第40話 2人の鍛錬

遊戯終了まで1ヶ月を切っていた。

いつ【傲慢の龍】の所持者が襲撃してくるかも分からないので少しでも【強欲の龍】の能力に慣れる為に親と教師には暫く学園を休みたいと言いたいが生憎その上手い理由を探せておらず、結局の所は早く起きて登校前と授業が終わった後の放課後に友姫の家で練習する事にした。

友姫は両親の遺品整理という理由で学園を休み、【怠惰の龍】の無効化能力を更に高めている最中だ。

ただ、龍護としては友姫とは協力関係にある為、少しでもいいからお互いにすぐにフォロー出来る距離を持ちたい所だ。

あれこれ考えてる内に午前中の授業が終わり、白、雫、野武と一緒に食堂に向かった。



◇◆◇◆◇◆



食堂の壁に掛けられたモニターには議員同士が討論していた。


『総理、現在この日本では少なくとも2人の外国人が謎の変死を遂げています。それはこの国の危機管理の無さ、公共交通機関の不便さが原因であると思われますが如何でしょう?』


発言を終えた議員が座り、内閣総理大臣の小野崎慢作がそれに対応する。


『確かに現在日本で2人の外国人が殺害されている事に関しては周知しておりますが詳しい内容は現時点では調査中とだけ申しておきます』

「物騒だよなぁ…」


ニュースを見ていた野武が独りでに呟いた。


「まぁこの学園の生徒じゃない分不幸中の幸いなんじゃない?」


龍護はその話を黙って聞いていた。


(やっぱり残ってる【傲慢の龍】の所持者が記憶を改竄したか…)


そこまでして何になるんだよ…と溜め息が出るも、昼食のラーメンを啜る。


(まぁルシスもネストも殺が……ん?)


龍護は自分の思考に少しの疑問が沸いた。


(あれ?あの議員って”亡くなった”って言ったよな…?けどあの大臣は…)


とある答えに辿り着き、マジか…と両手で顔を覆う。


「…?どしたの龍護?」

「…なんでもない…」


全員が昼食を食べ終えて午後の授業に挑んだ。



◇◆◇◆◇◆



授業が終わり、真っ先に向かったのは友姫の家だ。


「友姫ー?いるかー?」


返事は無い。

だが靴があるから道場で稽古をしてるのだろう。


(ま、鍛えてんならいいか…)


龍護も靴を脱いで上がり、奥にある道場に向かう。


「フッ!フッ!フッ!」


友姫は道着を着て素振りをしていた。

夢中になっているのか、入ってきた龍護に気付く事も無い。

一頻り素振りを終えたのか、フゥを息を付いて額の汗を拭う。

そこで龍護がいた事に気付いた。


「あれ?リューゴ、いつの間に?」

「つい数分前からな、っと短いけど俺も稽古してくわ」


庭借りるぞー。と言い残し、サンダルを履いて庭の真ん中に立つ。


「……よし…」


深呼吸してから左手の甲の紋章に意識を集中させ、龍化を促す。

だが…


「…ッくっそー!全然出来ねぇ…!」


今龍護がやろうとしているのは部分的な龍化なのだが全身を龍化するのに比べ部分的である為、中々の集中力も必要になってくる。

今の所成功率は10回に1回程度…10%の確率で部分龍化は発動出来ていた。


(どうにかしていつでも出来るようにしとかねぇとな…)


もう一度部分龍化を試してみるも、右腕が少し白く輝くだけで龍化は出来ていなかった。


(魔法とは勝手が違うんだろうな……あれ?そういや…)


龍護はとある事に気付き、縁側で休んでいる友姫の元へ行く。


「友姫って前は魔法の制御って下手だったよな?」

「…地味にトゲのある質問してきたね…まぁ前はね?でも今は魔力そのものがどういうのかというのが分かったし、龍護が制御の仕方を教えてくれたのもあるよ?」

「まぁそれは分かってんだけど、【怠惰の龍】の能力は簡単に使ってたじゃん?龍の能力と魔法って何か違いがあるのか?」

「…あー、そういう事?…あれ?お父さんから聞いてないの?」

「え?何を?」

「魔力は分かりやすく言うと体力の亜種みたいな感じなの。ほら、人って動き回るといずれ体力が減るから疲れるけど休んだら少しづつ体力って戻るでしょ?魔力も同じで使ったら身体の中の魔力は減るけど身体の中で魔力がジワジワと生成されるからまた魔法が使えるの。けど龍の能力は体力と違って”現時点での自分のポテンシャル”によって左右されるらしいの。具体的に言うと”目的の強さ”って感じかな」

(なるほど…)


確かに今までの戦いでは、友姫や龍護が能力を使う時、


・ネストの【嫉妬の龍】の能力に対抗する

・戦闘ヘリに勝てるレベルの力を使う


等、明確な目的があり、それに本人達が集中していたものであった。


(目的の強さ…か…)


龍護は何やらブツブツと呟いている。

どうやら何か【強欲の龍】の有効な使い道を掴んだようだ。


(俺の考えが正しければ部分龍化以上の事が出来るかもな…)


そうと決まれば特訓だ!と意気込んで庭の真ん中に立って特訓を始めた。



◇◆◇◆◇◆



2人が特訓を始めて一週間が経つ。

今では自由自在にお互いの龍の能力を出せるようになっていた。

そして龍護が動き出す。


「動画撮影?」

「あぁ、【傲慢の龍】の所持者に向けてその動画を送ろうと思ってんだ。で、俺が撮るから友姫にこの文章を読んで欲しいんだけどいいか?」


龍護の言葉に分かったと答える友姫。

すると帰ってきたのか雪菜が2人に姿を見せた。


「あ、お2人さん、こちらにいらしたんですか」

「あ、そうだ雪菜さん、ちょっといいっすか?」

「?」


雪菜にとある動画を撮影したい事を説明した龍護に雪菜が提案した。


「でしたら町外れの廃工場はどうでしょう?」

「え?廃工場って…あ、なんか経営が傾いて会社自体畳んだ所あったっけ…」


雪菜の言葉に何の工場だか覚えてないが廃工場になった所を思い出す龍護。

そこなら立ち入り禁止な所でも無いし、何より安全と思い、明日、そこへ向かうのだった。

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