第39話 危険な蜜の味 後編
突然キスをしたインソン。
(!?!?)
突然の事に戸惑い、固まる龍護。
(待て待て待てどうしたんだ急に!?)
その理由はすぐに分かった。
「…何してるの2人とも…?」
聞き覚えのある声。
龍護にとっては聞き間違いであって欲しい声。
咄嗟に振り向くと不安でいっぱいになった友姫がいた。
「おま…ってインソン…っ!?」
突然距離を取るインソン
そしてインソンがいた所を炎の槍が降り注いだ。
インソンに至っては「ちょっとやり過ぎたかな?」と言いたげな様子だ。
「お前…一体…っ!?」
龍護の視界がボヤけ初め、友姫に寄り掛かる。
友姫もすぐに気付いて龍護を支え、近くの芝生の上に寝かせた。
「インソンちゃん…これはどういう事…?」
完全に臨戦態勢の友姫に悪びれも無く笑うインソン。
「どうもこうも無いよ?ただ単に」
その言葉と同時にバキバキという音をたてながらインソンの右腕がゴリラの腕のように変貌していく。
「この場で2人を仕留めようかな?ってねっ!!!!」
勢い良く飛び上がり、友姫の真上からゴリラの腕と化し、強固になった拳を叩き込む。
だが寸での所で友姫が躱し、ドゴン!!!!という鈍い音を立てて地面は抉られた。
友姫も応戦の為に【怠惰の龍】の無効化能力を纏った右脚でインソンを蹴る。
インソンは再び飛び上がって躱すと風魔法を巧みに使って距離を取った。
「さっすがぁ~!」
友姫が龍護のいる反対方向に走り、龍護へ流れ弾が来ないように距離を取る。
そしてインソンと向かい合った。
「さぁ…始めようか」
インソンが妖美な笑みを浮かべていた。
◇◆◇◆◇◆
「ん…あれ?」
龍護が起き上がる。
それと同時に自分に何が起きたのかを把握した。
(そうか…眠らされたのか…チッ…暴食の龍はそういった能力なのかよ…)
するとどこからか轟音が鳴り響く。
「やっべ…友姫のやつマジギレしてやがる…」
少しふらつきながらも立ち上がり、友姫とインソンがいる方へ向かった。
◇◆◇◆◇◆
ドォン!ドォン!
巨大な土煙が至る所で舞い上がる。
友姫とインソンはお互いに七天龍の力や魔法、体術を駆使して闘っていた。
「アハハ!凄い凄い!やっぱり龍護君を狙っただけの事はあるよ!」
インソンは友姫の攻撃を完全に見切って躱している。
友姫は自分の攻撃が当たらない事に少しづつイライラし始めていた。
(なんで…!なんで当たらない…!?早く倒してリューゴを治療しないと…!もうこれ以上…!)
これ以上、自分の大切な人を奪わせない
そう心に誓って自らの拳を振るう。
「友姫!」
その声に友姫が気付いた。
「…!リューゴ!」
インソンと戦闘中だが、そんな事をお構い無しにリューゴに抱き着く。
「大丈夫!?痛いとこ無い!?」
色んな所を触り、龍護を労る。
「俺は何ともない。それよりも…」
龍護はインソンを見た。
「やっと【暴食の龍】の能力が判明したよ。お前の持つ【暴食の龍】力は”食べた物の性質を自分自身に取り込む”能力だ。鉄や鋼といった硬い金属を喰らえば自分の身体を硬くし、脚の速い生物を喰らえば自分の脚が速く、腕力のある生物を喰らえばその腕力を自分の物にして、自在に性質を使う事が出来る。だからお前は自分の国内の動物園を襲撃し、その強い性質を自分の物にした…そうだろ?」
へぇ…とインソンが関心する。
「正解。よく分かったねぇ?花丸あげるよ」
「そんなもんいらねぇよ。その代わり、お前の紋章を貰う」
龍護が友姫の前に立ち、【強欲の龍】の紋章を輝かせる。
だがその龍護の右肩に友姫の手が乗った。
「?友姫?」
「リューゴ…」
龍護の後ろに立っていた友姫が横に並ぶ。
「…やろう。2人で」
その言葉の意味を察し、龍護は無言で友姫の手を握る。
「?2人とも何を…」
「インソン…お前に見せてやるよ…これが…」
龍護の紋章と友姫の紋章が眩しく輝き出した。
「「俺達(私達)の絆だ」」
カッ!!!!と目を覆いたくなる程の閃光が辺りを包む。
そして晴れた時には、龍護と友姫がいた所に1人の中性的で、肩まで伸びた水色の髪をした龍護と友姫の融合体が立っていた。
『行くよリューゴ!』
『おう!』
ダッ!と走り出す。
拳にした右手でインソンに殴り掛かる。
だがインソンも負けじと【暴食の龍】の能力を使って右腕全体をゴリラの状態にし、龍護達の手を掴もうとした。
それを見越していたのか、すかさず龍護達は自分達の右手に【怠惰の龍】の無効化能力を纏わせる。
その右手がインソンの右腕に触れた瞬間、意図も容易くインソンの能力が解かれ、顔にクリーンヒットした。
「くっ…!!!!」
龍護達はその攻撃の手を止めない。
右手、左脚、左手、右脚と次々に無効化能力を纏わせて撃っていく。
「はっ!!!!」
右手による突きがインソンの腹部に当たって吹き飛び、インソンは片膝を着いた。
「…ケホッ…コホッ…」
湧き上がる吐き気を我慢し、痛む腹部を抱えて立ち上がる。
「これは…少し…予想外かなぁ…」
ククク…と追い詰められているにも関わらず笑みを浮かべるインソン。
「もう辞めとけ。お前の負けだ」
「私の負け?そんな根拠何処にあるのさ?ましてや…」
スッ…と余裕の笑みを浮かべたインソン。
「【暴食の龍】の全力すら出てないのに勝った気になる君達の方がどうかしてるよ!」
