第20話 かわいい流木?

「こんにちはー。」


「おー。暑くなってきたなー。」


 ここは浅野観賞魚センター。入口付近に置かれたベンチに座って電子タバコをふかしているのは、ここの店長さん。いつも通り、サングラスをかけてエプロンをしている。


 今日は土曜日、彩の水槽立ち上げが終わり、生体を入れられるようになったので、浅野観賞魚センターにメダカを買いに来たのだ。美斗さんと佑香さんも誘ってみたら、予定は無いということだったので、今日は4人でゆっくりお話する予定だ。


「あ、美斗さん、こんにちはー。早いねー。」


 お店に入ってすぐ、しゃがみこんで流木を物色していたのは美斗さんだ。今日もゆるふわなお嬢様ちっくな服を着ている。


「あら、千草さん、こんにちは。流木を見ようと思って少し早く来たんですよ。」


「あ、彩も流木買うって言ってたよ。ホームセンター行ったんだけど、アク抜きが凄く大変そうだからここで買おうって。」


 美斗さんの隣にしゃがみこんで、適当な流木を手に取る。


「あの大きなホームセンターですか?一般的な流木はアク抜き必須ですから。浅野さんはしっかりアク抜きしてくださってるので助かりますよね。」


 美斗さんはいくつもの枝がうねって絡まった大きな流木を手に取って、うーん。と可愛く唸る。


「お、いたいた。あ、美斗ちゃんも、こんにちはー。」


 美斗さんにどんな流木を選ぶのか聞いていると、彩が入ってきた。急いできたのか、ハァハァと息が上がっている。


「彩さん、こんにちは。お久しぶりですね。水槽立ち上げられたらしいですね。」


 にっこりと笑いながら、美斗さんが彩に挨拶をする。手には大きな流木を持っている。


「そうなのー、とうとうと言うか、私も水槽立ち上げちゃったよー。これからいろいろ教えてね!」


 あははー、と笑いながら、彩が私の隣にしゃがむ。


「美斗さんも流木選んでるんだって。彩はどんな流木が欲しいの?」


 流木と一口に言っても、形は様々だ。ここには枝っぽいやつ、塊のやつ、切り株っぽいやつなどがある。たまに沈まないやつもあるらしいけど、そこは店長さんがしっかり処理してあるから、ここの流木はお手軽に使えるって、美斗さんが言っていた。


「流木ねー、どうしようかなーって、なかなかしっくり来ないんだよね。石もいいかなとか思い始めてきたよ。」


 彩はいくつか流木を手に取って、いろんな角度から眺めては元に戻す。水槽のイメージが固まっていればいるほど、流木選びは難しいと思う。しっくりくるものに出会えればラッキーだけど…。


「そうなんです…。私も、欲しい形があるんですけど、なかなか…。大きいのを切るしかないかぁ…。」


 切る?流木を切って使うの?


「え?切るの?」


 思わず声に出てしまった。


「えぇ、ノコギリでぎこぎこと。接着剤でくっつけたりして、レイアウトすることもできますよ。」


 真剣に流木を選びながら教えてくれる。この辺を切って…とかぶつぶつ言っている。


「なるほど…。接着剤は何系がいいの?」


「水に強いって書いてあるなら大丈夫だと思いますよ。私はウルトラ多用途ってやつ使ってます。」


 あー、それなら持ってるや。と言いながら、流木を手に取っては戻す作業を続ける彩。私を挟んでよく分からない会話が繰り広げられている。


「接着剤って水槽に使っていいの?お魚に影響とか出ない?」


「耐水性のものなら成分が溶けだすことはほとんど無いですし、すぐに劣化して崩れちゃうなんてことも無いと思います。固まってしまえばお魚がつついても簡単には剥がれませんし、影響はほぼ無いと思いますよ。もちろん接着剤の種類によりますけど。」


 へぇー、そうなんだ。そうなると、いろんなレイアウトが作れるかも?石を縦に積む事も出来そうだ。


「アク抜きが必要だけど、シリコンのコーキング剤も使えるぞ。というか、テラリウム界隈ではこっちの方が一般的だな。」


 外から戻ってきた店長さんが会話に入ってきた。みんな物知りだなぁ。


「へぇー、そうなんだ。調べてみようかな…。石や流木ってその辺の河原で拾ったものを入れてもいいんですか?」


「あぁ、採取場所に気をつけることと、処理をしっかりすることが必要だけどな。石はしっかり洗う、流木はアク抜きが必要だ。」


 彩の目がキラキラしてる気がする。どこかで石とか拾ってくるつもりかな?凝り性だからなぁ。


「うんうん、なんとなく見えてきた。石は今度拾ってくるから…。枝で…、ここらへんの…。お、これだ!」


 彩が流木を手に取る。少し大きめで、細い枝がうねうねと数本伸びており、枝の先は更に細い枝に分岐して、いくつも絡み合っている。すごく複雑な形の流木だ。


「彩さん、なかなか可愛らしい流木を選びましたね…。」


 美斗さんがむむむっと言う顔で呟く。その流木かわいいの?複雑な形で逆に怖い印象があるんだけど…。


「かわいいよね!このうねり具合とか堪らないと言うか…。」


 うーん、ちょっと2人の感性にはついていけないかなぁ…。



◇◇◇◇



「あっつー…。あ、みんな早いね…。」


 そうこうしているうちに、佑香さんも到着した。美斗さんと彩は流木を選び終えて、どの辺がかわいいかという話で盛り上がっている。私は全然ついていけないので佑香さんが来てくれて助かった。

 流木を店長さんに預けて、私達はショッピングを開始する。熱帯魚店という、女子高生らしからぬチョイスだが、私達はこれが楽しいのだ。

 さて、今日はどんな出会いがあるか、楽しみだな。

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