、どいてはくれないだろうか?」

 俺は自分が置かれている状況がイマイチ飲み込めず、『ああ……』っと生返事をするだけで精一杯だった。そして横に移動してその美少女に壇上の真ん中を明け渡す。正直彼女に何かされるかと思ってたが、拍子抜けなことに何もされなかったのだ。


「(ほっ。なんだよ、どうやら俺の杞憂に終わりそうだな。まぁそう……)」

 バンッ!! すると彼女は両腕を大きく上げ勢いよく壇上の机に向かって振り下ろし大きな音を立てた。それは今まで聞いたことがないくらいの騒音が教室中に響いて、近くに居合わせていた俺の耳を容赦なくダメージを与えた。


「い、ったぁ~っ! 何事なんだよ!?」

 2度目の初夜セカンドバージンを迎えた女の子のように、一番近くにいた俺のお耳に甚大な被害を受けてしまった。


『効果は戦後始まって以来、抜群のようだ♪』


 そしてその美少女は何を思ったか、教壇によじ登ると声高らかに自己紹介を始めた。

「クラスのみんな、先程は入学式の朝だというのに騒がせて悪かったな! 私の名前は『須藤天音すどうあまね』である。そうだ、みなお察しの通りあの須藤グループの長女でしかも『次期当主』の身でもあるのだぞ。ちなみになのだが、趣味は金を使うことだからな! みんな以後見知りおけぃっ!!」


 クラスメイトの目の前で腕組みをしながら仁王立ちをし、すっごく偉そうに天音とやらが自己紹介しやがった。だが、あの須藤グループの長女なのか。それならコレにも納得はできる事柄だった。ちなみになんだが、その須藤グループとは『金になるなら犯罪以外は何でもします♪ でも、お金次第では……ふふりっ♪』がウリの日本を代表するグループである。一説にはグループの総資産額は軽く数百兆円を超えているとの噂である。


「(ってか、何でそんな超お嬢様がこの学校に来たんだ? 普通ならセレブが通う私立学校に行くはずだよな?)」

 俺がそんな事を思っていると続いて、その後ろに控えていた付き人のメイドさんが自己紹介を始めた。


「ワタシは天音お嬢様の身の回りの世話をするメイドさんです。名前は『静音しずね』と申します。みなさまもお気軽に『静音様』または『静音お姉様』とお呼びくださいませ。趣味はそうですねぇ~……とりあえずはした金を集めることですかね。まぁ早い話が守銭奴ってヤツですよね(笑) ちなみに学園ではお嬢様もそうですが『普通の女子高生』であり、一般的にはジャンキーJKっと省略される方々と同じでございます。皆様もどうぞ普通のお友達として接してくださいね♪」


 そう営業スマイル全開で微笑む全身黒服のメイドさんこと静音さん。もし何も知らない人ならば、この笑顔に惚れてしまうだろう。ただしその趣味さえなければの話だがなっ! そんな事を思い浮かべていると、何故だかその静音さんとやらが俺の方を見ながらわき腹辺りを小突いてきた。


「(何かその静音さんとやらがこっちを見て小突いてくるけど何でだ? あ~ついでに俺も何か喋れってことか?)」

 そこでようやく何が言いたいかに気づき、天音や静音さん同様に一歩前へと出てみた。だが先程自分の自己紹介を終えたばかりであった事をすっぱり忘れ、何を喋ったらよいのかを考えてしまう。


「あ、あの。お、俺は……」

 そう呟くと教室中の視線が一斉に集まる。先の二人のように大変インパクトがある自己紹介をされてしまっては、絶対関係者だと思われてる俺にまで当然それ・・を求められてしまう。そして極度の緊張からか、声が体が震え言葉を上手く発せない。この状況に対して普通の代表格である俺にはあまりにもプレッシャーが強すぎたのだ。


