第51話 (番外)美夜ちゃん②

 それからはことある事に高城くんがわたしの横にいた。いつも一緒にいるので、みんな、変に空気を読んで近づかない。

「どうしたの? 何か飲む? 取ってこようか?」

「先輩、自分が行きますから美夜、よろしくぅー」

 コンパというと確実にいつも以上にコミュニケーション能力が上がる「ちー」が、ふうちゃんを置いていってしまう。風ちゃんは風ちゃんで、大人しすぎて損をするタイプだ。かわいいのに、大人しそうだから男子は声をかけられない。


「香川さん、肌寒くない?」

「しっかり着て来ましたから」

「そう、じゃあ大丈夫だね」

 ……何かがいつもわたしの欲するものと違う。この人の感度は絶対鈍い。


「香川さん、小鳥遊たかなしさんは大丈夫?」

 心配そうな顔をして駆けつけたのは、クラスでつき合うなら、コイツにしようと思ってた、小清水啓太郎こしみずけいたろうだった。さっきまで先輩たちに遊ばれてたのに……そうか、風ちゃんを狙ってたのか。


「深見さんも向こうで盛り上がってるから」

 ちーは、戻ってきそうにない。

「風ちゃん、遅くなってきたから帰ろうか?」

「でも……高城先輩もいるし、わたし一人で帰るよ」

「最近は構内にも不審者出るしね」

「だから、ぼく、送ります。小鳥遊さん、駅まで送るよ」

 小清水、押してるなー。風ちゃんは鈍すぎるから、これは難関だなぁ。


「僕と香川さんと小鳥遊さんで、駅まで帰ろう。僕はどうせ飲めないから、いつまでもいても仕方ないしね」

 よっこらしょ、と両膝に手をついて、(この辺がジジくさい。年はひとつ上なのに)、

「小鳥遊さん、香川さんも帰るって。危ないから一緒に行こう」

 風ちゃんは最初、戸惑っていたけれど、縦に首を振った。

「小鳥遊さん、オレ、送るよ」

「小清水ー、こっち来いよ!」

 かわいそうに小清水は、粉砕した。


「すみません、先輩と美夜ちゃんの邪魔する気はなくて……」

「全然、邪魔じゃないよ?」

「そうそう、わたしは風ちゃんといっしょでうれしいけど」

 いつも、何かと言うと先輩が一緒では、男は寄ってくるわけもない。

 わたしたちはたわいないお喋りをして構内を抜け、駅で分かれた。……奇しくも風だけ、上り電車。


 下り列車もそろそろ来るはず、ときょろきょろしていると、掲示板が電車の到着を告げる。わたしはいつも計画的と言われるけど、実はせっかちなのだ。

「焦らなくてももう来るよ」

 何の気なしにそっと手を繋がれ、ホームに着いた列車に乗る。

「……先輩、手を繋いでる気がするんですが……」

「うん」

 不覚にも顔が赤くなってくる。


 今までにも誰かとつき合った経験はあるし、手も繋いだし、キスもしたことがあるのに。……それはどこかの誰かの話で、わたしと先輩の話ではなかったらしい。

「ずっと、知り合ったときから、君のことを特別な女の子として扱ってきたつもりだけど」

 列車はすぐにターミナル駅に着いてしまう。そこからは流石にバラバラだ。


「イヤだった?」

 顔を上げると、今までしつこいな、くらいに思っていた先輩の顔は端正で、その唇からわたしは告白されているのかと思うと胸が高鳴った。

「ちょっとしつこいと思いましたけど」

 わたしは笑って、先輩も笑った。

「世の中、弱肉強食でしょ? すきな子には張りついていないと……嫌われない程度にね」

「しつこくしたんですね」

「誰にも取られたくなかったんだよ」

 いつもの、少し気弱な顔で先輩は微笑んだ。


それが、わたしといつきくんの最初の話だ。

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