第2話 最初の敵は風使いの男


「俺が一番許せないのは、異世界転生者だ」

青色の膝までのロングジャケットを着た青年が言った。

「何故だ?」

隣に座る、無精髭を生やした男が質問した。

「あいつらは異世界転生する際に、神か、誰か知らんやつに与えられた能力をさも己の力だと言い、俺たちの世界で暴れまわる」

男の眼には怒りがあった。

「それは、この世界がそいつらの助けを必要としているからだろう」


そのとおり、神はこちらの世界の人材では魔王を倒せないから、そのための助けを呼ぶ。

ならどうして、俺たちにその力をくれない?

この世界の人間では適性がないと言われるから?ではなぜ、それを生み出した神はこちらの人間へ適性を持たせなかった?


答えは一つだ。

「遊ばれてるんだよ」

「は?」

「俺たちは神に遊ばれてるんだよ!そうじゃなきゃ、こんなのおかしいだろ。」

「遊ばれてる云々は置いておいて、それでも転生者は力を持ってるやつらだ、共闘して魔王を倒せば」


「違う、それならなぜ、やつらは俺たちから全てを奪う。栄誉や、職は奴らが来てから全て奴らのものだ!そして、中には俺たちが必死になって集めた道具を奪うやつもいる!」

「奪うやつは極一部だ。今日のお前は変だぞ、いきなりどうしたんだよ、お前は栄誉なんて欲するやつではなかっただろ」

そうだ。栄誉なんて、いらない。

だがそれをやつらが他者からもらった異能で手にするのが腹ただしくて仕方ない。

「すまない。今日はそんな話をしたかったわけじゃ無かった。結論だけ言う。エギレド。俺とパーティー解散してくれ。俺は転生者を倒しに行く」


エギレドと呼ばれた武将髭の男はふむと頷き答えた。

「そうかチナメのことを......。なら儂もついて行こう。どうせお前意外、儂を仲間にはしてくれぬだろう。儂みたいな老いた死に損ないなぞ、どこも必要にしておらぬ。それにだ、普通の転生者は倒さないが、極一部のやつらは儂も腹ただしくて仕方ない」

エギレドは最初のパーティーメンバーで最後まで付いてきてくれていた。そしてこれからも付いていくと言ってくれた。


「エギレド、俺は全ての異世界転生者を憎むわけではない。ただ。その力を自慢するやつが...... いや。全てだな。あいつらは皆自慢する。俺は全ての異世界転生者を、エギレドは極一部の異世界転生者ってことで。さあ、やろうか。俺たちの力を見せよう」

「ああ。これからも頼むぞ、サクヤ。それとだ、お前が憎むならそいつは儂の敵だ」

サクヤはその言葉に少し驚いたが、すぐにありがとうと答えた。


サクヤと呼ばれた、青ジャケットに紺色の髪の青年はこの日から、転生者狩りとして、名を広げることになる。


ーーーーーー




「 それで早速だが、一人目の相手はこいつだ。風使いのリュウヤ。狩人たちによると鳥たちを狩り尽くして高額で販売してるみたいだ」

サクヤは机の上に一人の男の顔の描かれた紙を置いた。


「それはただの生活のためにやってることなんじゃないか?」

エギレドは何故その人を倒す必要があるのだと感じそう答えた。

「いやダメだ!たとえ生活のためであろうと、そこには狩人たちの仕事があったはずだ。最近は狩人たちの仕事が減ってきていると聞く。そんな時に全ての獲物を取り尽くすなど、万死に値する!それに今までの3倍の値段で販売など、市民の生活にも影響を及ぼす。鳥肉を貴族の食材にでもグレードアップしようって言うのか?」

