第42話 七天龍の果て
「…っ!おいおいマジかよ…」
ジャングルジムで世界を飲み込もうとしている白い龍を見ていた男はその光景に驚いていた。
「まさか暴走を止めるとは…こりゃあ決着着くな…」
立ち上がり、ジャングルジムを蹴って飛んでいく。
白い龍はボロボロと崩れ、広がっていた触手も次第に消えていった。
◆◇◆◇◆◇
「いつつ…。友…姫…どこだ…」
暴走した白い龍から龍護は落ち、地面に倒れていた。
そして少し離れた所に友姫も倒れている。
「っ…友……姫……」
軋む身体を必死に使い、少しづつ這い寄って口元に手を当てた。
だが息は無かった。
それ以前に友姫の身体は冷え切っていた。
「…っ…ちくしょう…」
すると後ろの方からコツコツと誰かが近付いてくる。
雪菜だ。
「…雪菜…さん…」
「龍護さん…」
その雪菜も無事では無かった様だ。
拳銃を右手に持っていたが腕は上がらず、服は所々破れ、額からは血を流している。
「龍護さん…これは一体…「小僧…よくも…」…?」
前から声がして顔を上げる。
そこには左腕を失った小野崎が立っていた。
「おの…ざき……なぜ…」
「忘れたか…?七天龍の力はその所持者が死なぬ限り完全に奪う事は出来ない…雪菜…そいつを殺せ…」
雪菜は驚いた表情で龍護と小野崎を交互に見る。
何を考えたのか雪菜は左手に銃を持ち替えた。
「何をしている!さっさと…!!!!」
ダァン!!!!
一発の銃声。
そしてその弾道には────────小野崎がいた。
「な…何故…」
小野崎はフラつき、遂に倒れた。
「雪菜…さん…?」
「龍護さん…今までの事…思い出しました…そして今何が起こっているのかも分かってます…ですから早く2人から龍を取り、この戦争を終わらせるしか方法はありません…」
どうか…急いで…と言い残し、雪菜も力尽きた。
「クッ…」
龍護は必死に立ち上がり、息絶えた小野崎から【傲慢の龍】を奪い取る。
そして友姫にも歩み寄り、ゴメンな…と言いながら【怠惰の龍】を友姫から取った。
その直後だった。
7つの靄が再び現れ、龍護を取り囲む。
『おめでとう』
『お前が今回の新たな勝者だ』
『さぁ、願いを────』
「悪ぃがこの遊戯はお開きだ」
どこからか男の声がした。
「っ…誰だ?」
「上だ上」
声に誘導され、上を見上げるそこには赤い髪の青年が降りて来ていた。
『馬鹿な…!』
『この世界には』
『干渉出来ぬはず…!』
『何故…!!!!』
「なぜ?そりゃ簡単だ。この偽物の遊戯が終わった瞬間、お前らは必ず勝者を天界に連れ込む為に下界にその姿を現す。その時にあの道を作るはずだ。だからそれを無理矢理破って来てやったのさ」
『おのれ…』
『我々の遊戯に邪魔をするなど…!!!!』
7つの靄と1人の青年のやり取りに置いてけぼりの龍護だが彼らのやり取りは続く。
『ならば』
『お前でも干渉出来ぬ程に』
『更なる結界を』
『施すのみ!!!!』
7つの靄それぞれから紫色の紐の様なものが伸び、赤髪の青年に絡み付いていく。
そんな中、青年は龍護に気付く。
「悪ぃ、ちょいと力借りるぞ」
「えっ…?ちょっ…!」
龍護の静止を無視し、龍の紋章の付いた左手を掴む。
「おー、さすが狂楽神が作ったコピー品。本物と殆ど変わりゃしねぇ」
たちまち赤髪の青年が薄くなり、消えそうになっていく。
『終わりだ』
『我らの遊戯に邪魔などさせん』
「ハッ…これで俺を消すつもりか?けど────」
赤髪の青年の全身が七色のオーラに包まれる。
「────本物を舐めんじゃねぇ」
ゴウッ────!!!!!!!!!!!!
