第34話 新たな刺客

友姫が入院している病院に着いた龍護は警備員に面会を求める。

どうやらもう面会は出来るくらいに回復しているようで番号の書かれたバッジを受け取り、友姫の入院している部屋を聞いてそこへ向かった。



◇◆◇◆◇◆



友姫の入院している階に着いてエレベーターから出ると足早に目的の番号の病室へと向かう。


(えーっと…3-14、3-14…あ、端だ)


案内板の表示を見付けて再び歩き、目的の病室に辿り着く。

3回程ノックしたが反応が無い。


「…失礼しまーす…」


迷惑にならない程度の声を出しながら病室のドアを開けて中に入る。

友姫は上半身を起こしていた。


「……」


友姫の顔や身体を見た龍護は唖然とした。

元気だった友姫の姿はそこにはなく、頬は痩せこけ、目の焦点は合ってない。

そして酷く痩せた腕。

もう何日も食事を摂ってないのは直ぐに分かった。


「……」


龍護は無言のまま持ってきたお見舞いの品をテーブルに置く。

その時、友姫の目が微かに龍護へと向いた。


「リュー…ゴ…?」


か細く、弱々しい声。

そんな声でも確かに龍護の耳に届いていた。


「友姫…大丈夫か?」

「…」


龍護は心配そうに友姫の手に自分の手を優しく添える。

正直、どう言っていいかよく分からなかった。


恨まれているんじゃないか…


そんな考えが頭を埋め尽くす。

だが友姫が紡いだ言葉は意外なものだった。


「会いたかった…」


倒れ込むように抱き着く友姫。

それを真正面から支え、同じく抱き締める龍護。


「リューゴォ…リューゴォ…」


涙を流しながら龍護の存在を確認するかのように何度も龍護の名前を言う。


「大丈夫だ。俺はここにいる」


その病室からはずっと啜り泣く声が聞こえていた。



◇◆◇◆◇◆



時間となり、切っておいたリンゴ等を皿に盛って再び友姫のテーブルに置く。


「少しは食べとけ、な。明日また来るから」

「…うん…」


少し落ち着いた様子を見て安堵し、病院を後にする龍護。

少し歩いた所で後ろからクラクションが聞こえた。


「…あ、雪菜さん」

「龍護さん、家まで乗りますか?」


雪菜が龍護を乗せ、友姫の家に向かう。


「友姫さんの様子…どうでした?」

「少し落ち着いてるようです」


そうですか…と返し、お互いに無言になる。


「なぁ…雪菜さん」

「はい」

「仮に俺が何者かに殺されたらどうします?」

「え!?いきなりの質問ですね…」


うーん…と雪菜は車を走らせながら考える。


「取り敢えずその犯人を探しますね」

「その犯人が有権者で人前にあまり出ない人だったら?」

「有権者であまり人前に出ない…そうですね…私なら忍び込んで弱みを握ります」

(だよなぁ…)


それしかないよな…と項垂れる。

残る七天龍の遊戯参加者は自分と友姫を除いて2人。

その2人の内1人は有権者である事はほぼ確定だがもう1人の所在を掴めない。


(どうすりゃいいんだぁ~?)


グイーッと背伸びして自分の家で降ろしてもらった。



◇◆◇◆◇◆



翌日。

龍護は1人で学園に登校してきた。

教師に友姫はまだ休む事を伝えて席に着く。

するとすぐに白や雫、野武が駆け寄ってきた。


「龍護!友姫は大丈夫なの!?」

「一応な…けど両親は…」


さすがにラジネスカンパニーの社長であるスヴェンの死亡はインターネットのニュースでも流れていた。

死因は足場崩落と火災による事故死とされ、それ以外は触れられていない。

やはり隠蔽されている。


(中々厄介だな…)


ハァ…と溜息を付く。


「あ、そういえば昨日転入生来たの」

「え?この時期に?」


この時期に珍しいな…と思い、どんな人か聞く。


「まぁ留学生なんだけどね、あ、来たよ」


ガラガラと引き戸を開けて入って来たのは中国人の女子高生だ。


「ミンナーオハヨー!」


少しカタコトの残る日本語で挨拶する留学生。

中国人か…とその顔を見る。

すると中国人の女子高生と目が合った。


ゾクッ…


(…っ!?)


