第43話 世界の掟
巨大な白い扉の前に来た2人。
「でっか…」
「さて、入るか」
アテナが扉に触れると機械的に緑色のラインが枝分かれに広がっていく。
ゴゴゴゴ…といかにも重そうな音を立てて、両開きに開きはじめた。
するとその隙間から凄まじい風と光が溢れてくる。
目を閉じて飛ばされないように踏ん張る龍護と涼しそうな顔で開く様子を眺めるアテナ。
ゴゥン…
扉が開き切り、アテナは歩き出す。
それを急いで着いて行く龍護。
そして龍護が目にしたのは成人の人が10人いても伸び伸びと手足を伸ばせる程大きく白いベッドと、そこで目を閉じて横になる美女の姿だった。
「例の奴を連れてきた」
アテナの声に反応しゆっくりと目を開け、龍護の姿を捉える。
その一つ一つの動作に心が奪われそうになる龍護。
「…貴方は?」
たったその一言で龍護の鼓動が著しく早くなる。
聞き入ってしまう程の美声と同時に身体を縛り付けるような恐怖。
龍護は魅了されながらも目の前の相手に恐怖していた。
「質問に答えなさい」
「…っ…!」
答えないと殺される――
それだけが龍護の全てを包んでいた。
そんな中、ハァ…と溜息を付きながら美女に歩み寄り…そして――
「調子に乗んな!!!!」
「アデッ!?」
パコン!と音を立ててアテナが美女の頭を叩いた。
ううう…と蹲る美女と面倒くさそうに頭を搔くアテナ。
そしてそれと同時に龍護を縛り付けていた恐怖が無くなった。
「痛いよアテナー!なんで叩くのさー!」
「何でじゃねぇよ…てか数千年ぶりの人間だからってカッコつけんな」
「だってそうしないと私の威厳がー!」
「知るか」
突然の事に???と疑問符しか頭に浮かばない龍護を他所にアテナはグリグリと両拳で美女のコメカミを挟む。
「イダダダダダ!!!!ごめんなさい!本当にごめんなさい!反省したから止めてー!!!!」
◇◆◇◆◇◆
「悪ぃな龍護。バカに付き合わせちまって」
「いや…というか大丈夫なの?」
「大丈夫だ。この程度ではダメージすらならない」
チラリと美女を見る。
美女は威厳が…威厳が…と涙目で俯いていた。
「それでこの子は何なんだ?なぜわざわざ俺をこの子に会わせたんだ?」
「まぁこんな風だけど神々を生み出した神の中の神…まぁ【ゼウス】って言えば分かるか?」
「ゼウス!?この子が!?え…けど…」
「想像と違うか?ま、そうだろうな…こいつは男と女の概念が無いからな。時には男、時には女っていう風になるんだ」
そういう事なのか…と龍護はやや理解はしたようだ。
「ちょっと俺からも聞きたい事があるんだけど…」
「なんだ?」
「これから俺とあの世界はどうなるんだ?」
「…それなんだが…」
アテナが言うには――まず、すぐに修復するのは不可能で、あの世界で行われていた七天龍の遊戯は偽りの遊戯の為、勝ち残った際の契約は破棄され、願いの履行は出来ないらしい。
現在、【狂楽神】に侵食されたあの世界の神々に変わって別世界の神があの世界を維持しているようだ。
そして龍護にとある事を頼もうとしている――という事だ。
「頼みっていうのは…?」
「あぁ、それなんだが…龍護、お前、あの世界の管理者になってもらえるか?」
「え!?俺が!?」
「別にお前自身が全てをやれって訳じゃない。修復を終えた神々の欠片の融合させて新たな神を作り上げ、お前自身に埋め込み、内側と外側から守るって感じだ」
「…それで神になった俺に出来る事って何なんだ?」
「基本は何も出来ない…っていうのも神力をそのまま人間の身体に入れるとその肉体そのものが神力に耐えられなくなって壊れちまう。だから壊れない極限にまで抑え込んでその身体に埋め込み、その世界の維持をするんだ」
大体の話は飲み込めた…が気になる事がもう一つあった。
なぜ龍護自身にそれを頼むのか…だ。
「理由は簡単だ。残念ながらお前が今宿している七天龍の力はあの世界の理として強く定着してしまっている。そして今のお前の身体はあの世界のものだ。だから無理矢理その力を引き剥がすとあの世界が崩壊する可能性があるんだ。それともう一つ、なぜゼウスに連れて来たか…だが世界神である俺でも決められる事は限られる。それを決めてもらう為にゼウスの元に呼んだんだ」
「…そういう事か…」
で、どうする?ゼウス。とアテナがチラッと蚊帳の外だったゼウスを見る。
「私は全然いいよ。そもそも下々のやる事に私達は加担しちゃいけないから決めるのは龍護君自身になるかな」
優しく龍護に語り掛ける。
そして龍護の答えも決まっていた。
「俺がその神の一部になればあの世界を直せるのか?」
「直せはするが一回だけだ。ま、安心してくれ。アフターケアは必ずやらせる」
龍護は分かったとだけ行って、解散となる。
アテナは龍護にここに残ってくれとだけ言って世界の修復の準備を始める為にその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆
スタスタと無数の柱が規律良く並んだ白い空間をアテナは歩いていた。
だが突然立ち止まり、手に光球を宿す。
そして一本の柱にぶつけた。
その柱はバキバキと音を立て、倒れる。
「危ないなぁ…ここにいるのが僕じゃなかったら死んでたよ?」
「うるせぇよ、元々はてめぇが好き勝手やってたからじゃねぇか【狂楽神】」
薄ら笑みを浮かべアテナの前に黒髪を肩まで伸ばした男が現れた。
こいつこそ、今回の元凶【狂楽神】だ。
「えー、僕のせいかな?というか僕自身を抑えつけられなかった君の後輩が悪いんじゃないの~?めちゃくちゃ弱かったよ?教育が行き渡って無かったとしか思えないなぁ?」
「驚いたな…俺はてっきり世界神になれなかったから自分より弱そうなのを必死に探して世界神のなりそこないになりたかったと――」
ドウッ――!!!!!!!!
