第22話…アカムシって虫?

 今日はお客さんが何人か居て、アロワナを見ている小さい子供を連れたお父さんや、国産グッピーをじっくりと観察しているおじさんが居た。

 私達はメダカコーナーから水草コーナーに移動した。彩と佑香さんはマツモを見に行き、私と美斗さんはウィローモスを見に来た。


「ウィローモスってこんなふうにパックに入ってるんだね。」


 私は大きなゼリー容器のようなパックに満杯に詰められたウィローモスを手に取る。


「えぇ、ウィローモスは植えられませんから。でもほら、流木に活着させたやつもありますよ。」


 美斗さんが大きな水槽を指で示す。その先には、緑の苔のようなものがくっついた小さな流木があった。


「へぇー、小さいのもかわいいね。」


「これは普通のウィローモス。こっちは南米ウィローモスですね。」


 濃い緑色のやつと、明るめで黄緑に近いやつ。黄緑っぽいやつは、葉が三角形になっており、いくつもの三角形が重なり、幾何学模様のような体を成している。


「南米ウィローモス凄く綺麗だね。色も明るいし。」


「そうなんです。そこがメリットでもありデメリットでもあるんですが。」


 美斗さんによると、使い方によっては南米ウィローモスは明るすぎることがあると言う。


「例えば、メインに据えたい水草があるとします。流木を周りに配置して、ウィローモスを活着させるとした場合、南米は明るすぎて逆に目立ってしまうんです。存在感がありすぎると言ってもいいかもしれませんね。」


 なるほど。確かにその通りだった。普通のウィローモスと南米ウィローモス。2つ並んでる今だから、美斗さんの言っている意味がよく理解できた。


「そう言われてみると、確かに使い方が難しそう…。」


「南米ウィローモスはとても綺麗なんですけどね。とりあえず普通のウィローモスを使うのをオススメします。」


 私はウィローモスがたっぷり詰められたパックを手に取る。


「これ、かなり多いよね?」


「多いですね。私と彩さんが選んだ流木にくっつけてちょうどいいくらいの量です。」


 うーむ、どうしよう。こんなにあっても正直困る。


「浅野さんに言えば減らしてくれますよ。」


 美斗さんがにっこりと笑う。ほんとにここは良心的なお店だ。



◇◇◇◇



 店長さんにお願いして、ウィローモスを半分くらいに減らしてもらった。もちろん値段も半分だ。


「これは流木に糸で巻いて固定すればいいの?」


「そうですね。まず、ウィローモスをハサミでざく切りにしてから、流木に敷いて、糸でしっかりと巻き付けていきます。余分な所をカットしたら完成ですよ。」


「え、ざく切り?」


 水草の処理とは思えない単語が出てきたので、思わず聞き返してしまった。


「はい。だいたい1cmくらいですかね。細かくていいですよ。切ったところから新芽が出てくるので。活着させた後も、頻繁にトリミングをした方が密になって綺麗になります。」


 美斗さんが教えてくれたことをスマホにメモしていく。トリミングかぁ、やっぱりハサミは必須だな。


「お、千草は何買うの?あー、さっき話してたヤツだ。」


 彩が佑香さんと一緒にやってきて、私が持っているケースを見て笑った。


「彩はマツモだっけ?」


「うん、マツモと、あとやっぱりミクロソリウムも買うことにした。」


 マツモだけだとレイアウトがねー。と楽しげに話す彩。

 彩はどんな水槽を作るのだろう。私も楽しみになる。


「美斗さんと佑香さんは何か買わないの?」


 流木を漁ってからは特に買い物の素振りを見せない美斗さんと、淡々と彩の買い物に付き合っていた佑香さんに聞いてみる。


「私は今日は流木だけですね。新しいレイアウトを考え中なので、いろいろ水草を見て構想を練ってる感じです。」


「あたしは赤虫買って帰るよ。」


 アカムシ?って何?虫?よっぽど私が変な顔をしていたのか、佑香さんが説明してくれる。


「赤虫は魚の餌だよ。」


 こっちこっちと機材コーナーの方に戻る佑香さんについて行く。

 機材コーナーの端っこに、白い大きな箱があった。今まで気が付かなかったけど、これは冷凍庫だ。

 佑香さんが冷凍庫を開けて、中を見せてくれた。


「ここに冷凍の餌が入ってるの。これは赤虫、これはブラインシュリンプ、こっちはディスカスバーグ。ほら、大型魚用の小魚も。」


 ひょいひょいと手に取りながら教えてくれる。私が理解出来たのは小魚という単語だけだ。


「赤虫というのはユスリカの幼虫ですよ。小型から中型魚の栄養価の高いご飯になります。」


「へぇー、って虫っ?!えぇ…、それって必ずあげた方がいいの?私今はフレークの餌しかあげてないけど…。」


 栄養価の高い餌というなら、大切なネオンちゃんの為に買ってあげたいと思った。虫は嫌だけど。


「必須じゃ無いよ。基本的にはフレークで充分だし。赤虫とかは栄養価が高すぎるから、あげすぎるのも良くない。たまにあげたり、育ちが悪い個体にあげたりしてるよ。」


「なるほど…。とりあえずまだいいかぁ。」


 お金も無いし、今のところフレークで上手くいってるみたいだから、赤虫は買わないでおく。虫だから少し嫌だし。

 あれやこれやと手を出しすぎるとお金がいくらあっても足りなくなってしまう。


「これ、冷凍保管でしょ?家の冷凍庫にこれ入ってたらちょっと気持ち悪さあるね。」


 彩が赤虫を手に取りながら、苦笑いをする。


「あたしは最初買って帰ったとき、お母さんに見つかってめちゃくちゃ嫌な顔されたよ。」


 やれやれと言うような顔をする佑香さん。

 そりゃそうだと思った。どう見ても、見た目のいいものでは無い。赤いし、虫だし。アイスや冷凍食品と一緒に閉まっておくのはいい気分ではないだろう。


「ちなみにブラインシュリンプは稚魚の餌になるので、そのうち買うことになるかもしれませんよ。」


 ブラインシュリンプというものが小分けされたものを手に取って見せてくれた。

 赤虫ほど見た目が悪くないから、多少ハードルは低いかもしれない。


「ほんとに、いろいろあるんだねー。すごいなぁ。」


 ブラインシュリンプ。覚えておこう。ネオンテトラが増えることは無いかもしれないけど、そのうちグッピーとか飼い始めた時に必要になるかもしれない。



◇◇◇◇



「今日はありがとね。楽しかったし、色々勉強になったよ。」


「私も勉強になったよー。まだまだ知らないことたくさんあるんだなー。」


 浅野観賞魚センターからの帰り道。自転車を押しながら、彩とおしゃべりをしつつ歩く。

 美斗さんと佑香さんは家の方向が違うのでお店でお別れした。


「帰ったらメダカの水合わせして、流木洗ってレイアウト完成させないと!完成したら写真送るからね!」


「うん、楽しみにしてるよ。私もウィローモスやらないとだ。」


 帰る前に100均でトリミング用のハサミを買って行こう。今は土曜の夕方に差しかかろうとしてる頃だけど、まだまだやることがたくさんある。


「じゃ、またねー。月曜に学校で!」


「うん、またねー。水合わせ頑張ってー!」


 彩と別れて100均に向かう。ハサミとピンセットと…、あとは何か使えるもの無いかな?いろいろ見てみようと思いつつ、自転車を漕ぎ出した。

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