第37話 互いの思惑

翌日。

インソンは学校を休んで国会議事堂に来ていた。

そして裏側の人が殆どいない所に行って暴食の龍の能力を使う。


「【暴食の龍:空気】」


黄色のオーラがインソンを包み込んだ。

オーラが完全に消えた事を確認して再び正面に戻り、次は堂々と入っていく。

だが警備員はその様子に気付いていない。

【暴食の龍】の”食べた対象の能力を自分の物にする”能力だ。

つまり、以前、暴食の龍を使いながら空気の食べた事によって自分の存在を空気レベルにまで落としている。

そうする事で内部に入りやすくしたのだ。


(まずは侵入成功っと…♪)


本来国会議事堂は見学のエリアを制限しているが今のインソンには無意味だ。

立ち入り禁止と書かれている看板の前に警備員がいても真正面から堂々と入っていく。

それでも空気レベルに自分の存在が低下したインソンは全く気付かれない。

そして本人が狙うは衆議院議場だ。

よくテレビで議員がマイク越しに議論し合うのがここである。

その扉を前にしてインソンは立ち止まった。


(ヤッバ…私入れない…)


既に扉は閉まっている。

このまま行ってしまうと勝手に扉が開いたような形になり、かなり怪しまれる。


(…使ってみるか)


インソンは紋章に意識を集中させると淡く輝き出す。


(【暴食の龍:超音波】)


キィン…


インソンが超音波を発して周囲を見渡す。

そうする事でどこに抜け穴があるか探しているのだ。

何度も超音波を発してその抜け穴は見付かった。


(あの通気口かぁ…どこから入れるかな…)


再び超音波で周囲を探して通気口の入口を探し、それを見付けた。


(よし…行くか)


インソンが再び歩き出す。



◇◆◇◆◇◆



インソンが選んだのは女性用のトイレだった。

その天井に格子があり、そこから議場に向かうつもりだ。

女子トイレの前に【清掃中】の立て看板を置いてハシゴを使って格子を外そうとする。

…が…


(意外と固っ!)


ここでも暴食の龍の能力で、集めていた力を使う。


(【暴食の龍:ゴリラ(腕のみ)】)


インソンの両腕がゴリラのように変わると再び鉄格子を掴む。


「せーのっ…ふんっ!」


バキィ!と音を鳴らして鉄格子は外れ、侵入した。


(えーっと…こっちだっけ?)


少しづつほふく前進で目的の所に向かっていく。

暫く進んでいると通気口の一部に下から光が差している所があった。

そしてそこから誰かしらの声が聞こえる。


「遊戯終了まで、あと1ヶ月ですが…大丈夫なのでしょうか?」

「気にするな。暴食の龍の所持者も日本の喜龍学園に呼んである。あとは彼等で殺し合って最後に生き残った者を私達が仕留めればいいだけだ」

「畏まりました。引き続き、【怠惰の龍】、【強欲の龍】、【暴食の龍】の監視を続けます」


その声は少しづつ遠ざかっていった。


(ふーん…私とあの2人を殺し合わせて最後に漁夫の利をしようって事かー。中々面白いじゃん。これはあの2人の方に付いて、【傲慢の龍】を龍護君と一緒に殺した後に龍護君、友姫ちゃんの順で殺った方がいいかな♪だとしたら3人で一緒になった方がいいよね…)


偵察を終えたインソンはすぐに通気口から脱出しようと振り返った時だった。


「うわっ!?」


目の前を小さなハエが通り過ぎる。

突然の事に声を出してしまう。


「ん?誰かいるのか?」

(ヤバッ!)


必死に息を押し殺して悟られないようにしている。

すると先程いたハエが通気口の隙間からしたの通路に出ていった。


「…ハエか」


そう言って声の主は何処かに行ったようだ。

誰も通ってない事を確認してからインソンは通路に降りてくる。


「っぶなー…さっさとトンズラするか…」


インソンは国会議事堂の1つの窓を割ってその場を去った。



◇◆◇◆◇◆



「ま、私としてはこうなる事は予測出来たんだがな」


とある執務室で男は目の前にいる女性にそう呟いた。


「…本当に私達の話を【暴食の龍】が盗み聞いていたんですか?」

「あぁ、その証拠に【暴食の龍】を追わせていたハエが私の所に戻って来たからね。この虫には【暴食の龍】が近付いたら私の元に戻るようにしてあったのだよ。恐らく【暴食の龍】…インソンはこの後帰って明日位にあの2人に接触し、家に堂々とはいる筈だ。そしてそこで私のスパイと知らぬ間に接触…後に殺されかけるだろうが【暴食の龍】の能力で形勢逆転、2人を倒した所で私がインソンを仕留めればこのゲームは終了だ。後は君に任せるよ」

「畏まりました」


パンツスーツの女性は男のいる部屋を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る