感じたのは悪寒。

それもかなりの。

中国人の女子高生はこちらに向かって来て龍護の机の前に立つ。


「ハジメマシテダネ?私、麗・寅餐(リ・インソン)ヨロシクネ」


”宜しく”の言葉に少し圧が感じたが龍護は気のせいだと言い聞かせてリ・インソンと握手した。



◇◆◇◆◇◆



授業が始まり、静かな教室になる。


「誰かここの公式解けるヤツいるかー?」

「ハイハイハーイ!私デキルヨー!」


教師の質問に元気に答えるインソン。

インソンはすぐに黒板の前に立って問題を解き始める。


「ん、正解だ。留学生で入りたてなのによく分かったな」

「センセー!余裕っス!」


ピースサインをして自分の机に戻る。


(友姫も最初はあんな感じだったなぁ…)


ふとインソンを見て懐かしむ龍護。

この授業は滞りなく進んでいったのだった。



◇◆◇◆◇◆



午前の授業が終わり、昼食の為に食堂へと友姫を除いたいつものメンバーで向かう。

その進路を塞ぐようにインソンが立った。


「?どうしたの?インソンさん」

「ネェネェ私モ一緒シテイイ?」


どうやら一緒に食事をしたいらしく、インソンは4人と一緒に食堂へと向かう。


食券を買い、列に並ぶ龍護達。

インソンは既に食券を買って別の列に並んでいる。


「にしてもネストといい、インソンといい、今年は特例多くね?」

「…そうだな」


野武も今年の留学生の多さにはさすがに気付いていた。

留学の条件を満たしていないのにも関わらず2人の留学生を受け入れている。

ネストは名家なのが理由(実際には違うが)かもしれないがインソンの留学受け入れの理由が分からない。

仮に名家であっても学園長がそう簡単に受け入れるとは思えないのだ。

自分の食事をトレーに乗せてインソン達のいるテーブルに向かい、インソンの向かいに座る。


「さすがに今日は友姫ちゃんのお弁当は無いか…」

「それ、彼氏の前で言う事か?」


あ、ゴメン…とバツが悪そうに白が呟く。

茶碗に入った白米を箸で取り、口に運ぶ。

そして咀嚼しながら辺りを見回していると今まで無かったある物が龍護の視界に入った。


「あれ?あんなモニターここにあったっけ?」


龍護が気になったのはとある1本の支柱に掛けられている大きめのモニター画面だ。


「え?あぁ、なんか学園長が設置したんだよ」

「え?なんで?」


さぁ?と龍護の問いに返答する野武。

不完全燃焼になりつつも龍護はそのモニターを眺める。

今映っているのは総理大臣である小野崎慢作とショートヘアーの女性議員の討論だ。


『現在私達の国では2人の外国留学生がこの国で謎の死を迎えております。その事について総理大臣はどうお考えになっておりますか?』

『実に痛々しい事件と受け止めております。ですが、2人を死に追いやった相手の目的が分からない以上、私自身詳しいコメントは控えさせて頂きます』


今話しているのはネストとルシスの死についての様だ。

お互いのトーンがヒートアップする中、龍護は白達に呼ばれ、食器を片付けに向かった。

だが、まだ席に着いてる者が1人いる。


「おーい、インソン、早くしねぇと置いてかれるぞ?」

「ワカッターサキイッテテー」


おう。とだけ答え、龍護はインソンから離れていく。

その様子を薄ら笑みで眺めるインソン。


「サァーテ…ドウアソボウカナァ~♪」


ニコニコとした表情のまま龍護の後を追い掛けるインソン。

新たな刺客が現れた事に龍護はまだ気付かないまま、だが、その毒牙は確実に龍護と友姫へと迫っていた。

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