七色のオーラが青年に絡み付いていた紐は瞬く間に消える。
「悪ぃ雄輔、このままラチが明かねぇから一旦連れてくぞ」
「ちょっ…!?連れてってど────」
こに?と言い切る前に龍護と赤髪の青年はその場から姿を消した。
◆◇◆◇◆◇
真っ白な空間で龍護は目を覚ます。
「…ここは」
辺りを見回すがあるのは綺麗な装飾が形取られた支柱が何本も綺麗に並んでいるだけだ。
「あー、いたいた」
声のした方を向くと、そこには先程の赤い髪の青年がいた。
「悪ぃな、なんの事情の説明も無しにここに呼んじまって」
「ここは…?」
「ここは天界つってな、亡くなった奴の魂は最初ここに運ばれるんだ。で、基本は記憶を消して新たな世界に送り込まれる。言わば魂の循環さ。けどたまにここで目を覚ますやつがいるんだ。そういったやつは運が良かったり不運に巻き込まれて死ぬ予定では無い死を迎えているからちょっとばかし力を与えて転生なんかもさせてんだ」
ここの事は大体理解したがこの青年の言った内容だと最悪その世界のパワーバランスが崩れかねない。
その場合は?と尋ねてみる。
「そういった場合は軽い監視、酷い場合はその力の抑制。その世界を滅ぼすって事が無い限りその力を奪うってつもりはねぇよ。っともう少し色々と説明してぇがこっちにもやる事と会わせるやつがいる。とりあえず俺に着いてきてくれ」
分かった。とだけ伝え、龍護は青年の後を着いて行った。
◇◆◇◆◇◆
「そういや俺の名を告げて無かったな…と言っても俺達は決まった名前はねぇから…そうだな…とりあえずアテナでいいや。それと敬語とかはよしてくれ。そういうのは苦手な性格でな」
「分かった…ってアテナって神の名前じゃねぇか」
「まぁ神だからな」
「へ?」
「言ったろ?ここは天界。この空間でお前ら人間の様子を見てんだ。ま、今回はちょっとした不運に見舞われちまったがな」
アテナの言った事に龍護は驚きを隠せないが1つ気になった事もあった。
あの世界の事と友姫の事だ。
「そうだな。行きながら説明すっか」
アテナによると、あの世界は元々は”七天龍の遊戯”は存在しなかった世界らしく、あの世界を管理していた神が何者かによって精神をおかしくされ、制御を奪われたのだとか。
龍護のいた世界は一番最近出来たばかり(と言っても出来たのは1億年以上前)で安定もしていなかった為、そこを狙われたらしい。
そして今回の元凶こそが【狂楽神】と呼ばれる神で麻薬や覚醒剤等、違法な薬物に宿る神とされている。
その神によって龍護のいた世界の世界神、理神、時空神、魔法神、龍神といったあの世界を構築する神々は支配されてしまっていたようだ。
「ま、狂楽神自体、ほぼ堕神とも言うべき存在なんだがな…」
「?堕神?邪神とは違うのか?」
「あぁ、神ってのは下界の生物の生き死に手を出したらいけないルールになってんだ。人や生き物の死に触れた神…堕ちた神と書いて”堕神”だ」
「ん?ちょっと待て?ていう事は俺は本来あの世界に転生するはずは無かったって事か?」
「あぁ、元々お前…前世で就活していたお前は受けた会社に入社が決まり、そこで最年少幹部として活躍するはずだったんだ。だが狂楽神が支配した世界には強欲の龍の力を持てる器が存在しなかった…唯一見付けられたのがお前だったんだよ。だからこそお前は狂楽神によって殺されたんだ」
んな理不尽な…と思うが過ぎ去った事を嘆いても変わらないと思ったのかため息で終わらせる龍護。
「っと着いたぞ」
アテナが突然立ち止まる。
その目の前にあったのは巨大な両開きの扉だった。
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