第33話 偽りの日常

友姫は心神喪失し、今は病院に入院している。

龍護は様子を見ようと立ち寄ったが医者からは精神的ダメージが酷い為、今は会わない方がいいとして返された上、自宅に帰るとまたマスコミがごった返すから私の家に来た方がいいです。と雪菜に言われ、雪菜の家に来ていた。


「それじゃあ私は仕事に行ってきます」

「…はい」


龍護を心配そうに眺める雪希。

そして放心した目で綺麗な青空を見る龍護。

ドアが閉まった音にも気付かない程傷心していた。



自分の家族を護れなかった



自分と友姫を優位にする為に動いてくれていた人を助ける事が出来なかった



それだけが龍護に残っていた。



ギリ…と歯が砕けそうになる程力が入る。


「っアアアァァァアアア!!!!!!!!」


自身の頭を何度も何度も床に叩き付ける。


「ごめん…姉貴……ごめん…」


帰らぬ人に謝っても帰っては来ない。

そんなのは知っている。

でも謝らずにはいられなかった。


「…」


龍護は無言で立ち上がり、何処かに向かった。



◇◆◇◆◇◆



向かったのは自分の家だった。

マスコミはなぜか1人も家に前にはいなく、代わりに一組の大人の男女が立っていた。

恵美の両親だろうか…?と内心恐れた。

自分達の娘が死んだのに拾われた、血の繋がってない子が生きているのだ。

何を言われるか分かったもんじゃない。

だが意を決して龍護はその2人に近付く。


「…あの…」

「ん?…あ!おかえり!どこ行ってたのよ!心配したのよ!」


龍護は耳を疑った。

この2人は龍護を知らない筈だ。

なのに自分のこの世界での名前を呼んだ。


「え…なんで…?」

「…?何が?いいから上がりましょ?私家の鍵何処かに行っちゃって…」

「全く…紗希(さき)は魔法の研究以外ではてんでダメだからなぁ…っと龍護、すまんが家の鍵を開けてくれ」

「お…おぅ?」


どうなってんだ…?と内心疑惑が生じる。

だが当の2人は笑顔で龍護を家の中へ招き入れた。



◇◆◇◆◇◆



「あー、疲れた…」


この世界の母である紗希が持っていた買い物袋をテーブルの上に置いてソファーに全体重を預ける。


「全く…久し振りの我が家だからって気を抜き過ぎだよ。明後日にはまた研究室だろ?明日はオフなんだから今やれる事はやっておかないと」

「わーってるっての。けど数キロもある買い物袋持った後にあれしろこれしろ言われても動けないよー」

「…魔力を全身に張り巡らせて強化すればいいじゃないか…」


めんどー。と子どものように足をばたつかせる。

そんな紗希を見て全く…と恵美の父親である幸人は呆れていた。

買い物袋を持ってキッチンへと向かい、紗希の代わりに多くの食材を冷蔵庫にしまう。


「後は…洗濯か」


1人慌ただしく動く幸人とソファーでのんびり寛ぐ紗希。

そんな2人を見て龍護は困惑する事しか出来なかった。



◇◆◇◆◇◆



夜になり夕飯の準備を始める幸人。

紗希はまだテレビを付けていたが本人はソファーで寝息を立てている。

テーブルにある木製の椅子に座っていた龍護が口を開いた。


「なぁ…俺らって何人家族だっけ?」

「え?どうした急に?」


龍護の言葉に2人は疑問に似た言葉を返す。


「何人って…龍護と父さん、母さんの3人家族じゃないか」


父親の返答に龍護は言葉を失った。

この家には恵美もいたはずだ。

そしてその恵美がこの両親と血の繋がった娘である。

その娘の事を覚えていないはずがない。


「…恵美って名前の人知ってる?」

「うーん…近所にいたか?」

「いや私に聞かれても分からないわよ…」


もう頭の中が混乱しきっていた。

そして確信した。


…あの電話の男だ


ラジネス家の両親も、この両親も、恵美の死も、全てあの男が仕組んだに違いない。

龍護はすぐに夕飯を食べ終えて自室に向かう。

そしてラジネス家に行く準備を終えてから布団を被った。



◇◆◇◆◇◆



翌日。

龍護はラジネス家に来ていた。

ここにありそうな【七天龍の遊戯】にまつわる情報を全て持ち帰る為だ。