「そ、そうか。そうなのか?」

エギレドは疑問を頭の中で吹き飛ばし、ここは割り切るしかないと決めた。


「なら、まずはそいつを探すところからだな」

サクヤとエギレドは部屋を出て階段を降りた。


サクヤとエギレドは街のはずれにあるギルド【アイアンメイツ】のメンバーだ。

住処はギルドの2階にあるメンバールームを使っている。メンバールームには大部屋が1つと小部屋が4つあり、メンバー各自が住むには十分な場所である。


「サクヤ。どこへ行く?」

紅い髪の女性ルチカがサクヤへ声をかけた。

「団長?今からちょっと用事だから出てくるよ」

ルチカはこのギルドの団長であり、ギルドナンバー2の実力の持ち主だ。

「なんだ。お前も出て行くのかと思って心配したよ。ギルドメンバーがここ最近減ってるので団長としては精神的に辛い。サクヤとエギレドは離れないでくれよ」


「わかっているさ、じゃ、行ってくるよ」

サクヤはそう言うとギルドを出た。

「行ってきます」

「エギレド、サクヤを頼むぞ」

エギレドはルチカの前に膝を落として

「仰せのままに」

そう言って、ギルドを出た。

「何を企んでいるんだ。私に秘密とは怖いな」

ルチカは一人アイアンメイツの住居にてレイピアを抜いた。

「私の子達に手を出したら殺す。ふふふ」

そう言ってレイピアでライ・チナメの名前の書かれた、メンバープレートを砕いた。

「そうだったな。忘れていたよ。こいつはもうメンバーでは無かった」


ーーーーーー


昼の街は賑やかで色々な人や種族が行き交っている。

この世界では種族差別というものはあまり存在しない。

あるといえば魔族差別くらいだろう。


この街は王都から遠く離れたいわば田舎の街である。


俺達ギルド【アイアンメイツ】は魔王戦に敗北した直後生きていることを国王が隠蔽した。

魔王に勇者一行が負けたとあれば国中が大騒ぎになるだろう。

その事を気にした国王によりアイアンメイツメンバーは各田舎町に追放された。


そしてそのことを皆は【逃げた勇者】と話している。

魔王討伐を目前にし彼等は逃げたということになってしまっていた。


そもそも魔王との力の差は歴然だった。

魔王のレベルは2586だったのだ。

俺達アイアンメイツの平均レベルは800位だ。

800付近のレベルのメンバーが4人ずつ3パーティーでチームを組んで戦っても蚊同然だった。

魔王は椅子から立ち上がることなく、俺達を一蹴しこう言った。


「まだ早い。お主らには期待しておる。我を楽しませよ」

そう言って魔王は魔法により俺達アイアンメイツメンバーを、王国の国王の間へワープさせた。

このことが意味することは魔王はいつでも俺達の国を滅ぼせるということだ。


それからだ。神達がこぞって異世界から人を呼び始めたのは。


「エギレドー。リュウヤの情報どれだけ集まってるんだ?」

サクヤは街の通りで買った、みたらし団子を食べながら歩いていた。

異世界の食べ物が流行ってからはほとんどの店が異世界料理へシフトしていった。

実際これが美味しいから困る。

実に美味である。


「サクヤよ、食べ歩きは関心せぬ。リュウヤは昼の鳥狩りに出ているところではないか?この街の周辺に丁度、正午を過ぎた頃に現れる鳥が存在すると聞くからな」

「食べ歩きは文化だ!て?正午過ぎに狩りにだと?急げ!今なら倒せるぞ!」

サクヤはみたらし団子を食べ終えた串を、近くのゴミ箱へ放り込み走っていった。


「まったく。リーダーよ少し落ち着け」

最近はクエストが異世界人に取り尽くされて、溜まるものがあったのだろう。

ストレス発散もあるのか、今のサクヤは周りが見えていなかった。

「儂が手助けするか」

エギレドは片手に持っていたサンドイッチを口に放り込み、サクヤを追った。


ーーーーーー


街を出ると異様な風が吹いているところを見つけた。

「あいつがそうだろうな」

狩人達は最近狩りに出ても獲物を取られるので、体力の無駄だと言って引きこもっている。

そのためこんな昼間の時間に草原で鳥を狩っているあいつがリュウヤだろう。


サクヤが殴り込みにいった。



「おい!風野郎!鳥を狩りすぎだよ!」

サクヤが暴言をとばしそれをリュウヤはただ見ている。

「君は誰だ?俺は鳥を狩って街で売っているだけだが?悪いことがあるのか?」

「お前さぁ。街にはそれを専門にしてるハンターさんもいるわけよ。わかる?仕事がなくなるの!お前は力持ってるなら魔物狩って稼げよな」

「嫌だよ。魔物とか死ぬ可能性あるし、これは楽なんだよ、死ぬ可能性ないし、安定して稼げるし」

「あっそ。じゃ、力で分からせるか」

サクヤがそういうと

「いいの?俺結構強いけど」と自信満々の笑顔でリュウヤは返した。

拳技けんぎ龍光りゅうこう脚技きゃくぎ迅脚じんきゃく

サクヤは拳に紫電の雷光を纏い、脚が青く光り、一瞬にしてリュウヤまでの距離を詰め、リュウヤの腹目掛け拳を振り抜いた。


「風よ守れ!」

リュウヤがそう言うと周囲の風が盾の形となり拳を防いだ。

頑丈な盾だな!