真っ黒な神力がアテナに襲い掛かるも、すぐに白い光球で相殺するアテナ。
「おいおい、事実を言われてキレるか…やっぱてめぇは世界神の器じゃねぇよ」
「いや?ただおしゃべりな口を閉じさせようとしただけだよ?」
「なら全力で来いよ。なんならてめぇを消してもいいんだぜ?」
パリッ!とアテナは右手に雷を纏う。
そしてその目も本気で狂楽神を殺す気だ。
「…チッ…」
舌打ちだけをして狂楽神はその場を後にした。
狂楽神が姿を消してアテナも雷を消す。
するとそこに藍色の和服を来た長い髪の男性が歩いてきた。
「すみませんアテナ様、私達の世界に干渉させてしまって…」
「時空神か、というか早かったな?」
「ええ、医療神が早急に対応してくれましたので」
「話は聞いているか?」
アテナの問いに頷く時空神。
だが世界神と理神の方が重症の為少し時間が必要との事だ。
「まぁいい、お前から先に準備しといてくれ」
分かりました。と時空神は頭を下げ、その場から消えた。
◇◆◇◆◇◆
龍護が天界に連れて来られて二日が経つ。
龍護がいた世界の神々も回復し、いざ、融合の準備となり、ゼウスのいた部屋に集められる。
「それで俺はどうすればいいんだ?」
「今から陣を書く。お前はその真ん中に立っていればいい。そんで身体の何処かに陣が刻まれたら成功だ。それまでは部屋の端にいてくれ」
分かった。と指示通りに龍護は部屋の隅で大人しくする。
そしてアテナが部屋の真ん中に陣を書き始めた。
「えーっと…ここはこれで…おっとこれも書かねぇと…」
せっせと陣を書いていくアテナ。
その形は三角形の角の部分に人が一人入る程の丸を描き、その三つの丸を二重丸と線で覆ったような見た目をしている。
そしてその真ん中に同じ大きさの丸があった。
「よし、世界神、時空神、理神、何処でもいいから外側の丸の中に入ってくれ。龍護、お前は真ん中の丸の中だ」
分かった。と龍護は陣の真ん中にある丸の中に入る。
「――――。――――――、――――。」
アテナが四人が所定の位置に行ったのを確認して何かを呟いている。
すると三人の神が輝き出し、その輝きが龍護に迫ってくる。
そして三つの輝きと龍護は一つになり、部屋全体を覆い尽くした。
やがて光は止み、何事も無かったかのようになる。
「右手を見てみろ」
アテナの指示通りに右手の手のひらを見るとそこには床に描かれた陣と同じ形の陣が浮き上がっていた。
「成功だ…お前の半分は今から世界神、時空神、理神の三つの力が融合した融合神【理空界神】だ」
「理空界神…」
龍護は刻まれた手のひらをギュッ…と握る。
「俺がやれるのはここまでだ。お前がいた世界は自分の頭で想像し、手を前に翳せばその様子が見られる。後は好きにやりな」
そう言ってアテナはその部屋を後にしようとした。
「アテナ」
「ん?」
アテナが振り返る。
「ありがとな」
「…フッ…」
再び歩き出し、ヒラヒラと手を振るアテナ。
龍護は自身のいた世界を見る為に手を目の前に翳す。
すると龍護の前に丸い鏡のような物が現れた。
すでに日は上がっていて、泣いている者、悲惨な姿を見て呆然と立ち尽くす者等、様々だ。
「…」
龍護は何も言わずにもう片方の手を翳し、神力を使って巻き戻すイメージをする。
するとどうだろうか、たちまち町は綺麗になり、時間が戻っていく。
そして暫く巻き戻しをしているととある部分が見えた。
龍護の義理の姉、恵美が森を歩いている所だ。
すぐに龍護は恵美が森に入る少し前まで巻き戻す。
龍護は深呼吸して自身の身体に神力を流し込む。
すると龍護の身体がたちまち小さくなり、赤ん坊の姿になった。
「…行くか…」
チラッとゼウスを見て抱えてもらい、映し出した映像の中に一緒に消えていった。
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