最初はここに滞在してあの男を待ち構えるのも考えたがここは広い故、多方向からの侵入に手が回らないと思った為だ。

だが家に着いた時に気付いた。


「やべ…鍵持ってねぇ…」


運良く開いてる事を祈って引き戸に手を掛け、横にスライドする。

するとカラカラと乾いた音を立てて何の抵抗も無く開いた。


「?誰かいる?」


足元を見ると女性の使う黒いハイヒールが一組だけ置いてある。

物音を立てないように家に上がり、七天龍の遊戯にまつわる情報が入ったスヴェンの部屋に向かう。

だがそのスヴェンの部屋でカチャカチャという物音がした。


(誰だ?)


襖をゆっくり開けて中を見る。

そこにはスヴェンのパソコンで何かをしてる雪菜の姿があった。

龍護は咄嗟に襖を全開に開ける。


「っ!?え?龍護さん?」

「…何してんすか雪菜さん…」


疑いの目を向ける龍護。

それに対して誤解を晴らすべく雪菜が説明する。


「いえ、スヴェンさんからの要望で彼のパソコンにあるデータを抹消するように頼まれたので…」

「データを!?」


何で…!?まさかそんな…!と唯一の希望であるスヴェンのパソコンから情報が消えた事に絶望する。

ガクリと床に座る龍護に、慌てた様子の雪菜が駆け寄った。


「龍護さん!?」

「いえ…大丈夫です…」


こうなってしまってはもうここに長いする必要すらもなくなってしまった。

代わりに友姫の部屋に行き、必要な物を揃えに行った。



◇◆◇◆◇◆



「はぁ…まさか雪菜さんにデータの抹消を頼むかよ…」


でもなんでそんな事をする必要が?と疑問を持ちながらも友姫の通学鞄に教材を入れていく。

すると部屋の片隅に【七天龍の遊戯】と書かれた書籍が見付かる。


「…これだけは持って帰るか…」


龍護が本を持つ。

その時、何かが床に落ちた。


「…?何だ?」


それは白い封筒だった。

試しに…と中を中を見る。


《これを読んでいるのが龍護君、或いは友姫である事を祈る。

友姫はこれを見付けたら必ず龍護君に渡してくれ。

龍護君がこれを見付けたら絶対にこれを誰にも渡さないで欲しい。

表紙の裏にパソコンの全データをコピーしたSDカードを入れておいた。

そこに私の知った今行われている七天龍の遊戯の全てを記しておく》


この本にSDカードが隠されていると分かった龍護は机の上にあったカッターナイフで表紙の裏を切っていく。

少しづつ切込みを入れた所で何かがポロッと床に落ちた。


「っ!SDカード!」


龍護はすぐに拾い上げてポケットにしまい、すぐに帰る準備をする。

途中で雪菜さんに合流した。


「龍護さん、先程は大丈夫でした?…そういえば龍護さんはどうしてここに?」

「あぁ、いえ単に友姫の私物を回収する為ですよ」


そうでしたか。と雪菜は道を開ける。

龍護は急いでSDカードを確認する為に家へと帰って行った。



◇◆◇◆◇◆



家に戻ってきた龍護は急いで自室のパソコンに電源を付け、起動を待つ。

数分待って漸く起動し、龍護はすぐにSDカードを入れた。

パソコンが読み込んで動作のリストが現れる。

【フォルダを開く】にマウスカーソルを合わせてクリックし、中に入っているフォルダを見た。


【必読】


中に入っていたデータはこれだけだった。

だが龍護にとっては貴重な情報源。



この情報で今後の七天龍の遊戯の全てが決まる。



龍護は直感でそうなる事を理解していた。

覚悟を決めて【必読】を開き、中を見る。


「…っ!そういう事だったのか!!!!」


何故、ルシス・イーラが龍護にメールを送ったのか。


何故、名家の出身であるネストが日本の高校に来たのか。


何故、ラジネス家の両親と自身の義姉が狙われたのか。


何故、家にあるデータを雪菜に抹消するよう頼んだのか。


その全てが明らかになった。


龍護は少しでも早く友姫を立ち直らせる必要があると判断して部屋を出た。

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