第15話…新しい知識と必要な知識
「発酵式って言うのは、ドライイーストと砂糖水を使って、イースト菌が砂糖を分解する時に発生するCO2を水槽に添加する方法のことです。」
美斗さんがスマホを見せながら解説してくれる。それを聞きながら、私はスマホにメモを取っていく。
「必要なものはペットボトル、チューブジョイント、エアチューブ、逆止弁、エアストーン、ドライイースト、砂糖。あと、私はゼラチンを使うのをオススメします。」
「ドライイーストと砂糖とゼラチンはスーパーで、それ以外は熱帯魚店で買える?」
ええ、浅野さんで売っていますね。と美斗さんが頷く。
「詳しいやり方はあとで調べてください。簡単に言いますと、砂糖水をゼラチンで固めて、ペットボトル内に砂糖ゼリーを作ります。ゼリーの上に、ドライイーストを溶かしたぬるま湯を入れて置くと、少しづつ砂糖ゼリーをイースト菌が分解していくのでCO2が発生します。ペットボトルからチューブを使って水槽内にCO2を拡散させるだけですね。」
「何かコツみたいなものはある?」
基本的なやり方は調べれば出てくると思うが、美斗さんの知識はネットでは出てこない。聞けることは聞いておこう。
「コツは、温度ですね。発酵式は暖かいと発酵が進んで、寒いと止まります。今の時期なら特に何もせずとも発酵は進むと思いますけど、CO2の量が少ない感じがしたら、マフラー巻いたりしてあげればいいと思います。CO2が出ているようであれば特に気にしなくて大丈夫です。」
なるほど、発酵が上手く進むように管理してあげればいいのか。
「あ、CO2ってずっと添加しっぱなしでいいの?」
「CO2は水草の光合成で使われるので、夜間は停止した方がいいんですけど、発酵式は止められません。夜間はエアレーションしたりするんですけど、60センチの上部フィルターならそのままで大丈夫ですよ。酸素供給量がとても多いので。」
へぇー、そうなんだ。
とても勉強になる。というか、私はほとんど知識が無いまま、言われるがままに始めてしまったんだなと痛感する。
「私ほんとに何も知らないんだなぁ。生き物飼ってるのに、大丈夫なのかな。」
急に不安になってきてしまった。
そんな私を見て、美斗さんと佑香さんが顔を見合わせる。
「誰でも最初は知識ゼロっしょ。いろんな失敗したり挑戦したりして、知識つけてくんだよ。あたしも結構いろいろやらかしたし。」
「そうですよ。私も何回水草を枯らしたことか…。お魚を全滅させてしまったこともありますし。千草さんはまだ始めたばっかりですから、これからいろんな失敗して、勉強していくんですよ。」
2人の優しい言葉に勇気づけられる。
「2人とも…、どうもありがとう。これからたくさん勉強して、頑張るよ!」
「その調子です。分からないことは私やゆうちゃんに聞いてくださいね。あと、浅野さんも物凄く頼りになりますよ。」
店長はほんとに知識凄いよねーと佑香さんも同意する。
確かに、店長さんの言う通りにやったら、ど素人の私でもすぐに水槽を立ち上げることができた。
「やっぱり凄い人なんだね。いつもタバコ吸ってるけど…。」
あははっと3人で笑う。
「そういえば、千草は先週水槽立ち上げたんだっけ?水は店のやつ貰ったの?」
「うん、店長さんがポリタンク2つ分もくれたから、ほとんどお店の水。」
だよねー。と佑香さんが苦笑いする。
何か良くないのだろうか。
「こういうことしてくれるの、店長だけだからね。普通、水槽立ち上げる時は、バクテリア剤使って1~2週間空回ししてから、パイロットフィッシュ入れるんだよ。」
1~2週間!?
そんなに置いておかなきゃいけないの!?
そんなの絶対待ちきれないよ…。
「浅野さんは新規さんの立ち上げのお手伝いをする時は、すぐにお魚を入れて楽しめるように、お店の水を分けてくれるんですよ。」
「そうなんだ。すっっごくありがたい…。」
見た目は凄く強面なのに、めちゃくちゃ優しい人だった。
今度お礼言っておこう…。
「アクアリウムをやるにあたって、水質管理は永遠の課題だから。これからメンテナンスを続けていかなくちゃいけないし、まずはろ過について勉強するのがいいかも。」
ろ過かぁ。
今は上部式ってやつだけど、説明書通りに組み立てただけだ。知識はゼロに近い。
「ろ過の勉強って、どんな事を調べればいいのかな?種類とか?」
「ろか装置の種類も基礎知識だけど、それよりも、ろ材について調べた方がいいかな。店長の選んだ上部だと、これくらいの穴の空いた石みたいなやつとウールマットだと思うんだけど、それぞれの役割とか調べるといいよ。」
「え、佑香さん凄い。見てもいないのに中身分かるの?」
まぁその辺は基本だから。と苦笑する佑香さんと、微笑む美斗さん。
「水質はお魚さんの調子に直結しますからね。見た目は綺麗なお水でも、次々とお魚さんがお星様になってしまって、水質見てみたら酷い状態だった。とかはよくある話です。」
「まぁ気にしないでも何とかなっちゃう事もあるし、気にしてても何ともならない事もある。でも知識は持っていた方がいいよ。」
家に帰ったら色々調べてみようと心に決める。まずはアクアリウムの基礎知識をつけなくては。
「分からないことは遠慮なく聞いてくださいね。熱帯魚仲間が増えるのは嬉しいです。」
にっこりと微笑む美斗さんに、頼りにさせてもらいます!と言って笑う。
「それでは……、デザート食べませんか?」
少し恥ずかしそうにメニューに手をかける美斗さん。
私と佑香さんは揃って頷き、まだまだガールズトークに花を咲かせるのであった。
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