第41話 重なる場所
午後10:00、とある廃工場。
龍護、友姫、雪菜の3人は夜中にこの廃工場に来ていた。
「ガラーンとしてるね」
「まぁ廃工場だからな。移転の場合、機械バラして移転先に持って行くから普通こうなるらしいぞ?」
友姫と龍護が並んで歩く中、雪菜は少し距離を置いて2人のあとを着いて行く。
(にしても…夢で見た所と結構似てるな…)
「そろそろ撮影しますか?」
「あー…そうですね…けど街灯近くでやらないと顔も分から──────」
ズドン!
ゴッ!
途端、銃声と何かがぶつかる音が響く。
「…っ!」
「ッチ…やっぱりアンタが手先っつーのは本当だったのかよ」
「龍護さん…その腕…」
雪菜が見たのは左腕全体をシールドのように変形させた龍護だった。
「部分変化っていう【強欲の龍】の能力だ…いや…正しくは【強欲の龍】の力の”一部”と言っておくか。ちょっとしたメッセージを受け取ってね。アンタが【傲慢の龍】の所持者の手先ってのを聞いて少しでも力を鍛える為に努力してたんだよ」
龍護はシールドと化した腕を元に戻し、雪菜に向き直る。
「最初俺も驚いたよ。まさかアンタが【傲慢の龍】の力を譲渡されて、その上、その力を使って俺達に近付き、そしてアンタの雇い主は喜龍学園に龍の所持者を集めようとしてたんだからな…そうだろ!【傲慢の龍】の所持者にしてこの国の総理大臣である────────小野崎慢作さんよぉ!」
その言葉に答えるかのように拍手が雪菜の後ろから聞こえてくる。
そう、【傲慢の龍】の所持者にして、今回の七天龍の遊戯を始めた張本人、小野崎慢作だ。
「とりあえずお見事。と言っておこうか。なぜ私が【傲慢の龍】の所持者だと気付いた?」
「学園の食堂にあったテレビ画面で放送されてた政治家達の会議でだよ。先に発言した議員は外国人の死亡をそのままの意味で”亡くなった”と言っていた。だがお前は違う。お前は”殺害されてる”と言っていた。殺害か事故かなんてその時居合わせた人しか分からねぇ筈だ。にも関わらずお前は”殺害されてる”と言ったからだ。そしてもう1つ。ネストの編入だ。本来ならばネストは喜龍学園に入れる筈は無い…が、恐らくお前が傲慢の龍の力を使って無理矢理入れたんだろ?」
龍護の推測に再び拍手をする小野崎。
「素晴らしいよ。まさかそんな方向から私を見付けるとはね」
「これから倒す相手に褒められたって嬉しかねぇよ」
「倒す?誰をだい?」
その言葉に答えるかのように後ろから銃を持った武装集団が現れる。
「なっ…!?」
「さようなら【強欲の龍】の奪木龍護君」
ダダダダダ!!!!
一斉に始まる射撃。
だがその全ては龍護に当たらなかった。
代わりに、龍護の頬に血が飛んでくる。
「……え…?」
一瞬、分からなかった。
いや”分かりたくなかった”
目の前には龍護を庇うようにして立つ友姫の姿。
友姫は龍護の盾になったのだ。
コプ…と血を吐き、力無く倒れる友姫。
「友姫!!!!」
すぐに友姫抱き抱える。
「お前…どうして…!!!!」
「なんとなく…分かるの…」
息が絶え絶えだが必死に言葉を紡ぐ友姫。
「リューゴしか……この遊戯を終わらせる人は…いないって……」
「だからって!!!!」
「ハハハ、泣かせるね」
小野崎の言葉にキッ!と睨む龍護。
「おー、怖い怖い。怖いから…」
キィン────────
途端に小野崎の左目がドス黒く光り出す。
「すぐに終わらせよう」
黒い靄が小野崎を包み込み、巨大化していく。
(なんだ…!?何が来るんだ…!?)
廃工場の天井まで届いた靄が消えていく。
そこに現れたのは黒い西洋の龍だった。
そしてそこで龍護はある既視感を感じた。
(この光景…まさか!)
龍護はあの時の夢の光景を思い出す。
血だらけで倒れる少女
廃工場
黒い龍
あの夢は正夢だったのだ。
「そんな…」
「サァ…オワリダ」
小野崎の声で龍が喋る。
「リュー…ゴ…」
「っ!友姫!?」
友姫が龍護の裾を必死に掴む。
「お願い…私を使って…あいつを……」
「……分かった…」
龍護と友姫は互いに紋章を輝かせる。
そして2人は白い光に包まれた。
「ムダダ!!!!」
黒い龍から放たれる光球状の炎のブレス。
そのブレスは白い光を掻き消した。
「シンダk…「誰が死んだって?」っ!?」
すぐに辺りを見回す。
すると着弾した場所の上から水色の髪をした中性的な顔付きの人間が降りてくる。
龍護と友姫の融合体だ。
着弾点に降り立った龍護はすぐに左手の紋章を輝かせた。
「次は俺の番だ」
ゴウッ────────!!!!!!!!
