私の趣味はアクアリウム

閑人

第1話…まずは趣味を見つけるところから

「どうしよう、どうしようどうしよう…」


 私は今、とてつも無く焦っていた。中学校の時はどうやって乗りきったんだっけ…。


「前島賢人です。東中出身です。好きな物は中学から続けている野球です!もちろん野球部に入ります。よろしくお願いします!」


 あぁ…、中学の時は名前だけ言って終わりだったんだ…。

 何で皆そんなに趣味があるわけ!?というか、なんで自己紹介で必ず趣味を言わなきゃいけないの!?


「瑞木彩です。一中出身です。」

 あぁ…とうとう私の前の人だ。どうしよう、何にも思い付かない…。


「私は趣味が結構たくさんあって、最近だと羊毛フェルトや、レジン使ったアクセサリ作りにはまってます。あとは中学の頃からバレーボールやってて、運動も好きです。気軽に話しかけてください。よろしくお願いします。」


 うわぁ…凄いなぁ。趣味がそんなにたくさん…。


「次の人ー。」

「あっ!は、はいっ。えーっと、水島千草です。三中出身です。中学の時は帰宅部で…、趣味は…。えっと趣味は…………。特に無いです…。よろしくお願いします…。」


 終わった…、何も思い付かなかった…。私の高校生活終わったのでは…?




 全員の自己紹介が終わった時、趣味が無いのは私だけだった。


「はぁー…、趣味かぁ。」

 特に無いです。ってなんだよもー!なんでてきとーに「読書です。」とか言わなかったんだろ…。

 でも、そういうのは何か違う気がする。たまに読書するけど、趣味といえるくらいのめり込んで読書してるわけじゃないし。好きな作家さんがいるわけじゃないし…。


 はぁ…。

 ため息をついて、ふと視線を上げると、前の席に座る女の子の髪留めが目に入った。


 瑞木さん…、趣味がたくさんあって凄いなぁ。アクセサリー作りとか言ってたっけ。今つけてるヘアゴムももしかして手作りなのかなぁ…。


「凄いなぁ…。」

 なんとなく劣等感のようなものを感じて机に突っ伏してしまう。


「どうしたの?」

「ん?うわぁっ!」

「驚きすぎだよー。で、何が凄いの?水島さん?」


 前の席の瑞木さんが、私を見下ろしながら不思議な顔をしていた。


 うわ、もしかして聞こえてた?恥ずかしい…。


「えっと…、あのー。今つけてるヘアゴムって、手作りなのかなぁ…って。」

「あー、これ?そうだよー!よくわかったね?」

 嬉しそうにヘアゴムのアクセサリ部分に手を触れる瑞木さん。


「いやぁ、お店で見ないデザインだしさ。そういうのも作れるんだね。凄いなぁ」

「えへへ。自分で好きなデザイン作れるから、お店に無いようなやつ作っちゃうんだよね。」

「そうなんだ。いいなぁ、素敵な趣味だよね…。私は何にもなくて…さぁ。」


 自分で言ってて悲しくなってくる。さっきの自己紹介の光景が脳裏に再生されてしまう。


「あー、何にもないって趣味のこと?さっきは特に無いって言ってたね。ほんとに何にもないの?読書とかは?」

「読書は…、たまに読むくらいだし、趣味といえるくらい好きなわけじゃないんだよね。家ではテレビ見たりスマホいじったりして、ダラダラしてるだけだし…。」

「そうかぁ…。じゃあ、今から見つけたらいいんじゃない?水島さんが本気でのめり込むような趣味をさ。私趣味多いから、いろいろアドバイスするよ!」


 瑞木さんの提案に少し驚く。そうか、今からでも趣味を見つければ良いんだ。


 私の高校生活最初の目標ができた瞬間だった。


「そっか…、そうだよね!ありがとう瑞木さん!私、頑張って趣味を見つけるよ!」

「うんうん。あ、私のことは彩って呼んでよ!なんでも相談に乗るからね。」

「じゃあ私のことは千草って呼んでね。彩のことは趣味の先輩として頼りにさせてもらいます!」


「「あはははは。」」


 無趣味な私と、多趣味な友人の高校生活はこれから始まっていく。

 充実した高校生活になる予感がした。

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