第24話…原因
「おはよー。ってうわ……。どうした?」
教室に入るなり、彩が恐る恐る尋ねてきた。私そんなにやばい顔しているのだろうか。
「ネオンちゃんが3匹死んじゃってた……。」
カバンを机の横に引っ掛けて、椅子に座って机に突っ伏す。自転車を漕ぎながらあれこれ考えていたけど、上手く気持ちの整理は出来なかった。
「あー……。そういう事か。」
彩は納得いったのか、それ以上は突っ込んで来なかった。
◇◇◇◇
お昼休み。朝よりは気持ちが落ち着いて、いつものように彩とご飯を食べることができた。
「なんで死んじゃったんだろうなぁ……。」
ポツリと呟いた言葉を、彩が拾ってくれた。
「こういうのはプロに相談するべきだよ。店長とか……、佑香とか。」
朝から、午前の授業中もずっと、何で死んでしまったのか考えていたけど、どうしても答えは出てこなかった。
彩の言う通り、経験豊富な人に相談するのが近道かもしれない。
このまま何もせず時間が経つと、どんどんネオンテトラが死んでしまうかもしれないから…。
「そうだね。佑香さんに相談してみる。」
スマホを取り出して、早速佑香さんにLINEを入れる。
『こんにちは。突然ごめんね。相談があるんだけど。』
直ぐに既読がついて、かわいい猫のスタンプが送られてきた。
『朝起きたら、ネオンテトラが死んじゃってたの。何か原因があるのかな…。全然分からなくて…。』
『落ちちゃったか。何匹中何匹?』
落ちちゃったと言うのは、死んじゃったって事かな?
『15匹中3匹。』
『最近水換えした?』
『先々週したよ。』
『まだ発酵式なんだっけ?』
『うん、この前作り直したばかり。』
佑香さんからの返事が止まってしまった。既読は付いてるから色々考えてくれているのかな……。と思ってたら、長文の返事がきた。
『生体が落ちちゃう理由っていっぱいあって、病気とかじゃない限り確定的なことは言えない。水質だったり、いじめられてたり、餌が上手く食べれてなかったり、環境だったり。ネオンテトラは温厚だから、いじめの線は薄いかもしれないけど、無いわけじゃない。最近暑かったから、水温が少し高かったのかもしれない。暑さのせいで発酵式のCO2が過剰に添加されて、窒息気味だったのかもしれない。』
佑香さんからの返事が続く。
『とりあえず、対応としては、落ちちゃった子は取り出してあげて。他の魚の見た目に異常が無いか観察。水質のチェックや少量の水換え。60センチなら水換えは2Lくらいずつ何日かに分けてやればいいよ。あと、CO2は夜は少し外した方がいいかもしれない。水温もチェックして、30℃超えるようなら、上部フィルターのとこに保冷剤でも置いておけばいいよ。急激に下げすぎるのも良くないから、注意して。』
さすが佑香さん。的確すぎるアドバイスを沢山くれた。
『佑香さんありがとう。ネオンちゃん突然死んじゃって、原因分からなくて落ち込んでたけど、帰ったら色々見てみる。』
『熱帯魚は突然調子崩したり、病気蔓延したりして、落ちちゃうことよくあるからね。落ち込みすぎないようにして、他の魚が調子崩す前に対応できればいいよ。がんばれ。』
最後にかわいい犬のスタンプが送られてきた。私もお礼のスタンプを返して、スマホを机に置いた。
「何とかなりそう?」
彩にも相当心配をかけてしまったと、ようやく思い至った。よほど余裕が無かったのだろう。
「うん。佑香さんが色々教えてくれた。彩も心配してくれてありがとう。他のネオンちゃんが死んじゃわないようにがんばる!」
◇◇◇◇
「あ…、水温高い。30℃超えてるじゃん……。とりあえず水を少し換えてみよう。」
学校から帰宅するなり、部屋に向かい、水槽の様子を確認した。幸い、落ちてしまった子も、調子が悪そうな子もいなさそうだ。
「よいしょ……。これくらいにしておこう。」
いつも使ってるバケツの半分くらい。だいたい3リットルくらいだろうか。一度にたくさんの水を換えると、水質の変化についていけなくて、かなり弱ってしまうらしいので、ほんの少しだけ水を換える。
「うーん、水が汚れてるとかじゃないと思うんだけどなぁ……。やっぱりCO2出過ぎかなぁ。」
最近作り替えたばかりの発酵式CO2添加装置は、結構な勢いでCO2を供給していた。気温が高い事で、イースト菌の発酵が促進されているのだろう。
「ライトがついてれば水草が光合成してくれるから大丈夫だけど、消えたら光合成出来ないもんね。酸欠になっちゃうのかなぁ……。」
でも、上部フィルターは酸素が効率的に溶かしこまれるから、エアレーションとかも不要って前に見た気がする。
「うーん。とりあえず夜はCO2止めよう。」
少し悩んで、夜にCO2添加はしない事にした。水温計を見ると、水換えで少し下がったが、まだ30℃近くある。
「保冷剤をこのあたりに置いて様子を見てみようかな。」
上部フィルターの蓋を開けたところに、カチコチに凍った小さめの保冷剤を置いておく。これで流れてきた水が保冷剤に冷やされて循環するだろう。
「へぇー、冷却ファンとかあるんだ……。扇風機でほんとに温度下がるの?」
水温をチェックしつつ、スマホで水槽用の冷却アイテムを調べる。
小さなハンディファンみたいなやつで、水面に風を送って、気化熱で温度が下がるらしい。ほんとか……?
「ん……?あ、これ……。」
私の部屋の窓際にあるカラーボックスの上に、見慣れない緑色の陶器の鉢植えが置いてあった。それは今朝、ネオンテトラを埋めた鉢植えだった。
「お母さん、鉢植えありがと。何かやってくれたの?」
「あぁ、パンジー植えたから、水やってね。芽が出るまでは土が乾かないように霧吹きで。芽が出たら、土が乾いてから多めに水をあげること。」
水が入った霧吹きを渡された。鉢植えの近くに置いておけということだろう。
「分かった。しっかり面倒見てお花咲かせる。」
死んでしまったネオンテトラの供養というわけじゃないけれど、今度はしっかり様子を観察しながら、育てあげようと決心した。
「お水上げすぎたらダメだからねー!」
気合いが入りすぎていると見えたのか、階段を上り始めた私に、お母さんの声が届いた。
「気をつけるー!」
手をかけなさ過ぎるのはもちろんダメだが、手をかけすぎてもダメという。それは植物も熱帯魚も同じなのだろう。
生き物を育てるって難しいなと思いつつ、スマホでパンジーの育て方を検索する。
もっと頑張ろうと心に誓った。
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