第11話カウンタートラップ

二人になると、やはりカーニハン・アタックの話になり、中村がJICCへの侵入事件について話し出した。あの時盗まれた検証データは、平野が研究する量子コンピュータの実用化に向けた、重要な知見が含まれていた。JICCは平野の研究に基づいて検証を進めているが、まだ結論を得ていない。もし、平野仮説が正しく、NSAの量子コンピュータが実用レベルに達していれば、NSAの暗号解読能力を格段に高めた可能性がある。

現在のNSAでも、量子コンピュータを使っていれば、L2暗号も一か月程度で解析できるはずだが、平野の仮説を取り入れることで、数日に短縮できる可能性がある。PT4CSでの一連の攻撃を考えると、おそらくJICCから盗まれた平野のファイルは既に解読されている。中村は浮かない顔で、この深刻さがお前に分かるか、と絡んできた。


俺は、中村に負けずに深刻な顔をして、ケンのアイディアを話し始めた。今回の攻撃は、特徴的な手法が使われている。分かっていれば検出は難しくない、むしろトラップとして使える。攻撃を検出したら、ミルトスの改良で開発したサンドボックスを使う。サンドボックスではハイパーバイザの上にハイパーバイザを動かし、その上にプリマヴェーラを割り当てる。通常は、プリマヴェーラから見た2階層下はCPUだが、サンドボックスではCPUを模した特製ハイパーバイザが動いている。これを使い攻撃をモニタし、偽の暗号鍵と偽のデータを掴ませることも出来るはずだ。

しかし、と俺はつづけた。このトラップを実装するためには、大規模な検証に加えて、中村や平野の協力が不可欠だ。こんな難しいことを頼むのは誠にすまないのだが、と言ったとこで中村が大笑いを始めた。そして、一泡吹かせる前に一泡吹こうぜ、と言うと、お気に入りのシャンパンを注文した。

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