第6話暗号の方程式/政府推奨クラウド

2021年9月、中村から、実証事件の結果も良好だから、そろそろ大規模なサービス展開を考えてはどうかと提案があった。そしてMO-AADOでは通りが悪いので、なにか名前を付けろと言われた。俺はMO-AADOは、2001年宇宙の旅に出てくるHALより優れているので、NATSUと名付けたいと言ったが、誰の賛同も得られなかった。

春をキーワードに調べてみると、ルネサンスの画家、ボッティチェリのプリマヴェーラが出てきた。絵の内容もMO-AADOの基本設計にあっている。俺がプリマヴェーラを提案すると誰の反対も無く、MO-AADOはプリマヴェーラと名付けられた。


中村が押してくれた事もあり、プリマヴェーラは政府推奨クラウドの候補となった。政府調達リストに載るのは良いが、昨年取得したJaRAM認証に加えて、政府のセキュリティを統括するNCSC(National Cyber Security Center )の、NCSC Penetration Test for Cloud Service、通称PT4CSと呼ばれるセキュリティ検証が義務付けられる。

せっかくJaRAMをとっても、また作業をしなくてはならない、こんなに面倒なら政府機関に入れなくてもいい、と中村に食って掛かったが、JaRAMは監査だが、PT4CSは文字通り侵入検査で意味が違う、いいから受けろ、と説得され渋々受けることにした


2021年11月初旬、PT4CSの事前打ち合わせにNCSCに出向くと、セキュリティ補佐官に就任した尾上と彼のチームメンバーに加え、ナイジェルという日系人も参加した。NCSCの特任コンサルタントで、米国政府機関や国防総省でのノウハウを活かすためPT4CSを担当しているとのことだ。

事前打ち合わせは、尾上の仕切で始まり、ほとんどの時間をナイジェルが喋り続けた。少し妙な、感覚的には素人臭い質問を織り交ぜながら検証手順を説明する。そして、最後に検証プラットフォームの指定があった。指定されたのはクラウド最大手GCN(General Cloud Network)が日本で展開する、公共機関向けのクラウドサービスGCN GovCloud-JP、通称GGCJPだ。GCNはプリマヴェーラの主要なプラットフォームで、GGCJPは政府推奨クラウドで最大のシェアを持っている。評価用プラットフォームとして良い選択だろう。

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