第15話 一枚足りない
「……謎は深まるばかりだな」
自宅へと戻った
情報収集のために駆け回ったり、仲間たちと話し合って思考を巡らせている間はまだ良い。だけどそれ以外の時間、例えば食事中や就寝前、今のように普段なら
今になって思えば、二日以上も雫と顔を会わせていないのは、これが初めてのことだ。
どちらかが友達の家などに外泊したりすることはあっても連泊をしたことはなく、高校こそ別々となったが中学までは同じ学校へ通い、双子である都合上、修学旅行なども同じ年度に行くため、そういった学校行事でどちらか一方だけが家を空けるということもなかった。
この喪失感に慣れることは絶対にないだろう。否、慣れたくなんてない。
雫の帰宅をもって、喪失感こそが喪失されなけれいけいないのだ。
気持ちを紛らわせるためにテレビでもつけようかとソファーから立ち上がると、ふとテーブルの上に置きっぱなしだった数冊のアルバムに目が留まった。昨日、暗黒写真の説明のために使うからと
雫が居ればきっと、「出しっぱなしにしてだらしないよ」と
涼はおもむろに、昨日見た学校関係とは別の家族用のアルバムに目を通し始めた。写真でもいいから、雫の笑顔が見たいと思ったからだ。
アルバムには主に小学生時代から中学卒業までにかけて撮られた写真が収められている。ただし、小学校四年生の頃を境に涼の写真嫌いが始まってしまったため、その頃を境に涼の写る写真の数は激減している。中学時代に至ってはまともに涼が写っている写真はほとんど無い。そういう意味ではアルバムの主役は間違いなく雫だ。
そんな中、中学時代の涼がはっきりと写真の中央に写っている一枚がアルバムの後半に存在していた。それは中学校の卒業式を終えた涼と雫のツーショットを
涼も普段ならば写真は嫌いだと言って写ろうとはしなかっただろうが、この時ばかりは卒業式という特別な日と、どうしても一緒に写真を撮りたいという雫の願いを受け、渋々ながらも共に写真に納まっていた。
「我ながら、何て顔してんだか」
笑顔の雫に対して隣に写る涼はというと、分かりやすい仏頂面を浮かべていた。
涼は時を遡るかのように、今度は小学生時代の写真のページへと手をかけた。この頃はまだ雫との体格差があまりなく、二人が一番そっくりだと言われていた時期だ。
事実、改めて当時の写真を見てみると、涼と雫は一卵性双生児のようにそっくりだった。動きやすいからという理由で、雫がショートヘアーだったのもその要因の一つだ。
この頃の涼と雫は可愛らしい男の子の双子にも、ボーイッシュな女の子の双子にも、どちらにも見えてくるから不思議だ。
「あれ?」
しばらく小学生時代の写真を読み進めていると、あるページで涼の手が止まった。ページの中に一枚分だけ、不自然に写真の抜けている箇所があったのだ。
写真の抜けている箇所は前後の写真の並びから考えるに、小学三年生の春頃の物だと推測できた。年代ごとに並ぶ写真の中でその空白は明らかに不自然だったし、何よりもそこには確かに写真が存在していたという記憶があった。しかし肝心の、どんな写真が入っていたのか、そこだけは記憶が曖昧だった。何せ八年も前の写真なのだから。
「俺ならともかく、あの几帳面な雫が一枚だけ写真を無くすとも思えないしな……」
そこまで口にしたところで、涼の中に一つの嫌な想像が浮かんだ。
今回の雫の失踪、そしてそれに関係すると思われる都市伝説とその奥に潜んでいた民間伝承。その呪いを実行するために必要な物、それは……。
「まさか、この無くなった写真が」
呪いを行った人物が雫と良好な関係ではない、あるいは近しくない人物であった場合、呪いに必要な写真が手元には無かった可能性が考えられる。だとすれば呪いを行った人物が写真を入手するために
我ながら突飛な発想だとは思いながらも、涼はその可能性は十分に考えられると思っていた。
単純に古い写真を紛失しただけなのかもしれないが、そう思わせるために、あえて古い写真を奪っていったという考え方も出来る。
真っ先に頭に浮かんだのは雫の失踪に関わっている可能性が現状最も高い茜沢の女子生徒――
クラスも異なるようだし、岩清水と雫との関係性から察するに、彼女が雫の写真を持っていた可能性は低い。さらには彼女が雫の写真を入手しようとしていたという、ファミレスでの
岩清水を犯人だと仮定するならば、彼女には写真を入手する必要性が出てくることになる。
さらには麟太郎が掴んできた、雫の周囲をうろついていた男子生徒――
石清水若奈は今回の事件の鍵を握っている。確信は強まる一方だが、やはり本人に直接話を聞いてみなければ何も始まらないだろう。石清水と会える機会を作ってみると言ってくれた
「……しかし無くなった写真の中身、思い出せそうで思い出せない」
写真が盗まれた可能性があるという事実こそが重要で、写真の中身には大して意味など無いのかもしれない。
思い出せそうで思い出せない。何ともこそばゆい感覚だ。
今思い出すのは難しそうなので、涼は一先ずアルバムを閉じることにした。
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