第12話…彩と浅野観賞魚センターへ

「お待たせー。」


 今日は土曜日、時刻は10時半少し前。

 場所は学校に向かう途中にあるコンビニ。


 土曜なのに制服を着て立ち読みをしている彩に声をかける。


「おはよー。ちょっと待って、あと少し読んじゃう。」


 立ち読みしているのは少年漫画の週刊誌だ。

 彩はこういうのも好きなのか。

 彩を待つ間、私はスイーツコーナーに向かう。


「あ、これインスタで話題になってたやつ。」


 最近発売して、SNSで話題になった結果全然買えなくなってしまったスイーツが売っていた。

 千載一遇のチャンスではあるけど、これからお店に行くので買うことはできない。


「千秋にラインしておこう。」


 妹の千秋はどうせ家で暇していることだろう。あいつもこのスイーツ気にしていたし、飛んで来るに違いない。


「返事はや。私の分も買っておいて…と。」


 これで大丈夫だろう。

 夜ご飯の後に食べるのが楽しみだ。


「お待たせー。あ、それ話題のやつじゃん。部活終わるまで残ってるかなぁ…。」


「お店の後にここに戻って、買ってから部活行けば?お昼に食べちゃえば大丈夫でしょ。」


 うーん…。と彩が唸る。


「これは部活が終わってからゆっくり食べたい…。残ってる方にかける!」


 分の悪い賭けだと思うが、彩がそう言うなら仕方ない。

 幸いまだ個数はあるから、運が良ければ残っているかもしれない。


「よし、じゃあお店に行こう!レッツゴー!」


 お店を出て自転車に跨った彩が片手を上げて言い放つ。


 ゴー!と私も乗っかり、片手を上げてペダルに足をかける。

 何回も行っている私が先導し、彩が後ろからついてくる。


「楽しみだなー。ホームセンターくらいでしか熱帯魚見ないからさぁ。」


「逆に私はホームセンターの熱帯魚コーナーまだ行ったことないや。」


 風の音に負けないように、少し声を張りながら会話する。


「実はさー、うちのお父さんが昔アクアリウムやっててさー。」


「え!?そうなの?」


 思わず後ろを振り返ってしまう。


「そうみたいー。この前千草の話をしたらさ、俺も昔やってたなぁって。ビックリしたよ。水槽とかはまだあるって言ってたなー。」


 千草の多趣味はお父さん譲りなのか…。


「えー、じゃあやろうと思えばすぐ出来るんじゃない?」


「いやー、古いものらしいから、新しいの買わないとダメだと思うよ。」


 そっかぁ。と笑いながら、坂を下りる。

 言っちゃ悪いけど、少しみすぼらしいお店が見えてきた。


「着いたー!」


 お店の端の方に自転車を停める。

 今日は珍しく、既に自転車が2台停まっていた。先客が居るのだろうか。


「おー、こんな感じなんだぁ。凄いねぇ、水槽外に置いてあるし!これは水草かな?おー!」


 私の隣に自転車を停めた彩がキョロキョロと店の周りを眺めて興奮している。


「ほらほら、お店入るよー。」


 カラカラと引き戸を開けてお店に入る。最初は躊躇したけれど、このお店に入るのも慣れたものだ。


「いらっしゃい。お、今日は1人じゃないんだな。」


「こんにちは。友達を連れてきました。」

「こんにちはー。」


 いつもと同じくサングラスをかけて黒いエプロンを着けた強面の店長さんがレジカウンターに座っていた。


 ……椅子じゃなくてカウンターに腰掛けていた。


「ま、ゆっくり見ていってよ。先客も居るけどな。」


「はーい。ありがとうございます。」


 先客……。何回か来てるけど、この店に私以外のお客さんが来ていたことは無かった。

 珍しい…のかな?


「おー、凄いなぁ。めっちゃ流木あるじゃん。石も色んなのあるんだねー。おー、凄い。」


 彩は早速店内を物色している。

 あちこち見て回っている彩を放置して、店長さんにスマホを見せる。


「こんなふうになりました。」


 設置して1週間経過した私の水槽である。


「お、いい感じじゃないか。流木と石の配置がいいな。パールグラスが育ってくればもっと見栄えがするぞ。」


「はい!頑張りましたー。最初は水の音が気になってなかなか寝られなかったんですけど、もう慣れたし。毎日癒されてます。」


 そう、設置したての頃は気になって寝られなかった水の音にも、すっかり慣れてしまった。

 逆に流れる水の音で癒されている気もする。


「あー、最初はな。寝られない人結構いるぞ。そのうち、水の音が無いと逆に気になって寝られなくなるから。」


 はははっと笑う店長さんにつられて私も笑う。


「ネオンテトラの水合わせも上手くできたみたいだな。順調じゃないか。」


「はい、良かったですー。そのうち新しい子迎えたいなって思ってます。」


 店長さんとしばし談笑していると、彩が私を呼ぶ声がした。

 店長さんに行ってきますと告げて、熱帯魚コーナーに入る引き戸から顔を出す彩の元へ向かう。


「ごめんね、1人にしちゃって。」


「ん?別にいいよー。店長さんと水槽の話してたんでしょ?それよりも、凄い出会いがあったよ!」


 ニヤッと笑う彩に続いて、水草コーナーに向かうと、そこには2人の女の子がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る