異世界転生者と戦う者
吉野 龍馬
第1話 決意を決めた男
一人の青年が雷光の如き速さで敵を攻撃していた。
青年の名前はサクヤ。青色のジャケット(近接型魔術服)を着ており、その通り拳で戦う魔術師だ。
別の一人の男が青色に光る紐で敵を捕まえようと動いていた。
この無精髭をはやし、手から色々な色の魔術で作り出した紐を操るのがエギレド。
サクヤとエギレドは冒険者パーティーである。
だが敵はそれを受け止め、はね返し、切り落とした。
敵の名は、ハルマ 異世界からの転生者で能力付与者だ。
能力付与者とは、こちらの世界に来る際に神から恩恵を受けこちらの世界に来たもののことである。
「 お前らみたいなチンピラが俺は嫌いなんだよ」
そのハルマは2人の男を睨みつけ、そう言い放ったのち、剣を振った。
サクヤはそれを拳で弾き返し、エギレドに撤退の合図を出すと、エギレドが煙幕弾を投げつけ、その隙に逃げることに成功した。
サクヤの拳からは血が出ていた。
「強すぎだよ、あいつ!こっちの最大防御で弾き返したのに、斬撃が貫通してきやがった。あいつのレベルがあと少し高かったら拳から腕を両断されるとこだった」
サクヤは拳を布で縛り、止血をした。
「だからお前は無茶しすぎだ!転生者狩りなんて成功しないことの方が多い、下手すれば死ぬんだぞ?」
エギレドは心配そうに言った。
「悪い悪い、あいつになら勝てると思ったんだがなあ」
「甘く見過ぎだ、ほら喋ってないで、逃げるぞ、追跡とかされたら困るのは俺たちだ」
「りょーかい」
男たちは拠点とする基地まで全力で走った。
ーーーーーー
【3ヶ月前】
「 チナ?どうしたんだ?」
青色のジャケットの青年サクヤは、椅子に座り俯き続けている女に話しかけた。
ライ・チナメ
茶色の髪の毛の武闘家職の女の子。サクヤと共に同じパーティーで前衛を務めるメンバーだ。
「サクヤ......。私はもう。嫌」
サクヤは青色のジャケットを脱ぎ、それを椅子にかけ、チナメの隣に座った。
「チナ。あれはお前もわかってると思うが、全ての異世界転生者のやつらが悪いんじゃない。悪いのはあいつらと、この世界が悪いんだ」
サクヤ達のパーティは異世界転生者達に襲われ道具を根こそぎ盗まれた。
異世界転生者達はこちらの世界に転生する際に、神より恩恵をもらい、その特殊能力で俺たち、こちらの世界の人たちから道具を盗んだり、職を盗んだりしている。
職を盗むというのは結果論だがそのスキルでより良い品質の武器を作れば、客はそちらに流れるから、職を盗むとこちらの世界の人は言っている。
だが。
「あいつらは、たまたまだ。な。わかってるだろ、俺たちを助けてくれる異世界転生者もいるんだよ」
全ての異世界転生者がそうであるわけではない。一部のやつらが悪事を働く。
「サクヤ......。それ本気で言ってるの?」
チナの目には怒りと涙が浮かんでいた。
「え?あ、あぁ。本気だ」
サクヤは目を逸らしそう答えた。
「そう。わかったわ。私。パーティー抜けるね。今までありがとう」
「な!?なんでだよ!おい!チナ!いきなりどうしてだよ!」
椅子から立ち上がり、その場を去ろうとする、チナを呼び止めた。
何故、今の会話の流れでパーティーを抜けるという話になるんだ。
「本当にわからないの?サクヤ!私たち。この世界で最強と謳われたチームなのよ!それが何よ。異世界転生者なんてのが来てから、チームの名前すら噂されなくなる。依頼だってこなくなる。私たちが下位の依頼を受けるなんてありえなかった!そうしないと生活もロクに送れないなんてありえない!」
「いや......それは......。俺たちが弱い......?から、で」
サクヤは必死に言葉を捻り出した。
実際その通りだった。
異世界転生者が来る前は、俺たちはこの世界で魔王討伐に一番近いとまで言われていた。
その結果、魔王に敗北し、王都を追放され、それでも俺達は世界のために戦うと誓い、レベルを上げ力をつけていた。
