第35話 おかえり

学校を終えて友姫の入院している病院へバスで向かう最中、龍護は遠くを見て考えていた。

考えていたのは亡くなったスヴェンが残したSDカードに隠されていたメッセージの事だ。

全ての元凶が分かった…所まではいかないが有力な情報を得られたのは確かだ。

偶然…というものは中々バカにできない。

その”偶然”こそが龍護を導いてくれた。

病院に着いてバスを降り、病院を見上げる。

医師が言うにはもうすぐで退院出来るのだが龍護はあえて友姫に「先生にはまだ少し不安があるから自宅で療養させてほしいと言っておけ」と念を押していた。

エレベーターで上階に上がり、友姫の病室に入る。

そこでは医師によるカウンセリングが行われていた。


「あ、外で待ってます?」

「あ~出来るならそうしてほしいな」


分かりました。とだけ伝え、病室のドアを閉め、その階にあるロビーで待っていた。



◇◆◇◆◇◆



医師が出てきて龍護にもう入っていい事を伝える。

そのすれ違い様に呼び止められ、退院は明日出来るらしい。

龍護は軽く一礼して中へ入った。


「明日、退院出来るんだってな」

「うん、早く白とかに会いたいけど…」

「悪い…まだそれは控えてくれ」


分かった…と少し表情を曇らせる。

正直言ってしまうと、もう友姫を学校へ行かせたくない。というのが龍護の本音だ。

相手の正体が分からない以上、公の場である学校に行かせるのはどうも自殺行為に近い感じがした。

落ち込む友姫を宥めて帰り支度をする。

また明日なとだけ告げて龍護は再び友姫の家へと向かった。



◇◆◇◆◇◆



家に戻った龍護はパソコンでもう一度microSDカードの中身を調べた。


【龍護君へ】

まず結論から言おう。

私の所へ来た雪菜という女性は信じるな。

彼女は恐らく傲慢の龍の使いである可能性が高い。

そして恐らく私達に近付いたのは私の娘が最初から七天龍の遊戯の参加者である事を知っていたからだ。

申し訳ないがその本人を知る事は出来なかった。

だが確信している事がある。

その張本人はこの日本の政治を動かしている者の可能性は非常に高い。

その理由としては喜龍学園の留学生の受け入れだ。

ネストさんはもう亡くなってしまったがあの学園に入れてもらえる条件を1つもクリアしてないからだ。

そこから考えるにかなりの有権者なのは伺える。

君の姉とその彼女であったルシス君の通ってる天龍大学は調べる事は出来なかったが、なぜ憤怒の龍の所持者がそこにいると知っていたかも理由が付く。

恐らく傲慢の龍は前回遊戯勝者だ。

そしてその勝者の2つの褒美として再び遊戯を開催した上で誰が七天龍の所持者になるのかを聞いたのだろう。

その上でそれぞれの所持者の居場所を探り、日本に集めていたんだ。

もしも君がまだ倒されていないのであれば友姫を学校には行かせないで君共々私の家にいてほしい。

必ず勝ち残ってくれ。

【スヴェン・S・ラジネス】


これがスヴェンが残した最後の希望だ。

龍護はその全文を余す所なく読んでソファーへと移り、身を投げる。


(かなりの有権者…か…)


厄介だな…と独りごちる龍護だった。



◇◆◇◆◇◆



翌日。

友姫が病院から出て来た。

そしてその病院の前では白、雫、野武、龍護が待っていた。

友姫が出てくるや否や、白と雫が抱き着く。

よかった…本当に良かった…と涙を流す白と嬉しさを噛み締める雫。


「…俺も今は抱きt」

「やったらシバくぞ?」


…冗談です…と野武が縮こまる。

感動の再会もここまでにして4人が移動を始め、友姫の家で退院の御祝いをする事となった。



◇◆◇◆◇◆



「「「「カンパーイ!」」」」


4つの紙コップが軽く衝突し合う。


「あー!うめぇ!これで中身がお酒とかだったら最高なんだけどなー!」

「そういや去年科学の実験でパッチテストやったよね。確か龍護がお酒に弱かったんだっけ?」

「うっせー。てかアルコールが強いのが苦手なだけだ」

「その発言…飲んだ事あるの?」


ギクッ!と龍護から軽く冷や汗が出た。

こちらの世界に転生して10年と少し。

前世での年齢を足すと龍護は既に30歳を超えている。

龍護も気を緩くしたせいかポロッとボロがたまに出そうになっている。


「いや未成年だからな?目の前で姉貴が飲んでて酔ったのを介抱した時に姉貴が酒臭かったから苦手なんだよ」

「ふーん、まぁそういう事にしとくわ」


消化不良な白の横でひたすら菓子を頬張る雫。

皆それぞれで友姫の退院を祝っていた。



◇◆◇◆◇◆



ふと気が付くと既に日が傾いていた。


「あ、もうこんな時間かー」

「時間過ぎるのはえー」


龍護は友姫、白と一緒に片付けを、野武は縁側で余った菓子を、雫は壁に寄りかかってウトウトしていた。

白が何かを思い付き、皆を呼ぶ。


「ねぇ!どうせなら皆で写真撮らない?」

「お、いいなそれ」


白の提案にそれぞれが乗って友姫を中心に集まっていく。

龍護がスマホを小さな三脚に固定してテーブルの上に乗せ、ピントを合わせる。


「5秒後にセットして…っと」


本体のボタンを押したと同時にカウントダウンが始まり、急いで空いたスペースへと急ぐ。



パシャッ!



写真を確認すると綺麗に全員が笑顔で写っていた。


「じゃあ暇な時に印刷して渡すから」

「おっけー」


じゃあまた学校でねー。と3人はそれぞれの家へと帰って行った。



◇◆◇◆◇◆



「行っちゃったね…」

「あぁ、身体は大丈夫か?」


龍護の問いに大丈夫だよ。と安心させる友姫。

先に寝てな。と友姫を先に寝かせて龍護は1人、リビングで今後の計画を練り始めた。

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