第2話…趣味探しって難しい


「で、いろいろ調べてみたんだ!」


「何か気になるやつあった?」


 波乱の自己紹介は昨日のこと。昨日帰ってから私はスマホで「趣味」について調べてきた。


「んーっとね。多すぎて何がいいか全然わかんなかった…。」


「あーね。簡単に趣味って言っても、範囲広すぎるよねー。」


 うんうんと2人して頷いてしまう。


「んー、まずはインドアかアウトドアかで考えた方が良いかも。読書とかアクセ作り、ゲームとかはインドア。釣り、キャンプとかボルダリングはアウトドア。」


 瑞木さん物知りだなぁ…。さすが自己紹介で多趣味って言ってただけのことはある。


「なるほど。私はインドアかなぁ…。中学も帰宅部だったし、体育もそんなに得意じゃないし…。釣りとかキャンプはしてみたいけど、一人じゃ楽しくなさそう…。」


「そうかもねぇ。私もインドア系の趣味が多いかなぁ。お父さんと釣りやキャンプには行くけど、一人じゃ行かないし。あと、アウトドア系の趣味は初期投資が結構必要なものが多い気がする。」


 趣味にお金がかかることに今さら気づいてしまった。高校生になってお小遣いアップしたとはいえ、そこまで使えるお金はない。


「…!そっかぁ。お金もかかるんだよねぇ…。インドアで…そんなにお金がかからないやつがいいかなぁ。」


「インドア系の趣味で探してみようか…。『インドア 趣味』で検索っと…。んーっと、読書、音楽鑑賞、料理、筋トレ…、ネットサーフィン……、勉強…。」


「惹かれないなぁ…。」


「だよねー。ふふっ、私も。」


 そのあとも彩と一緒に色々趣味探しをしてみたけど、私の心にグッとくるものはなかなか無かった。



 それから数日…。私の趣味探しは難航していた。


「アクセ作りも楽しいよー?羊毛フェルトも自分の好きなものを作れるし、かわいいやつが出来たときは、めっちゃ達成感あるよ。」


 スマホで色んな写真を見せてくれる。これ全部、彩が作ったものなんだろう。


「んー、私図工の成績やばかったんだよね…。修学旅行で陶芸体験したときも、全然コップにならなくて、結局陶芸の先生が作ってくれたし…。」


「えー…、それは逆に凄い。」


「あ、これは好きかも!見て見て、「お部屋のレイアウト」だってー。これも趣味なんだね。」


 自分の部屋を思いだしながら、理想の部屋に組み替えていく。結構楽しそうかも。


「それって趣味なの…?部屋のレイアウト変えるのは私も好きだけど、そんなに頻繁に変えるものじゃないし、家具ってかなりお金かかるよ?あー、でも家具屋さん巡りとかはできるかな?」


 言われてみればそうだ。頭を振って妄想をリセットする。


「そうだよねぇ…。んー、難しいなぁ。」


「とりあえず何かに手を出してみるってのも良いと思うよ。やってるうちにだんだんはまってく事もあるし!」


「んー、もう少しだけ調べてみるよ!ごめんね、今日妹の歯医者に付き合わなきゃいけないんだ。先に帰るね。」


「わかった。私は女バレの見学に行ってくるよ。また明日ね!」


「うん、また明日ー。」


 自転車を漕ぎながら色んな趣味をやっている自分を想像してみる。だけどどれもしっくりこなくて、いつまでも趣味が見つからない自分に少しモヤモヤした。



 ◇◇◇◇



「水島さんー。水島千秋さんー。」


 妹の名前が呼ばれる。今日の朝になって急に歯が痛いと言い出した妹の付き添いで歯医者に来たんだけど…。


「暇だなぁ…。趣味探しでもするか…。」


 スマホを取り出して、検索を始める。もはやネットサーフィンが趣味なのではないか…。


「アクアリウム…。熱帯魚かぁ。へぇー凄いお金かかりそう…。あ、そういえばここ、入り口のとこに水槽あったな…。」


 入り口に大きな水槽があり、入ってくるときに少しだけ目を引いたのを思い出した。


「ちょっと見てこようかな。」


 せっかく水槽があるのだから、アクアリウムというのを少し見てこようと思った。


「うわぁ…凄いな。結構大きい。」


 入り口に置かれた水槽。すぐ近くで見ると思ったより大きくて、そこでは色んな生き物が生活していた。


「めっちゃキラキラしてる…。魚も小さいのがたくさん…。あ、ちっちゃいエビもいる。……。」


 見ていて全然飽きない。それどころか見れば見るほど色んなことに気がついていく。



 ◇◇◇◇



「あれ?いない…。あ、おねぇ、終わったよ!」


 肩を叩かれてようやく妹が来たことに気がつく。


「え?あ、もう終わったの?早かったね。」


「早くないよ!もー、めっちゃ痛かったよ!」


「うそー。あっという間だったじゃん。あれ?もうこんな時間?うそ…?」


 少しだけ見てみるつもりだったのに、いつの間にか一時間弱経っていた。


「もー!私が痛がってる間に、おねぇはボーッとしてて!もう帰ろー。」


 さぞかし痛かったのだろう。千秋の言葉は少しトゲトゲしい。


「あ、そうだね。歯はもう痛くないの?」


「うん!もう大丈夫ー。朝からほとんど食べてないからお腹空いたよー。」


 歯医者を後にしても、あの水槽は私の頭にずっと残り続けた。

 群れて泳ぐ小さな魚達。小さな泡を出してキラキラしてる水草。


「アクアリウム…。帰ったらもう少し調べてみようかな…。」


「おねぇ何にやにやしてるの?気持ち悪いよ?」


 この日、私は初めてアクアリウムに出会ったのだ。

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