第2話 友人達
「おい、
俯きがちに
「……
涼に声を掛けたのは同級生の
「疲れた顔してるな……まあ、当然か」
雫が行方不明となっていることはすでに麟太郎も承知しており、涼の胸中は察するに余りあるところであった。
「あれからどうだ、雫ちゃんの手がかりは」
「収穫はゼロだ」
「警察の捜査は」
「家出を疑ってるみたいで、本格的な捜索には至っていない。そういうわけだから、そっちの方も目ぼしい情報は無いな」
「雫ちゃんが家出なんかするわけないのにな」
「でも何で今日は学校に? 正直なところ、今はそれどころじゃないだろ」
涼は昨日、警察署に相談に向かったり、自分の足で雫を捜すために市内中を駆け回ったりしていたため、学校を欠席していた。
今日も一日中雫を捜索するのだろうと思い、麟太郎も学校を休んで協力すつもりだったのだが、朝に連絡した際の涼の返答が、「今日は学校に行く」というものだったため、とりあえずは麟太郎もこうして学校へやって来た次第だ。
「担任の
「そうか、確かにその方が良いな。俺も付き合うから、帰る時には声掛けろよ」
「雫のことでこれ以上迷惑かけられねえよ。昨日だって途中で授業を抜けて、俺を手伝ってくれたわけだし」
「涼!」
一喝するように名を呼ぶと、麟太郎は涼の肩をしっかりと掴み、真っ直ぐその瞳を見据えた。
「俺は自分がそうしたいから協力しているんだ。授業や出席なんて正直言ってどうでもいい。親友の妹の安否の方が重要に決まってるだろ!」
「お前って、そんなに熱い奴だったか?」
「やる時はやるさ。こういう時に本気を出さないで、親友ポジションが務まるかよ」
「何だよ、それ」
思わず涼は苦笑いを浮かべる。苦笑いといえども、それは雫が失踪して以来涼が初めて見せた笑みであった。
「とにかく、雫ちゃんを捜すのに俺がついて行くのはもう確定だからな。どうせ週末で明日は学校も休みだし、今日一日さぼったって別に問題無いだろ」
「分かった。お前との友情に甘えさせてもらう。頼りにしてるぜ、親友」
「任せとけ」
親指を立て、麟太郎は白い歯を覗かせた。
「俺は職員室に行って遠野に話をしてくる。少し時間かかるかもしれないけど」
「それじゃあ俺は教室に顔を出しとくかな。一応周りの奴らには、今日はサボるって伝えておかないと」
「了解だ。職員室でのやり取りが済んだら教室に寄るよ」
涼は玄関で上履きに履き替えると、教室とは真逆の職員室の方へと向かった。
「ああ、また後でな」
短く手を振ると麟太郎は涼に背を向け、二年C組の教室がある三階へと向かい、階段を上っていく。
「……涼、身内であるお前には及ばないかもしれないけど、俺だって雫ちゃんのこと、凄く心配してるんだぜ」
麟太郎にもまた、どんな手を使ってでも絶対に雫を見つけ出すという強い覚悟があった。それは雫に対して異性として抱いている感情から来るものなのだが、そのことは涼を含めて、誰にも明かしていない麟太郎だけの秘密だ。
「待たせたな、麟太郎」
「おっ、思ったよりも早かったな」
職員室へ向かってから10分程で、涼は麟太郎の待つ二年C組の教室へと姿を現した。
「あれ、涼君?」
教室の出入り口から顔だけを覗かせている涼の存在に気が付き、一人の女子生徒が涼のもとへと駆け寄った。
「おう、おはようさん、
「おはよう。昨日はお休みだったけど、具合でも悪かった?」
涼に親し気に話しかけたのは、同級生で学級委員をしている
「悪いな栞奈。ゆっくり話したいのは山々なんだが、今日はもう帰らないといけないんだ」
「何かあったの?」
「それは……」
涼は栞奈に雫のことを話すべきかどうかを少し悩んだが、栞奈も麟太郎と同様に親しい友人の一人だ。隠し事をしたくないという思いが勝り、正直に事情を打ち明けることにした。
「悪い、お前にはもっと早く説明しておくべきだったかもしれない……実は、雫が一昨日から行方不明なんだ」
「嘘、雫ちゃんが……」
想像を超える一大事だったため、栞奈の表情も途端に深刻な物へと変わる。
「昨日休んだのも警察に相談に行ったりしてたからでな、今日もこれから雫を捜しに行こうと思っている。学校に来たのも、遠野に事情を話してしばらく学校を休ませてもらうためだ」
「ちなみに、俺も涼についていくつもりだ」
二人のやり取りを静観していた麟太郎も話に加わった。
「もしかして昨日、麟太郎君が途中で授業を抜け出したのも?」
「雫ちゃんのことを知って、これは授業受けてる場合じゃねえと思ってな」
「直ぐに行動に起こす辺りが、麟太郎君らしいね」
「確かにな、直ぐに行くって連絡が来た時は俺も驚いた」
麟太郎の行動力が高いのは昔からだが、こういう時にはとても心強く感じる。
「ねえ、涼君。私にも何か手伝えることあるかな?」
「今は気持ちだけ受け取っておく。手がかりすら無い状況だし、正直言って今は、どう動いていいのかも分からない段階だからな」
「涼君がそう言うなら分かったよ。だけど、力が必要な時はいつでも言って、助力は惜しまないから」
「ああ、頼りにしてるぜ」
涼のこの言葉は決して建前ではない。栞奈は噂話の類に詳しいという一面を持つ。警察の捜査が宛にならない以上は、栞奈のそういった情報網が必要になる時が来るかもしれない。
「任せなさい」
栞奈は誇らしげに控えめな胸を張った。
「涼、そろそろ行こうぜ」
腕時計で時間を確認した麟太郎が涼に目配せした。正式に休む許可を得た涼とは異なり、麟太郎は学校をさぼる形となるので、教師陣が教室へとやってくる前に学校を出るのが望ましい。
「そうだな」
「栞奈、俺のことは適当に誤魔化しておいてくれ」
麟太郎は去り際に両手を合わせてお願いすると、返事も待たぬまま足早に教室を後にした。
「後で連絡する」
栞奈にそう言い残し、涼も麟太郎に続いて教室を後にした。
「……行っちゃった」
二人が行ってしまったことに少しだけ寂しさを感じ、栞奈は深く息を吐く。
――それにしても雫ちゃんが失踪なんて。
雫の失踪は栞奈にとっても衝撃的な出来事で、内心は穏やかではいられない。涼と雫、二人の友人として、何かしてあげたいという強い思いを栞奈は抱く。
――だけど、協力するにしてもどうしたものかな
しばらく思案してみたものの、妙案は浮かばなかった。涼の言っていた通り、手がかりの一つでも見つからない限り、状況を進展させることは難しいかもしれない。
「そういえば、あの噂の出所も確か雫ちゃんとこの学校だったな……関係はないと思うけど」
雫のことを考えている内に、栞奈は雫の通っている
それは、噂話の中でも栞奈が特に力を入れて情報を集めている、いわゆる都市伝説に分類される内容だ。
学校内で都市伝説が囁かれ始めた矢先に起こった雫の失踪。普通なら偶然で片づけられる事柄だろうが、栞奈は関連性を完全には否定出来ないでいた。
「……まさかね」
都市伝説など噂の域を出来ないただのオカルト話。頭の中ではそう思いながらも、過去のある出来事が心の中に引っ掛かっていた。
都市伝説に関わってしまったがために行方不明となってしまった人物を、栞奈は一人知っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます