第29話仕組まれたコンサート④

今日誕生日だったので1話だけ掲載させて頂きます


────────────────────

龍護が川沿いに降り立ち、友姫と楠木魅子を降ろす。

そして龍護も白い龍から人間の姿に戻った。

だがガクンと片膝を着いてしまう。

初めてやる慣れていない龍化によって体力が急激に消耗したのだ。


(初めて使って手探りで動かしてたから体力の消耗が激しいな・・・数分使った程度でこのザマかよ・・・あと少し龍化を解くのが遅れてたらぶっ倒れてたな・・・)


自身の身体に怠さを感じながらゆっくりと起き上がり、楠木魅子の様子を見る。

楠木魅子は放心状態でこっちの問い掛けにも応えられない程弱っていた。

周囲を見廻すが先程のヘリはいない。


(チッ・・・さっきのヘリを追うにしても今のままじゃ体力が持たねぇし飛行魔法も無理かもな・・・それにもしも七天龍の遊戯の関係者だったら何かしらの能力を使われて影響されかねねぇ・・・)


今はこのまま体力回復も兼ねて楠木魅子が落ち着くのを待つしかないと思ったのか友姫にも休んどけと言ってその場に座り込んだ。



◇◆◇◆◇◆



暫くして楠木魅子も冷静さを取り戻し、辺りを見廻すようになった。


「ここは・・・?」

「成清橋の下だ」


声を掛けられて振り向くとそこには座っている龍護がいた。


「貴方・・・確か・・・」

「俺は奪木龍護・・・アンタと同じ【七天龍の遊戯】の参加者だ」


龍護の言葉にやっぱり・・・と返す楠木魅子。

だがとある事に気付く。


「え?じゃあなんで私の【色欲の龍】の能力が効いたの・・・?」

「は?なんだそりゃ?まるで龍の所持者同士は能力が効かないって感じの言葉だな」


言葉通りの意味よ。と言われ動揺する龍護。

龍護は七天龍の遊戯上、お互いの能力は効かない事を知らなかった。


「え?ちょっと待て!?てことは本当なら俺もアンタの龍の能力は効かないのか!?じゃあなんで参加者の俺は若干効いたんだよ!?」

「分からない・・・けど私はてっきり【怠惰の龍】の力を一時的に借りたんだと思ったんだけど・・・」


確かに龍護は【怠惰の龍】の力を借り、自身の【強欲の龍】で強化して楠木魅子と対面した。

だが【色欲の龍】の力が【怠惰の龍】の力を上回り、コントロールを半分奪われたのだ。

つまり完全に無効化出来た訳では無い。

気を抜けば自分が完全に支配されるギリギリの所まで【色欲の龍】の力は届いていたのだ。

楠木魅子が嘘を言ってる可能性がある・・・と思いたいが実際に自分は支配されかけていた為言い返すことは出来ない。

龍護は辺りを見廻すが追っ手は来ていない。

もう少し休んでから色々聞いてみる必要があるな・・・と自分に言いながら楠木魅子に対しての警戒を続ける。

友姫も再び龍護が楠木魅子によってコントロールされないように龍護の手を触れて座っていた。



◇◆◇◆◇◆



一頻り落ち着いた所で龍護が楠木魅子に話し掛ける。


「そういやアンタ・・・この時点でもう2人の龍の所持者が殺された事は知ってるか?」

「え?そうなの?」


知らねぇのかよ・・・と毒づく。


「【嫉妬の龍】の所持者であるネスト・ジェーラスと【憤怒の龍】の所持者のルシス・イーラが何者かの手によって殺されてる。・・・それでさ・・・声優としてテレビに出てるアンタに聞きたいんだけど【傲慢の龍】と【暴食の龍】の所持者について知ってる事はあるか?」

「悪いけど【暴食の龍】については知らない・・・けど【傲慢の龍】の所持者についてなら知ってるわ」

「なら交渉だ。もしもその情報を俺達に教えてくれるならこのまま手を引く事を約束する・・・けど次に会った時は真剣勝負だ」

「真剣勝負・・・ねぇ・・・?」


すっ・・・と突然楠木魅子が立ち上がり、龍護達に背を向けながら歩き始める。


「確かに私としてはいい条件ね・・・けど、あまり大人を舐めないでもらえる?」


立ち止まったかと思うと次の瞬間振り向いて缶のような物を投げる。


(!?しまった・・・!)


楠木魅子の投げた缶は龍護達の足元で止まり、シュー!と中から煙が立ち込める。

催涙ガスだ。


「はっ!彼に言われて持っておいて正解だったわ!」


楠木魅子は龍護達が煙から出ようとしてる間に走って何処かに行ってしまった。


「くそっ!友姫追うぞ!」

「分かった!」


2人は走り出し、楠木魅子の身柄確保を急いだ。



◇◆◇◆◇◆



街を多くの者が闊歩している中、楠木魅子は大きな交差点の真ん中に立つ。

そして・・・【色欲の龍】の力を発動した。


「龍の力を持たない劣等生物共!!!!私に従いなさい!!!!」


龍の力を使いながら叫ぶと通行人の全員の目から正気が消え、フラフラと楠木魅子に近付いてくる。

全員が楠木魅子の声を聞いてコントロールされているのだ。

2人が楠木魅子に追い付く頃には既に大勢の人の壁が何重にも施されていた。


「(使えるか分かんねぇけどやるっきゃねぇ!)友姫!俺が飛ぶから友姫は楠木の奴を狙って魔法を使ってくれ!」


龍護は友姫を持ち上げて浮遊魔法を使い、空へと飛び上がる。

そして楠木魅子の姿を確認した途端に【強欲の龍】の力を発動させた。

紋章は強く輝き出し、龍護と友姫を包んだかと思うと、その光の中から1体の巨大な純白の龍が現れる。

その背中には友姫が乗っていて、いつでも魔法を撃てる体制になっていた。

その時、楠木魅子が2人に向けて指を差す。


「彼等を撃ち落としなさい!」


その声を聞いた通行人全員が両手を龍護と友姫に翳し、それぞれで使える魔法を撃ち始めた。

龍護も必死に魔法の弾幕を躱し続けるもその弾幕の多さ故に幾つか被弾してしまう。

そして煙に包まれた龍護は一旦離れ、ビルの屋上に降り立つと同時に龍化を解いた。

いや、解けてしまった。


「ぐっ・・・うぅ・・・」


まだ慣れていない龍化を何度もやって体力が激しく消耗し、その上その状態で再び龍化した為、全身に激痛が走って動く事すらままならない。

友姫も心配そうに龍護の身体を抱き起こす。


「龍護大丈夫!?」

「まぁ・・・なんとか・・・な・・・」


友姫の治癒魔法で少し楽になって立てるようになったが現状は厳しくなっている事には変わりない。


(龍化は強いが2回でこのザマか・・・少し練習も必要かもしんねぇな・・・)


軋む身体に鞭を入れるかのように立ち上がり、楠木魅子とその周りのバリケードをビルの上から見下ろす。

向こうもこちらの様子を見ているようだ。

楠木魅子の行動も気になるがもう1つ気になる事がある。

先程の軍事ヘリだ。

あれは確実に楠木魅子の命を狙っていた。

その時点で第三勢力の可能性はほぼ100%と言っても過言では無い。

もしも今の状況でその第三勢力が加われば七天龍の龍の能力所持者4人、龍護と友姫は共闘してるので実質三竦みでの戦闘となる。

そして軍事ヘリを使ってるのが雪菜から教えられた人物の鷹野颯馬という人物なら尚更警戒しなければならない。


(めんどくせぇ事になってきやがったな・・・)


龍護は心の中で溜息を付いた。

ここで嫉妬の龍の能力である動く要塞の力が自分か友姫に備わっていれば楠木魅子に対しても、鷹野颯馬に対しても安全に倒せただろう。

だがその嫉妬の龍の力は何者かによって奪われている。


(無い物強請りしても意味ねぇな・・・)


考えてる中、友姫が降りようとした時だった。

龍護の頭の中でスヴェンとのやり取りが蘇る。


「どうしたの?」

「友姫・・・ちょっと試したい事があるんだ」

「?」


龍護からの頼みという珍しい事を気にしながらも龍護の言葉を聞いてみた。



◇◆◇◆◇◆



楠木魅子の前に2人が降り立った。

それを見て楠木魅子は自身の前に人の壁を厚くする。


「どうしたの?降伏宣言でもしに・・・」

「悪ぃが逆だ。俺達は宣戦布告に来たんだよ」


その言葉に苛立つ楠木魅子。

とうとう痺れを切らし、一斉攻撃をさせる。

その全てが寸分の狂いも無く、友姫と龍護に襲い掛かる。

そして友姫と龍護は煙に包まれた。


「フフフッ・・・アハハハハ!!!!!!!!本当馬鹿な糞ガキ共ね!!!!私達は選ばれた存在なのよ!?そして1人生き残ればその人が叶えたい願いが2つも叶うのよ?2つよ2つ!!!!つまり私がこの世界のルールにもなれるのよ!そう!私という存在が絶対なるのよ!!!!これを逃す手は無いでしょ!バカでグズな貴方達の犠牲は私の幸福で補うなら安心なさい?すぐにその紋章を・・・」

「うるせぇよ」


短いが圧倒的な威圧感のある声に言葉が止まる楠木魅子。

命中したにも関わらずその声は黒煙の中から響いていた。

少しづつ煙が止み、そこには・・・透き通るかのように綺麗な水色の髪が肩まである中性的な人物が立っていた。



◇◆◇◆◇◆



突然現れた謎の人物に戸惑う楠木魅子。

そして気付いた。


(ラジネスと男がいない!?)


