第5話サンドボックス

翌朝、イル・マニフィコのオフィスでブリーフィングを行い、事件の概要を話した。そして、短い開発期間を詫びながら、ケンにミルトスの修正を依頼した。ケンは快く引き受け、今日中には出来る、と言ってくれた。そして、面白い考えがある、と続けた。

ケンのポイントは、生体認証を厳密にした際に、正規の利用者に危害が及ぶ可能性だ。悪くすると殺されるかもしれない。これを避けるため、不正な認証と判断した際には、認証をエラーとせず、サンドボックスと呼ばれるダミーのシステムを割り当て、本来のシステムを守りながら、攻撃者の動きを観測する。

確かに面白い考え方だし、応用範囲も広い。ケンに礼を言いながら、是非進めてくれと、肩を叩いた。


ブリーフィングを終え、中村にケンの提案を伝えたところ、中村も気に入ってくれた。そして、気になっていたJICCでの責任問題は、 “大変だった!”らしいが、うまく乗り切ったようだ。

幹部への報告会で、事件の経緯を説明し、盗まれたデータは高度な暗号で保護されている事、侵入の原因を把握し合理的な対策の目途が立っている事を報告した。大方の幹部は好意的だったが、それでも責任問題をネチネチ言ってくる幹部がいた。中村が、これ以上のやり方があるなら言ってみろ、と怒鳴ったところで、理事長が笑いながらとりなし、むしろ手本にすべきベストプラクティスだ、と発言したところで勝負がついたらしい。

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