鏡面の恋人
平和島宏
第1話 彼女と僕
小さい頃、僕は不思議な体験をした。
今でもあの日のことはつい最近のことのように覚えている。
でも、この話だけはなぜか人に話したことがない。
信じてもらえないと思っているからでなく、言わないという約束だからだ。
あれは夏の暑い日だった。
僕は小さい頃身体が弱く、夏休みの半分は熱で寝込むことが多かった。
その年の夏休みも僕は例年通り風邪で寝込んでいた。毎年のように風邪を引くことが分かっているため、友だちもお見舞いに来ることが少なくなり、両親もそんな僕を心配することはなかった。あれは子どもながらに傷ついたことを覚えている。
ある日僕はいつも通り冷蔵庫から熱さまシートと氷枕を取り出して、ベッドで寝ていた。兄妹にうつさないようにと僕は風邪が治るまでは2階の1室で半隔離状態で過ごすことを義務付けられている。
僕が1階に降りれるのは兄弟たちがラジオ体操で外出しているわずかな時間だけだ。
兄妹が帰ってくると、1階の居間の方では再放送のアニメが大音量で流れていて、殊更寂しさがこみ上げる。
そんな僕に妹は、
「お兄ちゃんだけ、ラジオ体操行かなくて良いなんてずるい!」
と腹を立てていた。こちらとしては外で楽しく遊んで、毎日楽しそうにしている妹の方がどれだけ羨ましかったことか・・・。
昼頃になると、家は本格的に静かになる。父親は仕事で、母親は家事、兄妹は友だちと遊びに出てしまうため、必然的に音がなくなる。
その日もいつものように音が少なくなった時、僕は急に目の前が真っ暗になった。熱で頭がおかしくなったのか、意識が飛んだのかは分からないが、とにかく視界が一気になくなったことは確かだった。
次の瞬間、僕は外にいた。しかし、さっきまで2階のベッドで寝てたはずなのにどうして外にいるのか分からなかった。ふとこれは夢なんだと思った。そうでもなければ、こんなことは起きない。
でも、夢じゃないことがなぜか本能的に分かった。理由を聞かれるとそうとしか答えようがなかった。そして、その時に僕は彼女に出会った。今まで出会ったことがない子だったのにどこか懐かしい感じがした。
その日以来、僕は今でも彼女を探している。そんな人が実在しないことは薄々分かっているはずなのに、今でも夏の暑い日になると、彼女に会えるんじゃないかと変な期待をしている自分がいる。
これは僕と彼女のお話。報われるかどうかなんて考えず、ただ会いたいと願い続けた2人の不思議な恋愛話だ。
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