第36話 襲来

友姫が退院して一週間が経ち、今日から学園へ戻ってくる。

だが安心する事はまだ出来ない。

いつどこからか自分達の命が狙われかねない為、龍護は友姫に午前で早退しとけ。とだけ言っておいた。

友姫が教室に入って来て、教室内にいる生徒の全ての視線が友姫に向けられる。

するとたちまち友姫の所に人集りが出来て、それぞれで友姫を心配していた。

そしてホームルームが始まった際に、友姫本人が午後になったら早退する事を担任に伝えた。

ホームルームを終えて最初の授業が始まる。

龍護も心配そうに友姫を見つめていた。



◇◆◇◆◇◆



午前の授業を終えて、友姫は帰り支度を始める。

午後の教員には龍護が理由を言うつもりだ。

友姫か帰ろうとした所でインソンに呼び止められる。

何を話しているのかは龍護の所からは聞こえない。

だが表情から暗い内容では無いようだ。

だが仲良く話しているインソンの右裏腿にそれは見えた。


黄色い龍の紋章


間違いない。

【暴食の龍】の紋章だ。

その紋章を見て、ガタッと音を立てて龍護が立ち上がる。

それを見たインソンはニヤリと薄笑みを浮かべて友姫から離れ、友姫は家へと帰って行った。

そして【暴食の龍】の所持者であるインソンが龍護に歩み寄ってくる。


「後で校舎裏に来てね」


あまりにも流暢すぎる日本語。

インソンは留学してまだ1週間程度だ。

友姫でも日本語に慣れるのに半年程は掛かっている。

そんなすぐに日本語をマスター出来るとは思えない龍護はインソンに警戒しながら放課後になるのを待っていた。



◇◆◇◆◇◆



放課後になってインソンと龍護が一緒に校舎裏に向かう。


そして校舎裏に着いた瞬間、龍護が一気に距離を取り、戦闘態勢になる。


「ちょっ!待った待った!私はまだ敵対する気は無いよ!」

「悪ぃがその言葉は信用出来ない。お前をここに送り込んだ人物を教えろ」

「いやそんな事言われても…」

「何だよ?人質でも取られてるのかよ?」

「そうじゃなくて…私は母国の学校の担任から突然留学を指示されただけだよ」

「その上日本語が流暢すぎる。場合によっては事を交えるぜ?」


左手の甲にある紋章を輝かせて、いつでも龍化出来るようにする。

実はあれから練習を重ねて龍護は部分的に龍化出来るようになっていた。

今なら腕だけ龍化して相手を地面に押し付けて形勢を有利にする事だって可能だ。

その様子を見て、インソンはハァとため息を付く。


「まぁ日本語が流暢なのはちょっとね…けど、今は君に興味は無いよ。あるのは残っている【怠惰の龍】の友姫ちゃんと【傲慢の龍】の持ち主かな」


傲慢の龍という単語にピクリと反応する龍護。

そして自分の彼女である友姫が狙われている事が判明する。


「…友姫をどうするつもりだ?」

「え!?下の名前で呼んでるの!?え!?まさか彼氏とかなの!?うわ羨ましー!ポジション代わりたいー!!!!」


インソンの言葉に「ん?」と疑問が現れる。


「…まぁ彼氏なのは合ってるけど羨ましいって…」

「だってそうでしょ!あの子の両親死んだんだよね?そして心が弱りきってる所を狙えば即落ちで私の彼女確定しょ!あぁ、あの子が私に惹かれて私の手で堕ちてくのを間近で見れると思うと…あぁ、ゾクゾクするぅ…でも彼氏持ちかぁ…くそぉ!もう少し友姫ちゃんに早く会っていれば…!!!!」


顔を赤らめてクネクネと身体を震わせるインソン。

その様子を見た龍護は別の意味でインソンに危険性を感じていた。

だがそれと同時にある作戦が瞬時に思い付いた。


「…なんなら紹介しようか?」

「是非!!!!」


一瞬の迷いも無く龍護の提案に乗っかり、両手をガッチリと握るインソン。

チョロ過ぎないか…?と一瞬戸惑ったが、この様子なら友姫の為に多少なりの危険は犯して何かしらの情報は集めてくれるのでは無いか?と少し外道な考えを持った龍護は今度家に連れて行く事を約束して龍護はその場を後にしようとした時に気付いた。


「そういやさっき、【傲慢の龍】にも興味があるって…」

「正直言うと【傲慢の龍】の正体は知らない。ただ分かってるのはその持ち主がかなりの有権者って事かな」

「ん?お前中国からの留学生だよな?なんでそこまで分かるんだ?」


龍護の疑問にあー、とインソンは何かを察した。


「留学する時に政府からの命令だって担任から言われたからね。政府を動かせる人物と言ったら他国の政府でしかない。そして恐らく相手は私を知っている。だからこそ狙いやすいここに私を引きずり出してきた…私は推測出来るのはここまでだったね」


なるほど…と納得する龍護。

この際使える物は使うしか無いと判断したのか今後の対策を考える為に再びインソンと顔を合わせる約束をして教室へと先に戻った。



◇◆◇◆◇◆



「へぇ~…彼氏持ちかぁ…」


龍護が去った後でインソンはフフフッと急に怪しげに笑う。


「確かに私は女の子好きだけど本当に好きなのは彼氏が私に落ちて、その瞬間を見た彼女全てを壊された時の表情が好きなんだよなぁ…」


そう独り言を呟いたインソンは再び顔を赤らめて身体をくねらせる。


「友姫ちゃんが彼氏持ちでその彼氏が七天龍の遊戯の参加者なのは逆にいい展開だね。龍護君だっけ?友姫ちゃんの目の前で彼の唇取っちゃったら友姫ちゃん、縋る相手を盗られて発狂するだろうなぁ…そこで彼氏君には退場してもらって精神的に追い詰めてその上で肉体的に気持ちよーく追い詰めなきゃ…♪あぁ、考えるだけでおかしくなりそう…!」


身体をくねらせ続けるインソンの内腿に何らかの液体がツゥ…と滴り落ちる。

そして何かにハッとするインソン。


「そしたら先に龍護君から攻めるか!彼、確か七天龍の遊戯の参加者だったよね!なら片っ端から日本の偉い人を頭を食べて記憶を遡れば何かしらの情報は得られるよね!よし!少しの間学校休んで情報収集しないと!」


物騒な事を楽しそうに独り言で呟くインソンは帰ってから準備を進める事にした。

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