「こほん。おい静音」

「はっ。心得ております!」

 っと何故か、そこで思わぬ助けが隣にいる人天音と静音さんから入ってきた。


「彼のことはワタシの方から詳しく説明させていただきますね」

「(えっ? えっ? 静音さんが俺の変わりに何か喋るってどうゆうこと? そもそも説明って何だよ???)」

 そう思ったのも束の間、静音さんは『こほん』っと軽く息を整えるとスカートのポケットから1枚の紙を取り出しこう切り出した。


「顔ふつう、学力ふつう、財力ふつう、身長170cmふつう、体重63kgとこれまた標準でふつう、性格も同様に可も不可もなくふつう……などと、何ら面白味のない『オールふつう』ですね。こんな『ふつう』ばかりの人生で一体何が面白いんですかね? っとと、え~っとお名前は……」

「っておいおい、それが俺の説明なのかよ! っつうかその紙は一体何なんだよ!?」

「えっ? あ、ああこれですか? これはアナタ様を調査した資料ですけど……」

 俺が言いたいことが伝わっていないのか、恍けた表情で『これが何か?』と言いたげに首を傾げるメイドの静音さん。


「いや、俺だけ個人情報だだ漏れさせんなってことだよ! マジでふざけんなよ、このクソメイドがっ!」

「……ちっ。あっ、いえいえまだ途中ですよ♪ なんなら昨日のソロ活動した内容もお話できますが……どうしますかね? ちなみになんですが、昨夜のオカズは『イケない人妻レ……」

「ごめんなさいごめんなさい!! それだけはほんっとぉーーーに勘弁してくださいませ静音さん、いや静音様ぁっ!!」


 俺はプライドもクソもなく、クラスメイト全員が見ている前で静音さんへと土下座して全面無条件降伏の姿勢を披露してしまうのだった。きっとこれを読んでくれてる読者のみんなは主人公のクセに不甲斐無いヤツだな(笑)って呆れちまってるよな? でもな、自分の夜の性生活いわゆる『ソロ活動』の内容を、ある意味ではメインディッシュを暴露されようとしたんだぜ。しかも入学初日クラスメイト全員の目の前でだぞ! そりゃ土下座して降伏の一つもしたくなるわな。そんなことされた日にゃ、俺の学校生活は……か、考えただけで恐ろしすぎるわ!


「うん? 今のはどうゆう意味なのだ???」

 どうやら天音だけはその意味がわかってない様子。意外と純情設定のお嬢様メインヒロインだった。


「お、俺は……」

 せめて何かしらの言い訳を言おうと口を開いたそのとき、

「彼は私の婚約者候補フィアンセであるからな。みなよろしく頼むぞ!」

 これまた隣いる天音さんに言葉を遮られてしまった。


「(はっ? 何フィアンセだ? カタカナオンリー? 実は俺ってば日本人じゃなくて、外国の人だったのか? って婚約者候補フィアンセだってぇ~っ!? えぇっ? なになに? これってどゆこと? 体育館でもそうだったけど、何でコイツの婚約者候補フィアンセになっちゃったのさ? 俺様ってば、どこぞのアニメかラノベ主人公的存在なのか!?)」


「今日からキミは私の婚約者候補フィアンセなのだっ!」

「だっ!」

 天音は左手を腰に当てお嬢様っぽい生意気なポーズをとりながら、俺に向けて右手で指を差してきた。あと何でか知らないけど、静音さんも『だっ!』だけを真似して俺を指差していたのだ。こうして俺の自己紹介は『オールふつう』のレッテルと、あの須藤グループの長女である天音の婚約者候補という鮮烈な自己紹介で幕を閉じたのであった。


 そういえばさ、読者さんのみなさんに俺の名前紹介してなくね? この物語の主人公なのに『名前なし』ってあまりにも斬新すぎじゃねぇかよ。せめてどこぞの主人公みたくあだ名の一つくらい欲しいところなんだけど……ダメですか?

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