第3話…アクアリウムに興味あり

 歯医者さんで大きな水槽を見たあと、家に帰ってからアクアリウムについてスマホで色々調べてみた。わからないことばっかりだけど、調べてるあいだ、私はずっとワクワクしていた。



 ◇◇◇◇



「おはよー。彩!私趣味見つけた!」


「おはよー。おぉ、どんなやつ?」


 教室に入ってすぐに、既に登校していた彩に報告する。


「アクアリウム!」


「へぇー、アクアリウムかぁ。なんで急に?」


「昨日歯医者に行くって言ったじゃない?そこに大きな水槽があってさー。もうキラキラですごくって! で、家に帰って色々調べてみたら、なんか凄くやりたくなっちゃって!」


 話してるうちに昨日調べた色んな水槽を思いだし、だんだんテンションが上がってきてしまう。


「そっかそっか。アクアリウム良いよねぇ。初期投資多そうだったからお勧めしなかったけど、大丈夫そう?」


「うん!調べてみたんだけど、こだわらなければ1万円くらいから始められるみたいなんだー。まぁハマると凄いことになるみたいだけど…。」


「あはは。ハマるとお金飛んでくのはどの趣味も一緒だから。」


 アクアリウムにハマると凄くお金がかかるのは本当みたいで、水草1つが数千円とか、数万円のお魚とかいるみたい…。


「そうだよねぇ。とりあえずホームセンターに行けば色々揃えられるみたいだから、週末に行ってみようかなと思ってるとこ。」


「ホームセンターねぇ。ちょっと遠いから放課後に行くには無理だよねー。……あ、交番がある交差点あるじゃない?あそこの近くに、熱帯魚って看板出てなかったっけ?ほら、このあたり。」


 そういって彩はスマホに地図を表示してくれる。


「んー。あー、あった気がする。お店の名前は…。」


「あ、これこれ。浅野観賞魚センター。坂の下にあるんだよ。」


「あー、これかぁ。どれどれ。」


 スマホを使って、浅野観賞魚センターというお店を調べてみる。


「お、出てきた。うわ、全然情報載ってないよ…。」


「あー、なんか古そうなお店だもんね。でも口コミはそんなに悪くなさそうだよ。ほら、3件しかないけど。」


「どれー?…ほんとだ。店主さんにいろいろ教えて貰えました。質がよく、親切です。…なるほど。帰りにちょっと行ってみようかなぁ。」


 どうやら初心者が行っても平気そうなお店みたい。やっぱりプロの人に教えてもらった方が確実かなぁ。


「ここなら寄り道できそうじゃん。熱帯魚のお店かー。ホームセンターのペットコーナーにあるのとは違うのかなぁ?」


「どうなんだろ。今まで熱帯魚に興味無かったからわかんないや。」


 ホームセンターのペットコーナーは水槽とかは安く売ってるけど、生き物は質が良くないっていうのを昨日ネットで見た…。実際のとこはわからないけど。私はペットコーナーに行っても仔犬や仔猫見て帰っちゃうし。


「うん、でも熱帯魚のお店楽しみだなー。やっぱり凄くキラキラしてるのかなぁ。」


「あはは、どんな感じだったか教えてねー。」


 色んな水槽がたくさん置いてある光景を思い浮かべるとワクワクしてくる。

 ちょうどチャイムが鳴ってホームルームが始まった。それから放課後まで、ずっとソワソワしてて、その日の授業はなんとなく頭に入らなかった。



 ◇◇◇◇



 放課後になって、私は早々に学校を後にして、浅野観賞魚センターに向かった。

 浅野観賞魚センターは駅から少し離れており、周囲に他のお店は無く、静かな雰囲気のところにあった。


「いや、これは入るの怖いなぁ…。」


 初めて行ったアクアリウムのお店は、あのとき見た水槽みたいにキラキラしたものでは無くて、かなりぼろかった…。


 元々はクリーム色?だったと思われる壁は苔やら塗装の剥がれやらで何か汚い…

 窓は黒く遮光されてて中が見えない。

 お店の回りには植木があるけど、それもなんだか枯れ気味で少し不気味な雰囲気。

 入り口の扉の横には…ベンチと灰皿?


「これは…、気楽に入って良いお店ではないのでは…?」


 意気揚々とここまで来たものの、私はこのお店に入るのを躊躇っていた。

 どうしようか迷っていると、お店の入り口がガラッと開いた。


「ふぁーぁ。ん…?お客さん?どうぞー。」


 大きなあくびをしながら、サングラスをかけた怖そうな見た目のおじさんが出てきた。


「えっ!?あ、あのー。ここって熱帯魚のお店…です…か?」


「ん?そうだよ。ふーっ。書いてあるでしょ。観賞魚センターって。」


 ベンチに座ったおじさんは、いつの間にかくわえてた電子タバコをふかしながら気だるげに答えてくれた。


「どうぞ、勝手に見てっていいよ。何か用があったら声かけて。」


「え、あ、はい。ありがとうございます…。」


 ドギマギしながら言われるままにお店に入ってしまった。


「ど、どうしよう。何か買って帰らないと怒られるかも…。買うまで帰してくれないとか…。」



 そんな思いを抱きながら、私は初めて、熱帯魚ショップに足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る