インソンの持つ紋章がより一層輝き出す。
すると脚や腕がより筋肉質になり、背中からは翼が生える。
その姿はまるで翼を生やした悪魔だ。
「なっ!?」
「私がいつ能力の使用の際は1回に付き、1つの性質しか使えないって言ったかな!?その気になれば私が取り込んだ全ての性質を纏めて使えるんだよ!」
ドン!!!!という音と共に目の前からインソンが消える。
龍護達はすぐに無効化能力のフィールドを作ろうとしたが遅かった。
「遅い!」
「グッ…!!!!」
左側から迫ったインソンが太くなった右脚で抉るように龍護達の脇腹を蹴り飛ばす。
防げなかった龍護達は宙を舞って吹き飛ばされる。
「次!」
「ガッ…!」
反対側に回り込まれ、逆の脇腹を再び蹴り飛ばされる。
「ほらほらほら!能力使って防ぎなよ!防げるもんならね!!!!」
「こ…のっ!!!!」
反撃しようとするが高速で飛び回るインソンに狙いが定められず次々に連打を食らう。
無効化能力のフィールドは紋章に意識を集中させないと使う事が出来ない。
ましてや今はインソンに連打を食らってる最中だ。
次々と身体に現れる痛みに意識が集中してしまい、紋章に意識を向ける事が出来ない。
「クソがァっ!!!!」
思い切り右手の拳を地面に叩き付け、自分の周りを土壁で囲む。
(どうする!スピードや手数で奴に勝てるとは思えねぇ!それなら…!)
必死に頭で考える中、その声は聞こえた。
「ガラ空きだよ」
その声は上からだった。
インソンは真上から加速して巨大化した右脚の踵を龍護達に叩き付けた。
その衝撃で今日一番の土煙が立ち、地面にもクレーターが出来上がる。
そしてそのクレーターの真ん中に頭から血を流した龍護達がいた。
幸いにも融合は解かれてないが、その状態からして今すぐにでも解けてしまいそうな状態だ。
そんな龍護達に近付き、乱暴に髪を掴み上げる。
「く…そっ…」
「少し予定は狂ったけど、まぁ、大丈夫かな…それじゃ、紋章を貰…」
紋章を奪い取ろうとしてそれは起きた。
何処からか爆発物が友姫の家の敷地内に投げ入れられ、爆発する。
咄嗟の事にインソンは龍護達を抱えてその場を離れた。
「…何?今の…っ!?」
その光景はインソンでも息を呑んだ。
4機程の軍用ヘリと武装した者達。
それを見てインソンは察した。
(同士討ちして漁夫の利って事?マジで最悪…)
倒した2人を取られる訳にはいかないとインソンは融合した龍護の身体を抱えて飛び上がる。
その時だった。
一本の細い光がインソンの腹部を貫く。
光属性による魔力のレーザーだ。
「が…はっ…!?」
あまりの激痛にインソンは吐血しながらも負けじと翼を使って加速し、その場を離れ、遠くの山へ向かった。
「────。────?────」
武装していた集団の中のリーダー的な者が通信を行い、部下と思われる者達とその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆
飛行して逃げていたインソンにも限界がきたのか、空中で能力が解けてしまい、龍護達と共に山の中にバキバキと音を立てて落ちていく。
幸い木の枝達がクッションになったのか、地面に落ちても骨折等の怪我はしなかった。
そしてここで融合が解ける龍護達。
「うっ…くっ…」
痛みに耐えながら必死に立ち上がる龍護。
「…あれ?何処だ…?…!友姫!」
倒れている友姫に駆け寄る龍護。
どうやら気絶してるようだ。
安堵の息を付きながら辺りを見回す。
するとその視界の端に血だらけのインソンを捉えた。
「インソン!?」
すぐにインソンの上半身を起こし、近くの木に寄り掛からせる。
「おい!どうした!誰にやられた!?」
「さぁ…ね?自分もよく分かってないんだわ…」
ハハハ…と乾いた笑いを見せるがその顔には死相が浮かんでいた。
「恐らく…私達が接触する事を見越して、機を待ってたのかもね…」
「それってどういう…」
「漁夫の利だよ…お互いに弱った所を爆弾で一網打尽…それで七天龍の遊戯の決着が着く予定だったんだろう…けど私が2人を抱えて逃げたから作戦は失敗…多分また来るだろうね…」
ハァ…ハァ…肩で息をするインソン。
その腹部からは未だに血が流れている。
その量から察するにもう助かる見込みは無いだろう。
それを察したのか、インソンが口を開いた。
「龍護君…紋章を…貰ってよ…」
「…お前…」
「これは勘だけど恐らくこの遊戯で勝てるのは君だと思う…だからその君にこの紋章を託したい…早く…」
「…分かった…」
龍護がインソンに手を翳し、そのキーワードを唱える。
「【我が元に集え】」
インソンの紋章から光の粒となって身体から離れ、龍護の左手にある紋章に集まっていく。
それを見たインソンは龍護に聞こえるか聞こえないかの声で、あとは任せるよ…と呟く。
そして龍護の紋章は白、ピンク、黄色の三色に別れて輝いていた。
「お前の紋章…確かに受け取ったよ…。…?インソン…?」
目が空いてるのに反応が無い。
そしてその目も濁っていた。
「…必ず勝つから…」
そう言い残し、龍護はインソンの目を優しく閉じた。
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