戸惑う楠木魅子を他所に謎の人物は手を閉じたり開いたりして感覚を確かめているようだ。


「ねぇ貴方・・・さっきそこに1組の男女がいなかった?」


楠木魅子の言葉に謎の人物はスッ・・・と冷めた視線を送る。

その視線に恐怖を感じたのか、楠木魅子の身体は震え、自然と一歩だけ後退してしまう。

そしてその謎の人物の目は殺意も無ければ戦意も無く、ただ虚無感だけがその目に映っていた。

その人物が漸く口を開いた。


「行くよリューゴ」


その言葉にハッとした楠木魅子はすぐにコントロールした者達に魔法を撃たせるがその悉くを躱される。

魔法は効かないと判断し、人の壁の中で1番体格の良い男性に肉弾戦をやらせる。

男性も操作され、大きな拳を振り翳す。

だがその人物は首を軽く逸らすだけでその拳を躱し、左足を軸にした回し蹴りを放つ。

メリッ・・・!という音がして男性は吹き飛ばされた。


「嘘!?どうして・・・!?」

「どっちが聞きたいの?」


その声は後ろからした。

そう、既にその人物は楠木魅子の真後ろに位置取っていたのだ。

先程の戦闘を見たからか恐怖から振り返って直視出来ない。

だがその人物は言葉を続ける。


「さっきの2人が消えた事?男性を軽く蹴り飛ばした事?それとも・・・自分の【色欲の龍】の力が効かない事?」


正直言うと楠木魅子はその3つの全てを聞きたい。

そして1番に聞きたいのは自分の【色欲の龍】の力が効いてないことだ。


「無理もねぇよ。2つの能力が1人に集まった奴に勝てる訳ねぇからなぁ・・・」

「貴方・・・まさか!?」


その方法を龍護は聞いていた。



☆★☆★☆★



数時間前。


「融合・・・?」

「そう、七天龍の遊戯ではお互いに違う龍の所持者同士で融合し、両方の力を使えるらしいんだ」


融合


それは互いに龍の力を持つ2人がどちらかが媒介となって、龍の力を持つもう1人を取り込む事で2つの龍の力が発動出来る方法である。

そして融合はお互いの龍の力を反発させず、そのまま引き出せる為かなり有効な手段でもある。

だがこの融合は利点だけではない。

この融合を使い、解除したその時から3日間はお互いに龍の力を使えなくなってしまうのだとか。

2人が融合し、その上2つの龍の力をその身体1つで使う為だ。

つまり、楠木魅子の目の前にいる謎の人物は龍護と友姫が融合した姿となる。

この資料を探すのに数時間も掛けたらしく、スヴェンの苦労が伺えた。



☆★☆★☆★



「くっ・・・!」


楠木魅子が再び【色欲の龍】を使おうとした時だった。


「無駄だよ」


見えない透明な半球体が広がり、人の壁ごと楠木魅子を覆った。

【怠惰の龍】の能力無効化だ。

そして【強欲の龍】の力によってその無効化は色欲の龍の力を凌駕している。

【色欲の龍】の力から解放された人達が自分達は何をしていたんだろう?と言いたげにしながらもこの3人から離れていき、楠木魅子の壁は跡形も無く消えた。


「どうする?もしも降参するなら紋章だけ貰って殺さないで帰るけど」

「・・・っ!」


引かないと理解した融合体が倒そうと1歩足を踏み入れた瞬間だった。



ダダダダダダ!!!!!!!!



何処からともなく聞こえる銃声。

そして地面を点々と抉る銃弾は少しづつ楠木魅子と融合体に迫っている。

すぐに危険と判断し、3人はその場を離れて近くの物陰に身を潜める。

融合体がバレないように身を乗り出し銃声がした方の様子を伺う。

そこには軍服を着た男性とその後ろに複数人がアサルトライフルを握ってこちらに来ていた。

友姫と融合した龍護は先頭を歩く人物の顔を見て、まさか・・・?と思い、雪菜から受け取ってずっと持ち歩いていた鷹野颯馬の小さな顔写真を取り出す。


完全に一致している。


(マジかよ・・・三つ巴じゃねぇか・・・)


【色欲の龍】の楠木魅子、共闘している【怠惰の龍】の友姫・S・ラジネス、【強欲の龍】の奪木龍護、そして【傲慢の龍】の鷹野颯馬による4人(友姫と龍護は共闘)の三つ巴の闘いが始まった。

────────────────────

書き溜めを続けている状態ですのでまたもう暫くお待ち下さい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る