龍護を中心に吹き荒れる風。
龍化した小野崎を残して雪菜と武装集団は吹き飛ばされる。
そしてその風が止む頃、黒い龍と同等の大きさをした白い龍が現れた。
「ホウ…ワタシトオナジチカラデヤリアウツモリカ」
「安心しろよ。すぐにその喉、喰いちぎってやる!!!!」
バサッ!!!!と翼を広げ、天高く飛び上がる龍護。
バキバキと音を立てて右腕が一本の槍のような形状になる。
「っらぁ!」
龍化した小野崎に突進する龍護。
「っ!グウッ…!?」
予想以上に衝撃が強かったのか、槍の腕を受け止めたものの、小野崎は押され、廃工場の壁を壊しながら引き摺られていく。
「ウオオオ!!!!!!!!」
小野崎が黒い尻尾を使って龍化した龍護の翼に巻き付け、引き剥がす。
「コゾウ…チョウシニノルナヨ…!!!!」
両手に炎を灯し、殴り掛かる。
【憤怒の龍】の炎を操る能力だ。
「フンッ!!!!」
勢いを付けて思い切り拳を叩き付ける。
だが龍護は自らの手で真正面から受け止めた。
「ナンダト!?」
「お前、忘れたのか?俺には…【怠惰の龍】の能力も使えるんだよ!!!!」
龍護は白い光球を両手に纏わせ、小野崎殴り掛かる。
【怠惰の龍】の無効化能力で殴られた部分の龍化が解け、少しずつ不利になっていく小野崎。
最後には龍護に首を捕まれ、地面に叩き付けられた。
(マズイ…!!!!)
小野崎は【憤怒の龍】と【嫉妬の龍】を持っているが恐らく【怠惰の龍】の前では意味が無い。
必死に打開策を考えているが自身の龍化が消えていく。
(考えてる暇は無い…!!!!)
小野崎が【憤怒の龍】と【嫉妬の龍】の能力を発動しようとした時だった。
自身の中からその2つが消え、赤と紫の光となって浮かんでいく。
(!!!!何が…!?)
小野崎から離れた2つの光は白い龍、龍護に吸収されていく。
(まだだ…まだ足りない…)
龍化しても黒かった龍護の目が紅く染まり始める。
(もっとだ…もっと力が必要だ…コイツを殺して全てを罪を償わせて、こんな遊戯を始めた事すら後悔させる程の力が…!!!!)
グオオオォォォォオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!
龍護の怒りに答えるかのように再び白い龍が輝き出す。
その光は更に大きくなり、遂には黒い龍の3倍程の大きさにまで上り詰める。
(マダダ…マダタリナイ…モットダ…モットチカラヲヨコセ…コイツヲジゴクニオクリ、ゼツボウサセ、ココロモカラダモボロボロニナッテイノチゴイヲ、ユルシヲコウチカラヲオレニヨコセ…!!!!!!!!!!!!!!!!)
そして変化は起きた────────
光は収まったが代わりに龍化した足がボコボコと泡立ち、触手となって広がっていく。
その触手は木は愚か、建物も車も全てを飲み込んでいく。
あちらこちらで火が立ち昇り、サイレンが聞こえた。
「グオオオォォォォオオオアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その怒りは収まらず、龍化はますます大きくなっていく。
◆◇◆◇◆◇
「ん…?っ!?なにあれ…!?」
寝ていた白が大きな音に気付き、その龍が目に入った。
「白い…龍…!?」
すぐにスマホのニュースアプリを見る。
そこには今起きている謎の龍の暴走の様子が中継されていた。
このままじゃマズイと思ったのかすぐに雫と両親を起こして外に出る。
外も世紀末のようだった。
所々から火の粉が上がり、白い触手が侵攻を続けている。
「これ、マジで逃げないと!!!!」
両親が2人を呼び、車に乗せて走り出す。
白は野武と龍護、友姫にも連絡を取ろうとしたが龍護と友姫は出ない。
「あのバカ、どこで何してんのよ!!!!」
その本人が白い龍となって今も尚暴走しているのに気付くはずも無い白。
そんな白を他所に車は遠く離れていった。
◆◇◆◇◆◇
遠く離れている公園のジャングルジムの頂上にその男は座って白い龍の下半身広がり、街を飲み込む姿を見ていた。
「にしても面白い解釈だ。【強欲の龍】の能力に身体強化も龍化も全てその所持者が望んだから具現化されたんだ。”欲がある”というのはつまり、”今の自分が持っていないものを欲しがる”のと同義。だからこそ【強欲の龍】の本当の能力は”所持者の欲望を具現化する能力”だ。だからこそ力を欲しがったからそれに応えられる七天龍の力を小野崎のやつから吸収した…さて…そろそろ頃合か?」
その男が見ていた白い龍の目が七色に輝き始める。
「七天龍…その力は余りにも強大でその世界1つ滅ぼせてしまう…それ程の力を持った龍が何故、人に埋め込まれても暴走しない?簡単な話だ。あれは元々一体の龍だったからだ。つまり、例えその力を引き出せてもせいぜい七分の一…完全にその力を行使する事など不可能だからだ。だが、その分割された力であれば人間が扱うなら事足りる…そして例え集めても【傲慢の龍】がそれぞれの能力を支配し、【強欲の龍】で強めなければ集めても混ざり切らずコントロール出来てしまう…だが遂に今、その力は戻った…さぁ…復活しろ…」
白い龍の全身は輝き、更に大きくなり、首が七本に分かれていく。
「真の龍【七天龍】の復活だ」
◆◇◆◇◆◇
何も見えない。
何も感じない。
ただあるのは抑えられぬ怒りと、溢れ、抑制出来ぬ力だけ。
その青年は暗闇の中を漂い続け、自分が誰だか分からなくなり始めていた。
(俺は…一体…?)
誰かに怒りを覚えていたのは確かだ。
だがその相手は誰だ?
………
……
…
分からない。
自分は今何をしている?
すると誰かが青年を包み込む。
暖かく懐かしい…
『お願い…もう止めて…私なら大丈夫だから…』
泣きながら必死に青年を引き留めようとしている。
すると青年の目から一筋の涙が頬を伝って落ちる。
─────あぁ…そうだった…──────
─────俺は─────
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