第11話 密猟者
上空より、幾条もの白い光線が降り注いだ。
それらはおれ達の頭上で見えない壁に阻まれたが如く中空で止まり、霧散した。それが二度三度続いた。
「な、なんだ」
「攻撃、ですね。明らかに狙われています!」
強烈な光と音で目が覚めたら、何者かによる攻撃を受けていた。何を言ってるのかわからないと……いや、それはいい。
しかし攻撃だと。もしや。
「おれを追ってきたのか?」
その可能性を考えた。彼らが何故おれを殺そうとするのかは未だにわからない。単に邪魔なだけなら国外追放にでもすればいいと思うのだが。
……ああそういえば、あの銀槍官はおれを異端者と呼んでいたな。ならば処刑する以外の選択肢はないのか。
「どうだかな。誰であれ何であれ、クソ迷惑な奴だな」
「ほんとだよ」
同じく起きたフレイさんとリーギンさんはとても苛立たしげである。
起きたのはおれ達だけでない。リードヴァーグの背中にいるもの達はこの光で目を覚ました。
「おいなんだ一体!?」
「魔法よ!魔法で狙われてる!」
「何のだ?光輝魔法か白熱魔法か!?」
「うわっおいリードヴァーグが止まったぞ!」
言葉を話す者は口々に喚き立て、話さぬものも声を上げて騒いでいる。
その最中、リードヴァーグの動きが急に止まった。
「止まった…いや止められたっ?」
テクタルクさんは辺りを見回したが、誰も見つけられないようだった。
「テクタルク、僕が守るから索敵頼む」
「わかった、わたくしが傷付かないようにな?――カラム、シズキさん、危険ですので待っていてください」
何をするのか聞く前に、リーギンさんとテクタルクさんは脚を伝って地面へと降り立った。
すかさずどこからか矢が飛んできたが、リーギンさんはそれらを全て剣で打ち払った。
一方隣では、着地と同時、テクタルクさんの背中からマントを突き破って太い触手が何本も飛び出した。
「あれは蔓、か?」
おれと同じく見守っていたフレイさんが言って気づいたが、確かにそう見える。いや、テクタルクさんはエントだから、そうなのだろう。
テクタルクさんの背中から飛び出た蔓は全て地面へと潜り込み、テクタルクさん自身は微動だにしなくなった。
「確か索敵と言っていたが、ああして探しているのか…?」
「リーギンから聞いたんだが、エントは自分の管理する森で把握出来ないことはないんだとよ。ああやって、この辺りを擬似的な“自分の森”にしてるんじゃねーか?」
「なるほど」
そう話していると、またもや上から光線が降ってきた。先程はリードヴァーグの防衛術式とかいうものの作動により防がれたが――
「やっ…べえぞっ逃げろ!!」
誰かがそう叫んだ直後。
視界が真っ白に染まった。
「…………」
我に返ると、仰向けになっていた。
「…、目が……」
立ち上がって目を開けると、映る景色が妙に明るくてちかちかする。
目尻を揉んで目を開けたり閉じたりすると、徐々に収まってきた。
「大丈夫か?大丈夫だったらどいてやれよ」
「…?……あ」
フレイさんの言葉に首を捻ったあと、カラムを踏んづけていることに気がついた。
「お前が背中から着地しかけたから、そいつがお前の下に滑り込んだんだ」
「そうか……ありがとうカラム、君には助けられてばかりだな」
カラムに頭を下げると、気にするな、とばかりに鳴いた。
「本当だぜまったく、世話の焼ける野郎だな、だとよ」
「う」
「冗談だ、俺にスライムの言葉なんかわからん」
「そういう心にくるのはいけません」
「気にしないで、とカラムは言ってましたよ」
振り返るとテクタルクさんとリーギンさんがいた。
「無事だったようだね。それと、相手の正体がわかったよ」
「ずばり密猟者です。シズキさんではなくリードヴァーグが目的です」
「――……密猟者、ですか」
先程の魔法の光線はリードヴァーグの結界を砕いた。
おれ達のように逃げられた者もいるが、そうでない者もいた。
「他に何がいようとお構いなしかよ。乗ってるのは魔物ばかりだから別にいいってか?クソッタレだな」
光から逃げ切れなかった魔物達は殆どが事切れていて、即死は免れても放っておくと死にそうな要すであった。
――魔物とは、一般的な意味では人に危害を与える生物である。だが、少なくともこの場には人を襲う奴がいるとは思えなかった。
ここにはおれを含め、僅かながら人間や人間のような者もいたが、おれ達を襲ってくる魔物はいなかった。おれ達は皆、同じリードヴァーグの乗客に過ぎないのだ。
密猟者どもの目的であるリードヴァーグもそうだ。少しの食べ物を貰って魔物や人を運ぶだけの、無害な魔物だ。
だから、彼らがこうして殺されたり殺されかけたりするのは。
「釈然としませんな」
「シズキさん……」
「どうにか、なりませんか」
「……どの道、彼らをどうにかしないといけないね。とは言え、難しいよ」
「ええ、敵は五人で、その内二人は魔法使いです。さらに一人は防衛に長けた魔術師です」
「そして弓矢使いが一人はいる。あとの一人は剣士だね。バランスの取れたメンバーだよ」
「……」
一人は光線を放った魔法使いで、もう一人は…ああ、リードヴァーグを文字通り足止めしているのか。リードヴァーグはずっと動こうとして体を震わせているが、成果は出ていない。
「どうする。敵の居場所はわかったんだろ、一斉に凸かますか?」
「相手の力量が把握出来ていないのにそれは悪手だろう。それに敵は戦う気はなくてただ狩るだけのつもりだから、一撃必殺でもしないと逃げられると思うよ」
「面倒だな。まあ逃げるんならそれでいいが、また襲ってこられちゃたまらんな。それに二度目ともなると尚更警戒するだろうしな」
……一撃必殺か。
……うむ。
「…それならば私がやるので、協力してもらえませんか」
これは正当な報復である。
折角リードヴァーグの旅を楽しんでいたのに、よくも水を差してくれたな。
無粋な密猟者どもに目にものを見せてやろう。
そう思いながら、おれは皆の顔を見渡した。
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