第2話 出会い 1


「……っんん」


「おはようございます、明日香さん」


 開いた目は朝独特の日差しに晒され、眩しさで目を閉じ直したらそんな声がした。


「……えっと、」


 うっすら聞き覚えのある声に、目を開けずに記憶を探る。


「もう忘れました?」


 そうだ、さ……さ………さ……


「さくやさん?」


「ふふっ。はい、朔夜です」


 そうだ、彼は朔夜だ。医者で手当をしてくれていた、泣き出しそうだった人。


 昨日の記憶を引っ張り出していくと、だんだん頭が冴えてきた。


「朔夜さんと呼べばいいのかしら」


「いえ、朔夜でいいですよ」


 そう言いながら、私は手のひらを光の方向に翳して、目元に影を作りながらゆっくり開眼した。

 昨日と同じ位置に座る、爽やかな笑みを浮かべる彼の顔があった。


 今日の顔には、涙の跡もクマもないようだ。

 私は、昨日はゆっくり寝てもらえたということが分かり、ひっそり安堵した。と同時に、私が彼の睡眠を妨げていた証拠でもあり、人知れず罪悪感も感じた。複雑だ。


「どうしたんですか?僕のことジロジロと見て。何も出てきませんよ?」


 気がつけば、そんなに彼を見ていたらしい。


「いや、記憶に残りそうな顔してるなと思って」


 私が慌ててそう言うと、彼はまた笑う。

 余程、私の目覚めが嬉しいらしい。

 医者として、知人として、回復は嬉しいものだろう。


「そんなにブサイクですか?」


「え、ブサイク?違う違う、別にそんなつもりじゃ……」


「大丈夫、わかってますよ。ちょっとからかいました」


 朔夜はもう1度声を漏らして笑うと、私の頭を軽くなでて朝食を持ってきますねと部屋を出て行った。


 その光景を呆然としたまま見送った後、急激に羞恥がこみ上げてきた私は、無言で枕を自分の顔面に押し当てて悶えた。

 理由は、分からない。

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