第44話 元の世界へ
ゼウスに抱えられて再びこの世界に足を踏み入れる龍護。
ゼウスは持っていた籠に赤子になった龍護を入れる。
「龍護さん、七天龍の遊戯を止めてくれた事、感謝しています。そして貴方の新たな人生に幸ある事を願います。貴方の中に理空界神の力はありますがこの世界に生きている以上は使えません。ですがいざと言う時は私達が感謝の印として貴方を助けましょう。それでは龍護さん、また天界で…」
そう言い残し、ゼウスは消えた。
そしてそれと同時に恵美が姿を現す。
「あれ?君どうしたの?」
懐かしいな…と龍護は泣きそうになった。
「うーん、ここにいても危ないだけだから…あ、私の家においでよ!あそこなら安全だよ!」
恵美は籠ごと龍護を持ち上げ、自分の家に連れて行く。
◇◆◇◆◇◆
恵美の家の前まで着いた。
苗字も【奪木】と変わっていない。
「おばーちゃーん!森に赤ちゃんがいた!」
「え?森に?捨てられたのかねぇ?」
「おばぁちゃん、どうしよう?」
「うーん…どうしようって言われても…ん?」
恵美の祖母は籠に紙が入っているのを見つける。
《この子を拾ってくれた方が優しい人である事を願います。見知らぬ身勝手な私をお許し下さい。私の元では育てられないのでこの籠を拾ってくれた方にその子のお願いします》
手紙はゼウスが書いていた。
それを見て祖母は龍護を家族に迎え入れる事を決めた。
「私の弟になるの!?なら私が名前決めていい!?」
ちゃんと考えて付けなさいよ?と祖母に言われ、うーん、と恵美は頭を悩ませる。
「…龍護…」
「龍護?」
「うん…というか何故か分からないけどこの子を見た瞬間その名前が思い付いたの」
「龍護か…いい名前だねぇ」
ほんと!?と祖母に褒められはしゃぐ恵美。
「私は恵美!宜しくね!龍護!」
こうして龍護はまた新たな人生を歩むのだった…
◇◆◇◆◇◆
龍護が転生して15年が過ぎ、15歳となった。
だが龍護は落ち着けない様子だ。
もしも間違っていなければ今日友姫と再開出来る日だ。
「行くか…」
龍護は早めに朝食を摂って家を出る。
通う学校は喜龍学園だ。
少し歩いた所で辺りを見回す。
「…あれ?会わねぇ…違ったか?」
龍護が少し歩こうとした時だった。
ドカッ!と誰かにぶつかる。
「いって!?」
「ア!ゴメンナサイ!」
その声を聞いて龍護はハッとした。
聞き覚えがあり、七天龍の遊戯で共に戦った人物。
「えっと…大丈夫?」
「ハイ、ダイジョウブデス」
その姿を見て確信した。
長い金髪、同じ服装。
友姫だ。
龍護は咄嗟に抱きしめてしまった。
「!?エ!?エ!?」
「ごめん…でも今はこうさせてくれ…!」
ポロポロと涙が零れる。
ようやく逢えた。
「ただいま…友姫…」
「え!?何で私の名前を!?」
驚く友姫を他所に龍護は抱きしめたまま泣き続けていた。
◇◆◇◆◇◆
その後の生活は変わらぬままだった。
以前と同様友姫は龍護と恋人になり、恵美とルシスも恋人になっていた。
だが少しだけ違う所がいくつかあった。
まず、【嫉妬の龍】の所持者であったネスト・ジェーラスと【暴食の龍】の所持者だったリ・インソンが転校して来なかった。
恐らくは微妙に違う世界線で【傲慢の龍】の力が及んでいない為、お互いにちゃんとした自国の高校に通っているのだろう。
そのネストに聞こえはしないだろうが龍護は頑張れよ…と呟いていた。
次に楠木魅子は声優として活躍していなかった。
元々【色欲の龍】の力で周りを魅了していたのでその効果が消え、別の仕事の道を歩んでいるのかもしれない。
【傲慢の龍】の所持者であった小野崎慢作の所在は不明だ。
一般人として生活しているか、もしくは全く違う世界に飛ばされ、なんの力も与えられずに生活しているのかもしれない。
だが油断はならない、例え異変が収まった世界でも何時どこでまた歯車が狂うのか分からない。
龍護はその異変がいつ来てもおかしくないように一日一日を大切に過ごすのだった。
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