第3話 日常の分かれ目
高校生活が始まって、早くも1ヶ月が過ぎた。
テストと部活動、中学まではなかった新しい教科、ここ1ヶ月で目まぐるしい日々が過ぎ、1週間の過ごし方が何となくルーティン化してきた。
ゴールデンウイークが始まる2日前、部室で棋譜を並べていると、和己が入ってきた。彼は僕の今まで付き合ってきた人間とは少し変わった人物だ。高身長でルックスも良く、声も良いということからすでにファンクラブまでできているらしいが、彼はその一切に興味がない。というより、過去に何かと面倒ごとに巻き込まれたらしく、平和に学生生活を過ごすことが最大の目標と自己紹介で言っていた。
そんな彼に僕が興味を持ったのは、この部活に入った理由を述べた時だった。
「部室が和室だから」
その理由にみんながキョトンとしている中、僕は何故か心が惹かれた。しかも話してみると彼と僕の趣味や考え方が似ていて、部活初日で意気投合した。
「お疲れさん。今日も早いな、陽介」
「お疲れ。そっちも平常運転みたいだね。さっきまで廊下が騒がしかったけど、また例の追っかけ?」
「ああ、でも今日は連休前だからいつも以上にしつこくてな。ちょっとしたマラソン大会だった」
そう言うと、彼は僕の向かいの席に座って盤上を眺めていた。
「一局指すかい?それとももう少し休憩する?」
「休憩してからだな。それに棋譜を見るのも勉強になる。今やってるのは相掛かりか?」
「そう。ゴールデンウイーク明けは初の大会だからな。今のうちに少しでも手数を増やしておきたいんだ」
「じゃあ、休み中は今のところ、どうしても外せない重要な用事はなさそうだな」
「確かに今のところは将棋以外はないけど、何かあった?」
和己は鞄に手を伸ばして、紙を1枚取り出した。
「学校近くにカラオケ店が新しくできただろ?あそこの割引券もらったからさ。行ってみないか?1枚で4人まで行けるらしいからあと2人ほどメンバー誘ってよ」
「いいけど・・・僕カラオケとか行ったことないから良く分からないよ?」
「そうなのか。ならこれを機会にカラオケ初体験だな。メンバーの残り2人はお互いに1人ずつ誘うってことで。どうしてもいなかったら3人でも問題ないからさ」
やけに強引さそう和己に逆らうこともできず、僕らは押し切られる形でカラオケに行くことになった。正直初めてのことなのであまり気乗りはしなかったが、高校生になったことだし、新しいことを体験することも大切なのではないかという気持ちもあった。
まぁ、僕が誘える人間はほぼ確定に近いのだが、とりあえず、なでしこを誘ったところ、即レスでOKということなので僕のノルマは誘われたその日に達成した。
あとはどんな曲を歌えるのか自分なりにリサーチをやるべきだったのだろうが、結局約束の日まで特に下調べもせず、僕は当日を迎えた。
あの時の僕に今の僕が何か声を掛けられるなら、一言僕はこの言葉を送りたい。
「後悔、先に立たず」と。
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