第18話 ホームセンターでお買い物

「底砂はどうするの?やっぱり大磯?」


 私と彩は今底砂のコーナーにいる。

 今まで底砂をきちんと見たことは無かったため、気にしたことが無かったが、あらためてちゃんとみると色んな種類があるのだと気づく。

 私が使っている大磯砂、粒が小さくてさらさらした川砂、水草と相性がいいらしいソイル、白くて綺麗なサンゴ砂。色も白や黒、茶色と結構豊富だ。


「ふっふっふ。実はもう決まっているのだよ。千草くん。」


何そのキャラ。

ふっふっふと変な笑いを続けながら、彩は1つの商品を持ってきた。


「黒く輝く極細砂。へぇー、こんなのあるんだね。目が細かくて黒い綺麗な砂だ。」


「キレイでしょ。私の作りたい水槽には合うかなって思って。」


彩はメダカを飼うとのことだ。佑香さんとは違って、日本のメダカをちゃんと飼ってみたいらしい。


「この真っ黒の砂でさ、メダカと流木と水草がめっちゃ映えると思うんだよねー。これ2袋だから1500円くらいかな。」


「良さそうだねー。ついでに流木も見ちゃう?」


 とりあえず機材は一通り目星をつけられた。全部で7000円くらいか。

 こうして考えると、店長さんにはかなりオマケして貰ったのだろうか。


「そうだね!流木見てから、お魚と水草見よう!」


 2人で流木コーナーに向かう。

 流木は大きさごとにケースに入れられて山積みになっている。


「めっちゃたくさんあるなぁ。小さいのも大きいのもすごい量…。」


 小さい流木を手に取ってみる。


「あれ、なんか粉々してる?」


 彩の呟きで私も気がついた。

 流木がうっすらと粉っぽい。手にも茶色い汚れのようなものが付いてしまった。


「あー、アク抜き必要なのかもしれない。」


 店長さんが言ってた事を思い出す。確かお店の流木は全部アク抜き済みだからすぐに入れられるぞって言ってた。


「アク抜きってどうやってやるんだろ。調べてみるか…。」


 彩が持っていた流木を棚に戻し、スマホを取り出して調べ始める。

 私もとりあえず流木は棚に戻す。手が少し茶色くなってしまった。


「うわっ、結構めんどくさいな。数週間水につけておくか、数時間煮沸するか、アク抜き剤を使うか。だってさ。」


 流木のアク抜きってそんなに手間がかかるんだ。知らなかった。


「店長さんのとこで買った方が良いかもね。全部アク抜き済みだって言ってたよ。」


 そうするー。と言って、彩はスマホをしまう。

 次はいよいよ生体売り場だ。お店の奥の方に向かうと、機材売り場とは全然雰囲気が異なる空間が広がっていた。


「ひろー!」


 彩の言葉に同意する。

 浅野観賞魚センターの生体コーナーのように、薄暗い空間にはいくつもの水槽が並んでいる。ただ、広さは浅野観賞魚センターの比ではないくらい広い。

 大きな水槽の中には大量の水草が整列しており、水槽の表面には1束300円とサインペンで記されている。


「店長さんのとことは雰囲気違うなぁ。なんか、量販店って感じ。いや、量販店なんだけどさ。」


 水草売り場を一通り眺める。流木付きのアヌビアスナナやウィローモスもあるし、私が買ったパールグラスやクリプトも売られていた。


「なんか、安いけど状態は…、うーん?って感じ?」


 状態が悪い訳では無い。ただ、店長さんのとこのようにキラキラしてないと言えばいいのか。初心者の私にはその程度しか分からないけども。


「んー?あぁ、CO2が添加されてないのか…。」


 じーっと水草の並んだ水槽を見つめていると、水草から小さな気泡が出ていない事に気がついた。水槽の端の方を探しても、CO2拡散機のような物は見当たらない。

 店長さんのお店は水草が入った水槽にはCO2が添加されていたけど、ホームセンターではやってないようだ。まぁコストもかかるし、そういう事なんだろう。


「なるほど…。いろいろあるんだなぁ。」


 CO2の有無が分かるようになったあたり、少しは成長しているのかなと顔がほころぶ。


「彩はどんな水草入れるの?」


「んー、流木と合わせたいから、ミクロソリウムってやつが良さそうなんだよね。あー、これこれ。ナローリーフってやつ。」


 彩が指さしたのは、流木付きのミクロソリウムナローリーフ。小さな流木には、細い葉が等間隔で生えている。


「なんかワカメみたい…。」


「あー、わかる。これはちょっとセンスないよね。」


 センスが無いときっぱり言い切る彩。お店の品と見間違うくらいのハンドメイドアクセサリーを作り上げる彩からすれば、このワカメみたいな仕上がりは落第なのだろう。


「水草も店長さんのとこで買おうかな。流木と一緒に!」


 それがいいと思う。と私も同意する。店長さんの所にミクロソリウムナローリーフってやつがあったかは分からないけど。


「魚も一通り見てみようか。」


 彩と連れ立って、生体コーナーをまわる。ネオンテトラだけで90センチ水槽2つもあるし、金魚がめいっぱい詰め込まれた大きな水槽もあった。

 まだ小さいアロワナが何匹も泳いでいる水槽もあったし、大きなアロワナもいた。まるで水族館のようだ。

 海水魚のコーナーもあった。熱帯魚と比べると規模は小さいが、色とりどりの魚やイソギンチャクがいた。


「なんか見応えあるねー。見て見て、エビめっちゃいる。こんなにいると少しキモいね!」


 ヤマトヌマエビという3センチくらいのエビが、大量にいる水槽を彩が指さす。確かに、餌っぽい何かに群がっているあたり、少しゾワッとする。


「いろんな種類がたくさんいると言うよりは、メジャーな子がたくさんいるって感じなのかな。」


 一通りまわって見た感じ、店長さんのとこで見た事のないお魚もいたけど、逆に店長さんのとこにいたお魚がいない場合の方が多い気がする。

 国産グッピーなんかは、店長さんのとこの方が種類が多いし、見た目も綺麗だ。


「値段はかなり安いけどね。ほんと、良くも悪くも量販店って感じ。」


 一通り見てまわって満足した私達は、それぞれの買い物をして帰路に着いた。初めてホームセンターで熱帯魚をしっかりと見て回ったけど、確かに全体的に安いけど、質としては店長さんのところには敵わないだろう。

 どちらが良い悪いという話では無いけれど、ホームセンターで魚や水草を買う時は、いろいろ注意が必要なのかもなと思った。


「そんなふうに思えるってことは、それなりに知識が付いたってことなのかなぁ…。」


 ホームセンターからの帰り道、お父さんの運転する車の助手席でスマホを見つめながら、ぽつりと呟いた。

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