だが。
それが変わったのは1ヶ月前、パーティーメンバーが一人このチームから移籍した。
異世界転生者の脅しにより、そいつはそうせざるを得なかった。
その時はわからなかったが、後々調べてみると、わかったことだ。
『 お前が俺たちのパーティーには入らなければ、お前のパーティーは皆殺しだ』と書かれた紙がそいつの部屋から出てきた。
神から能力や神武具を貰う、だから。その脅しが成立してしまった。
移籍したやつは12英雄ではなく、俺達がこの街に来て募集しをかけて参加してくれたやっだった。あいつは強かった。
でもそれ以上に......転生者らは強い。
そして考えた末、俺達に迷惑がかかると考えパーティー抜けたのだろう。
「私たちは強いわよ!」
全力の拳がサクヤの腹に突き刺さった。
チナの怒りの拳によりサクヤは立っていることができなかった。
「ぐッ」
「サクヤ。ほんとに、あなた。最低ね。私たちが最も愛したこのチームを弱いというなんてありえないわ」
腹を抱え地に伏したサクヤを見下げる、チナメの瞳は冷え切っていた。
それから数日後、チナメが異世界人と戦い、敗北した。その後のことはわからなくなった。
ただ、朝起きた時
『 元世界最強武闘家敗北 』と書かれていた新聞の記事を見てそれがわかった。それまで俺はあの子を探そうともしなかった。仕方ないと思っていたから。
チナメは異世界転生者に徹底的に勝負を挑んでいたらしい。
俺はどうすればよかったんだよ。
そうだ。恨むことにしよう。
俺から大切な何かを奪った貴様らを。
それが俺の役目だ。
俺は復讐者として生きよう。
それしか俺にできそうなことはない。
『悲劇の英雄譚 序章』完
「てな具合でどうよ?」
ギルドの受付カウンターにて、俺とエギレド、ルチカはとある紙を見ていた。
我らが団長ルチカが変な事をまた思いついたそうだ。
ちなみに先程まで語られていたモノローグは、チナメが考えた物語での話だ。
ああでも真実もある。異世界から来た連中に仕事奪われたやら、魔王にやられたやら、チナメが勝手に転生者で力試しして負けたのやらは本当だが、俺達が元英雄というのも本当だが、謎の悲劇設定は嘘だ。
何故こんな話を作っているかというと、ギルドに人が来ない。異世界転生組が強過ぎて仕事来ない。
元英雄なんて言われてるけど、仕事無いよ?
野垂れ死ぬ?
「いや異世界転生者倒せばよくない?」
とノリで言ったが最後、ルチカは真に受けてしまい、そのノリで物語を考えて街に流して、悲劇の主人公ポジションを得ようと企んでいるのだ。
「アホか!俺ら飛んだ無能連中になってるじゃねーか!ハルマって誰だよ!俺とエギレドがやられるってありえないだろ!」
仮にも元英雄である俺らが、そうも簡単にまけてたまるか。
「ん、嫌々物語的に最初から勝ってたら詰まらないでしょ。何言ってのサクヤあんたバカなの?」
「バカとはなんだ!バカとは!」
「もうその返答がバカっぽいわ。とりあえずこれで序章は公開するから、ギルド新聞として売り出すわよ」
ルチカはそう言って、ギルドを出て行った。
きっと最近異世界から持ち込まれた文化、
「エギレドはアレでいいのかよ。あいつアレでも一応元お嬢様だぞ?」
「それ故にじゃな。物語に憧れて英雄になった。次は物語を作る立場になりたいと言っておったからの」
俺の隣に座る老人はエギレド。先の物語でも登場していたが、現在のこのギルド【鉄の掟】におけるメンバーだ。
ちなみにメンバーは物語通り、俺とエギレド、ルチカしかいない。
それにギルドは今季限りで辞めると団長が言っていたので、メンバー募集もしていない。
それ故か暇な時間を持て余した団長が、物語を書き始めてしまったのだ。
それも異世界転生者否定物。彼等が読んだら何というやら。
早々に飽きる事を願うばかりだ。
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