第6話…とうとう買っちゃいます

「うぅ…寝不足だ…。」


 机に突っ伏しているといつの間にか寝てしまいそうな程眠い。


「おはよー。眠そうだねぇ。どうしたの?」


「あ…彩、おはよー…。ちょっと寝不足でね…。」


 物置状態だった勉強机の上を片付けたまでは良かったのだが、お店で貸してもらった雑誌を、寝る前に少し読もうとしたのが良くなかった。


「楽しくなっちゃって寝付けなくて…。」


「その様子だと、熱帯魚のお店、結構良かったんだ?」


 昨日のお店での話を簡単に彩に話す。店長さんの見た目が怖かったけど優しかったこと。たくさん並んだ水槽のこと。魅入ってしまった水槽のこと。


「なるほど、そこで借りた雑誌を読み耽ってしまったと。かなり沼ってきてるねぇ。」


 彩がニヤニヤしながらこっちを見ているのが突っ伏しててもわかる…。

 確かに、自分でも少しのめり込みすぎかなとは思ってるけど、なんだか凄く楽しいから仕方ない。


「まぁ、趣味は始める前、調べてるとき、準備してるときが一番楽しいから。」


「あ、それ私もネットで読んだなぁ。やっぱりそういうものなの?」


「私は、次どんなアクセサリー作ろうかなーって、デザイン考えたり材料調査しにいったりしてる時が結構楽しいかな。作ってるときも楽しいし、作り終わった時は達成感あるけどね。」


 ブレスレットをいじりながらニコニコしてる彩。


「あ、もしかしてそのブレスレット新作?」


「そだよー。今回は100均縛りで作ってみたんだ!」


 彩は毎回何かしらのこだわりを持ってアクセサリーを作っているらしく、今回は100均縛りとのこと。


「100均で売ってる物しか使ってないんだ?すごっ!こんなの売ってるの?」


 私も結構100均には行ってるけど、彩のブレスレットに使われてるものが売ってるとは到底思えない。


「うん!100均とはいえ、これ1つに3,000円くらいかかってるから。詳しく聞きたい?」


 前のめりな彩 。

 しかし、ちょうどHR開始の予鈴がなった。


「あ、ほら、HR始まるよ。」


「ちぇー。まぁいっか、休み時間に詳しく聞かせてあげるからね!」


「わかったわかった。」


 アクセサリーの話になると彩は急にテンションがあがる。

 私もアクアリウムの話になると急にテンションがあがってるのかな…。



 ◇◇◇◇



「おわったー。やっと休みだ。」


 今日は金曜日、その最後の授業が終わり、ようやく土日が始まる。


「やっとだねぇー。この土日は何するの?」


 彩が伸びをしながら尋ねてきた。


「帰りに熱帯魚ショップに行って、水槽とか買って、土日で設置するんだ!」


「あー、いいねぇ。やっと本格的にアクアリウムが始まるんだね。設置できたら写真送ってね。」


「わかった! じゃあ私帰るねー。またね!」


「うん、気を付けてねー。」



 彩と別れ、浅野観賞魚センターへと急ぐ。

 今は16時過ぎなので、閉店まではまだ結構時間がある。それはわかってるんだけど、なんとなく急いでしまう。


「着いたー。」


 これで二回目の訪問となる、浅野観賞魚センターに着いた。

 相変わらず見た目はボロい。なんとなくタバコの匂いがする気がする。


「こんにちはー。」


 初めて来たときは、入るのに躊躇したけど、二回目ともなればそんなことはない。


「いらっしゃい。あぁ、お金持ってきたか?」


 強面の店長さんがレジで出迎えてくれた。私のことも覚えていてくれたようで、なんとなく嬉しい。


「はいっ!お金持ってきました。水槽一式買いに来ました。」


「ははっ。ちゃんと準備してあるからついてきな。」


 店長さんはにこやかに笑いながら、機材コーナーに歩いていった。


 店長さんについて行くと、あまり物が陳列されていない棚があった。


「これがお嬢ちゃんが買うセットだ。全部で1万円ちょうどにしといてやる。」


 そこには、水槽と機材、空のバケツ、空のポリタンク等々が並んでいた。


「おー、これで水槽をセットできるんですね!」


「あぁ、これだけあれば大丈夫だ。ちょっと待ってろ、これから設置方法を説明してやるから。」


 そういって、店長さんはレジの方に戻って、何か紙を取ってきた。


「ほらよ、説明書だ。一応説明するからちゃんと聞いとけよ。」



 ◇◇◇◇



「こんなとこだな。今日は学校の帰りだろ?荷物は明日、家まで届けてやる。どの辺だ?」


「え、いいんですか?」


「チャリでこれ持って帰るのは無理だろ。まぁサービスだよ。これからうちをたくさん利用してもらえるだろうしな。」


 店長さんはニヤっと楽しげに笑った。



 ◇◇◇◇



「んー、楽しみだなぁ。」


 明日の朝に店長さんが荷物を運んできてくれることになっている。

 説明を聞いた限りだと結構大変そうだけど、すごく楽しみでワクワクしている。


「頑張ってセットしよう…。」


 寝不足だったこともあり、ワクワクしていたにも関わらず、その日はすぐに眠りについた。

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