第21話 いろんなメダカ

「あ、これホームセンターでも売ってた。」


 私が手に取ったのはCO2添加の為のフルセットだ。もちろんこの前のホームセンターでもチェックはしていた。

 が、やはり高い。ホームセンターでも1万円は超えていた。


「うーん、やっぱり高いなぁ。」


「千草さん。正直なところ、それはオススメしませんよ。」


 美斗さんがにこにこと私の持つCO2のセットを覗き込む。フルセットだし、必要なものは全部入ってるから問題無さそうに思ってたんだけど。


「あー、それな。CO2のセットは通販で買え。チャームのやつのが全然いいぞ。」


 え、これを売ってる店長さんがそれ言うの?じゃあなぜこれを置いてるの…?


「昔はこれしか無かったんだよ。それ、ずっと売れ残り。そのうちプレミア付くかもな。はっはっは。」


 言うだけ言ってレジの方に向かっていった。たぶんタバコだろう。


「と、言うわけで。浅野さんの言う通り、チャームのやつがいいですよ。」


「わかったよ。そのうち買うことになるだろうし、買う時はそこで買う。」


 フルセットを棚に戻す。これはずっとここに鎮座し続けるのだろうか。店長さん、そのうち使ってあげてください。


「発酵式はどんな感じですか?順調に進みそうな感じでしたけど。」


 先週から私の水槽にはCO2が添加されている。お金は無いので、お手軽な発酵式のCO2添加装置を作ったのだ。

 これが結構順調に進んでいる。CO2は絶えず添加され続けているし、水草達は小さな気泡を葉から出してしっかり光合成している。


「今のところ順調かな。パールグラスがものすごい勢いで伸びてるよ。」


 CO2の添加を始めて、目に見えて変わったのはパールグラスの成長速度だ。元はそんなに背は高く無かったのに、あっという間に伸びて今は水面に届きそうなくらいだ。


「パールグラスは一気に伸びますよね。トリミングしてあげて、切った部分を植えてあげればどんどん増えますから。パールグラスの森はとても美しいです…。」


 ほわぁという効果音が出ているのではないかと言うくらい、美斗さんは恍惚としてしまった。トリミングかぁ、トリミング用のハサミとか買った方がいいのかな。


「美斗ちゃんはトリミング用のハサミどうしてるの?」


「私はいろいろ持ってますけど、一番のオススメはこれです。ADAのトリミング用ハサミ。まぁそれなりに高いですから、100均のやつで始めてもいいと思います。先がカーブしてる小さい眉毛用のやつがいいと思います。洗剤で洗ってから使ってくださいね。」


 なるほど。とりあえず100均でいいかなぁ。ちょっと今はハサミにお金をかけてる余裕はない。そうだ、ピンセットと一緒に買ってこよう。スマホにメモメモ。



◇◇◇◇



「メダカってこんなに種類いるんだね。知らなかったなー。」


 メダカが泳ぐ水槽を前にして、彩が呟く。日本産淡水魚のコーナーには、金魚をはじめ、メダカやドジョウ、タナゴなどの水槽がたくさん並んでいた。

 メダカだけで1つのコーナーを形成していると思えるくらい、メダカが種類毎に分けられ、いくつもの水槽がズラっとならんでいる。


「白、黒、青、ヒメダカ、楊貴妃あたりが初心者向け。幹之もそこまで難しくはないはず。」


 佑香さんが水槽を指差しながら説明してくれる。黒メダカが原種で、それ以外は品種改良で作り上げた品種らしい。


「メダカって白やヒメダカくらいしか知らなかっけど、こんなに種類があるんだね。この真っ黒なやつや錦鯉みたいな色のやつも綺麗だね。値段も結構するけど…。」


「えぇ、グッピーもそうですけど、メダカは品種改良しやすいので、新しい品種を作り出す楽しみというのもあるんですよ。」


 品種改良…。凄く難しそうな、上級者の楽しみ方って感じ。


「うーん、とりあえず白にしようかな。今考えてるレイアウトに合いそうだし。」


 彩は白メダカを10匹買うことにしたようだ。10匹も買えばオスメスが混ざるから、繁殖も期待できるらしい。


「水草は?」


 佑香さんが彩に尋ねる。この前のホームセンターではミクロソリウム…だっけ?それにするって話だったけど。


「ミクロソリウムのナローを流木にくっつけようかなって。」


「ミクロソリウムだけだと、産卵床にならないかも。ウィローモスも使った方がいい。」


 さんらんしょうってなんだろう。変な顔をしていたのか、美斗さんが教えてくれた。


「小学校でやったかもしれませんが、メダカは水草に卵をくっ付けるんですけど、産卵床というのは、卵を産みつけるための場所のことです。この場合は水草ですね。」


 なるほど。確かに、小学生の時にメダカの産卵について理科でやった記憶がある。教室でもメダカ飼ってたし、卵がある!って朝から大騒ぎになったような記憶がある。


「ウィローモスってどんなやつ?」


「彩さん、これがウィローモスです。流木に活着させると、こんなふうになります。」


 美斗さんが彩にスマホを渡す。彩と一緒にスマホを覗き込むと、流木に苔のような水草がまとわりついてモサモサと生い茂っていた。


「へぇー、凄いきれい。」

「うーん、ちょっとイメージに合わないかなぁ…。」


 私と彩、2人ほぼ同時に全く正反対の感想を口に出してしまった。


「私は流木は木のまま使いたいんだよね。他にオススメの産卵床無いかな?」


「それならマツモかな。馬鹿みたいに成長早いからトリミングめんどくさいけど。」


 マツモはこれ。と佑香さんが真っ黒いメダカの入った水槽を指差した。綺麗な緑色で、とても細い葉がゆらゆらとなびいており、底砂に植わっている訳じゃなくて、水中を漂っている。


「こっちの方がいいかも。これって植えていいんだよね?」


 美斗さん曰く、植えてもいいけど、根は張らないらしい。重りを付けるのがいいけど、砂で埋めてやれば何とかなると思うとのこと。本来は水中を漂わせておくものらしい。


「いろいろあるねぇ。」


 私は美斗さんの見せてくれたウィローモスが気になって気になって仕方なかった。

 今日買うものが決まったかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る