第2話 彼女との約束
彼女との約束は今でも覚えている。
でも、彼女の顔や姿を思い出そうとすると何故かモヤのようなものが邪魔をする。
それなのに約束の言葉と彼女の声だけが頭から離れない。
僕はこの記憶を持ちながら、遂に16歳になった。
2011年4月5日(火)。その日、僕の高校生活が始まった。
1か月前に起きた震災のこともあり、僕たちの入学式はかなり簡略化されたものになった。予想していた校長先生やPTA会長の長い祝辞などは照明の都合上、とても短いものになり、式自体は1時間もかからず終了した。
式が終わり、教室に案内された僕らは明日以降に購入する教科書の説明と軽い自己紹介を済ませ、午前中で帰宅することになった。
ポケットの中に入れていた携帯が振動したことに気が付いた僕は、携帯を取り出し、1件のメールを確認した。
『入学式、お疲れ様。校門の前で待ってるから荷物まとめたら来てね。 なでしこ』
僕は鞄の中に一通り荷物を入れて、教室を後にした。明日以降この鞄に大量の教科書が入ると思うと今から少し憂鬱な気分になる。
校門の前に行くと1人の女の子が駆け寄ってきた。彼女は僕の通う学校の目の前に隣接している女子高の生徒であり、幼馴染である、“堤 なでしこ”だ。
彼女は僕が通院していた病院の1人娘で、歳も近いことから仲良くなった。それ以来、中学まで同じ学校だったが、高校からは親の意向もあり、私立の女子高に通うことになった。
「お互いにお疲れ様!高校はやっていけそう?陽介?」
「お前は俺の母親か。まぁ、まだ1日目だしな。何とも言いようがないのが正直な意見だ」
そう言うと、なでしこはため息をついた。
「私は心配だよ。陽介って、態度はデカいのに引っ込み事案だから自分から他人に話しかけることはしないじゃない。新しい友だちできないんじゃないかって・・・」
「そこまで言うか・・・。別に友だち作りに学校来てるわけじゃないから、俺は気にしないけどな」
「またそんなこと言う!本当にできなくても知らないからね。私はあっちの学校で新しい友だち作るって目標、もう達成したもんね。悔しかったら友だち作ってみなさい!」
「はいはい。分かりましたよ」
言葉とは怖いもので、なでしこの言った通り、僕は高校に入学して、3日間誰とも口を聞かずに過ごしていた。挙句の果てにそのことをなでしこが親に話したため、僕は何故か親に説教されるという理不尽な罰を受けた。
高校生活4日目。その日は昼休みに部活動の紹介活動が新入生向けに行われた。僕は初め陸上部の体験入部に1週間行ったが、結局身体のことも考慮して、囲碁・将棋部に入ることにした。
まぁ、部活動ともなれば、自然的に他人と話すことも多くなったので僕は何とか高校で居場所を確保することができ、“火野 和己”という親友とも巡り合えた。
でも、まさか和己との出会いが彼女との出会いにまで発展するなんて、その時の僕は思いもしなかった。和己の幼馴染で、昔僕が約束をした少女の声にそっくりな声をもつ“望月 さつき”さんと出会うことになるなんて。
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