風を源にしてやがるから無限の盾って訳か。


「風よ!吹き飛ばしなさい!」

リュウヤがそう言うと盾が消え暴風が吹いた。

「いってええええええ!」


サクヤの体が宙に投げられた。

異能【 風神 】

たしか風属性の風見師がレベル500になったら習得できるスキルだっけか。

身の丈にあったスキルを使えよな。

スキル 風牙は風神を習得するまでに得られるスキルだ。


風を自由自在に操る力の応用スキル。

風を牙のように鋭く一箇所に集め、強度を上げ貫通性能を上げ撃ち放つスキル。

風見師レベル450で習得可能スキル。


そんなスキルをレベル100にも言ってない小僧が使えるのだから神様の考えはおかしい。


「サクヤ大丈夫か?」


エギレドに手を差し出され、手を取り起き上がった。

エギレドは後衛担当の妨害専門だ。

よって前衛は俺が担当することになる。しかし隣にエギレドがいるってことは。

「すごく飛んだなこれ」

先程まで戦っていた場所より50メートルは飛ばされていた。


風属性耐性の装備と、風属性耐性魔法により、ダメージは少ないが吹き飛ばされることに関しては耐性は無く飛ばされる。

地面への落下への耐性もないので、瞬時にスキル【 浮遊 】を発動させ身体へのダメージを減らすのを忘れると大打撃だ。


風属性を使うと聞いていたから装備を風属性対策へ変えていて正解だった。

ちなみに装備とは服装やアクセサリーのことであり、着たり付けたりするだけで効果を得られるのだ。

「無事ならいいが、準備は出来ている。やる かね?」

エギレドの口が悪くつり上がる。

「任せた。俺はもう一度撃ち込んでくるよ」

「任された、殺られるなよ?」

「おう!」

サクヤは地を蹴り、駆け出した。

風を操る異能力者 リュウヤ。身に纏う緑色のローブは、遠距離魔法強化系のローブの一種であろう。

左手に杖のデザインは白塗りの杖。

あのタイプは白夜の杖に似ているな。白夜の杖の効果はたしかこれも遠距離魔法効果増量だった気がするな。距離を詰めて戦うのが吉と見た。

というか白夜の杖なんて高レアドロップをなんでこんな奴が持ってるんですかね。


「お主はスキルを使い空の獲物を根こそぎ奪って、売って金にした罪だそうだよ?」

エギレドが念のためどういう経緯で狙っているのかを伝えたい。

「鳥たちはなァ!美味いから高く売れるんだぞ!それを貴様わァアアアアアアア!」

サクヤは叫び、迅脚を発動させた。

「は!?おい!ちょっと待て!俺はそんな理由で攻撃されているのか!」


リュウヤは驚きを隠せないといった顔をしていた。そしてすぐに風で盾を作った。

「そんな理由だと!お前のせいで何人のハンターが職を失ったと思っている!」

「し、知らねぇよ!ってか!お前には何もしてないだろ!」

サクヤは殴り続け、リュウヤは風の盾で己の体を守っている。

「関係なくない!俺の世界の出来事は俺の問題だ!」

「わけわかんねぇ!てかお前しつけぇよ!チェンジ、刃、風の刃よ、斬り落とせ!」

先ほどまで盾の役割をしていた、風が形を変え、刃となりサクヤの身体を貫いた。

「グッ」

風の刃がサクヤの体を防具の上から貫いていた。


「お前さ。せめて風の盾を破れるようになってから来いよ。てか盾の耐久度下がってねえし、お前弱すぎだろ」

風の刃を消し、倒れ行くサクヤにリュウヤは言った。

意識が飛ぶ。やばい。盾を変形させてのカウンターかよ。しくじった。

瞬時変形は風属性対魔師レベル500習得のスキルだぞ。

ふざけんじゃねぇ。

実際はもっと恐ろしい使い方をするためのスキルなのだが、ま、段階を踏まずに覚えたらこんなものだろう。

俺の役目はやつの動きをある程度削ぐことだ。


それさえやればエギレドがやってくれる。


「剣の一【一閃拳いっせんしょう】」

意識を必死に持続させ、サクヤは右ストレートを放った。

「まだ、意識があったのか。チェンジ、風よ我を守れ!」

だがそう叫びスキルを発動させると風が収束を始めた。

そう、刃を一度解除したからだ。

チェンジで発動させるなら風をある程度は持続して形を保つ必要がある。

この場合は回避ってのがセオリーなんだよ。

経験不足だ!


「撃ちぬけ。抜刀!」

サクヤの右ストレートが盾になりかけた風にぶつかり輝いた。

「なん...だと!?」

風で止まることなくリュウヤの腹に右ストレートが突き刺さった。


出来損ないの盾は一瞬にして風と化し、威力を殺されぬまま拳がリュウヤを撃ち抜いたのだ。

「よっし!ヒットだ!まか、せたぞ。エギ......」

サクヤはそのまま地に倒れた。

「グバッ。はぁはぁ。クソ!イテェ。腹を殴られただけだ。こんな威力があってたまるか!さっきまで盾すら破れなかったんだぞ!」

リュウヤは怒っていた。

目の前に倒れるサクヤを睨みつけ

「この死に損ないが!さっさとくたばれよ!」

リュウヤはサクヤを蹴りつけ踏みつけ、意識のないサクヤにはどうすることもできない。


「絶対にお前は殺す。ひひひ」


「どうやって殺すのですかな?」


リュウヤの後ろからおっさんが話しかけてきた。

「お前は?そうか。お前はこいつの仲間だったな、先にお前からやってやるよ!」

リュウヤは狙いをエギレドに変えた。

そして風を再び刃に変えエギレドを貫ぬかんと放った。

エギレドの体に風の刃が突き刺さった。

「はて。涼しい風が吹きましたが、お腹を冷やされると風邪をひいてしまいますので、どうか別の場所でお願いしたいのですが?」

しかしエギレドはダメージを受けた様子はなくピンピンとし、冗談を言って返した。


「なんだと?刃よ!貫け!」


ダメージが無いことに、驚きリュウヤは何度も何度も繰り返した。

何度刃を撃ち込んでもエギレドは後退どころか、前進をしてきた。


「お、おい!なんだよ。なんだよ!それ!なんで風が効かない?待てよおい」

「おじさんをナメるなよ?若造が」

「くそ!風よ!盾だ!盾!俺を守れ!」

刃となっていた風はリュウヤのその声に反応し盾に変わった。


「そのような紙で儂を止めるとでも?」

エギレドが盾を指で触ると盾は消えた。

「なんなんだ...よ。」

動揺するリュウヤの腹にエギレドは両手を添え


【 ガン・テイト】


エギレドの手から魔力が撃ち放たれた。

0距離レンジの必殺スキル【ガン・テイト】の一撃がリュウヤを地に落とした。


「殺してはいない。反省せよ。売るなら通常額、狩るのはハンター達と話し合え。それだけだ」


「ぁ、、、」


リュウヤは何も言えずそこで意識が消えた。


「未熟過ぎるぞ。己の足元への注意が足りていない」

リュウヤの足首には緑色の輪が光っていた。

エギレドのスキル【緑の網】である。

緑色のバインドスキルは敵の火力を減らす効果を持つ。


「ま、2対1で戦ったのは悪かったと思っておるよではな」


エギレドはサクヤを担ぎ街へ帰った。




『 第1章 風使いの転生者編 』完


「いやだからさ!俺の扱いどうなってんの?また負けてるよ?ねえ!ルチカ!」

あいも変わらず、ギルドのカウンターで飯を食べながら、カウンター内にいるルチカに文句を言う俺。


「いいじゃない。その方が主人公っぽい」

ルチカはサクヤこと俺を主人公に選び、物語を展開していくと決め、俺はルチカの物語の中で何ともまあ格下にボロ負けしているのだ。

「主人公っぽいってなんだよ。それにな、絡みに行く理由が雑すぎる!もっと考えられなかったのか?なんだ狩生から文句が出てるって、狩生は狩に出ても成果が得られないなら出ない方がマシと家にいるだ?フザケンナ!仕事舐めんなって話だ」


「いやぁその辺はさあ。序章があまりにも人気で続編を早く出せと、手紙がいっぱい届いたから、何となくで?」

テヘと可愛く舌を出し誤魔化そうとするが、俺からしたらそこをもっとしっかり考えなくていいのだろうか。と思ってしまう。

「サクヤよ。ちなみに狩人のその辺の理由は真実じゃよ?聞き込みで得た情報を元にルチカ様は書いておられる」

コーヒーを口に入れ、ふうといっぷくをするお爺さんエギレド。

エギレドはここ最近、ルチカに引っ張られて色々歩き回っていると思ったらそう言うことだったのか。


うん?待て待て!それが真実ならここの町の狩人終わってねーか?

「一大事じゃねーか!」

「うっさい!その辺は調整するわよ」

「調整するって?何?」


「まあ楽しみにしていなさい」

ルチカの微笑みに俺は不安しかなかった。

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