第30話仕組まれたコンサート⑤

今年最後の投稿です


最初に動いたのは鷹野だった。

道のど真ん中に催涙スプレーを投げる。

噴出口からガスが吹き出し、辺りに充満し始める。

龍護達は急いで裏道に周り、鷹野を後ろから強襲する作戦に出た。

現在融合した身体を操縦しているのは友姫であり、龍護は視覚(右目)のみが使えている。

それ以外に使えるのは脳を共有して使える念話くらいだろう。


(龍護の龍の力借りるね!)

(あぁ、でも先に友姫の無効化を使ってからじゃねぇと強化出来ねぇからな?)


分かった。と返事をして再び物陰に息を潜め、鷹野の様子を伺う。

鷹野は依然として前方を向いているままだ。

そして後ろにいた部下達は前に出て辺りを見回している為、そこには鷹野のみがいるだけだ。

チャンスと見て友姫は後ろから鷹野へ拳を振り翳す。

だが鷹野は後ろを見ずにその拳を受け止めた。


「嘘っ!?」


すかさず鷹野は後ろを振り向きながら回し蹴りをする。

寸での所で友姫は上半身を反らして直撃を避けるが鷹野は追い討ちを掛けてくる。

友姫でさえ躱すのが精一杯のようで直撃はしないが掠りはしている。

一気に間合いを詰められて鷹野は友姫の胴体に蹴りを叩き込む。

威力で飛ばされ、距離は取ったものの痛みのせいで片膝を着いてしまう。

そんな友姫を見ても一切気にも止めずに追撃を打ち込もうと拳を握って振り翳す。

友姫はやられまいと浮遊魔法を使ってビルの屋上に上がろうとした。

だがその友姫を狙って辺りを探索していた部下と思われる者達が友姫に対して一斉射撃をする。

腕、足、頬等至る所を銃弾は掠めていく。


「くっ・・・」


先程の蹴りと銃弾を全身に浴びたせいで激痛が身体中を蝕んだのか、集中力が切れて地上にゆっくりと降りてしまう。

その腕からは痛々しい傷と血が流れていた。

それでもお構い無しに鷹野は近付いてくる。

すると向こうに変化があった。

桃色の靄がこちらに迫っている。

鷹野がそれに気付くと追撃しようとしたのを止めて靄から距離を取った。

靄の発生源は楠木魅子だった。

【色欲の龍】の切り札である「色欲完全領域」だ。

普段の色欲の支配とは違い、既に力尽きて亡くなった人や龍の所持者等、生き死にに関係無く生物なら全てを動かせる技だ。

そしてこの能力は半永久的に続き、龍の所持者が死ぬまで理性を完全に破壊し本能の赴くままその者は動き続けるという非人道的な能力でもある。

友姫も危機を感じたのか【怠惰の龍】の無効化を【強欲の龍】の力で強化しながら安全圏を作り上げる。

この「色欲完全領域」に入った鷹野の部下達の目は正気を失い、ぞろぞろを鷹野と友姫を見た。

鷹野が持ってるであろう【傲慢の龍】の洗脳が【色欲の龍】のコントロールに上書きされたのだ。

銃を構えてゆっくりと友姫と鷹野に近付いてくる。


その時だった。


ぞろぞろと動いていた部下達は急に止まりピクリとも動かなくなった。

その様子に力を使った楠木魅子も動揺した。

次の瞬間、突然鷹野の部下達が個々に向きを変える。

【色欲の龍】の力の使い過ぎによる暴走だ。

言葉ににならない奇声や呻き声を上げ始め、無作法に引き金を引くと同時に血飛沫が飛び散る。

身体の支えが効かないのか銃の反動に胴体が振り回され仲間の頭や周りの建物に被弾する。


その様子はお互いに殺し合う地獄絵図。


すると鷹野がインカムを起動し、初めて声を発した。


「任務遂行、狙撃班はターゲットAのみを射殺。2人は生かせとの事。以上」


インカムを切って友姫に背を向ける。


「逃げるの?」


友姫が珍しく挑発する。

だが鷹野は何処吹く風の如く、友姫を凍る目付きで見た。


「悪いがお前らを殺すのは俺じゃない。それに俺は・・・」


全てを言い切る前に何かに気付き、上を見上げる鷹野。

漸くか・・・と言いたげに冷めた溜息を漏らす。

上から来ていたのは人1人は軽く持ち上げられる巨大なドローンだった。


「時間だ。もうお前らとは顔も見ないと思うがな・・・」

「?それってどういう・・・!?」


返答もせずにドローンから排出されるロープに掴まり、その場を離れていった。

だがその間も先程の暴走した部下達はそのままだ。

未だに暴走し、お互いに殺し合っている。

そしてその足元には顔の半分が無くなっていたり、手足が銃弾によって抉られ、血が大量に出ているにも関わらずズルズルと残った手足で動くゾンビのような部下達が転がっていた。

まるでその光景は映画でよく見る人々が感染した後のバイオハザードだ。

その様子にゾッと寒気が友姫の全身を襲う。

そんな中ある事に気付いた。


楠木魅子がいない。


恐らくとばっちりを避ける為に逃げたのだろう。

だが力を無理矢理酷使したのだからそう遠くへは行ってないはずだ。

友姫は一旦融合を解いた。

すると融合していた身体が光り出し、2人の人影が現れる。

そして光が止むとそこには龍護と友姫が立っていた。


「・・・本当に融合した後は龍の力が使えないんだな・・・」


龍護は試しに龍化を試みたが左手に紋章が浮かぶだけで力を感じる事は無い。


「向こうも多分龍の力を使えないから問題無いと思う。急ごう!」

「あぁ」


倒れ、ゾンビのように這い回る鷹野の部下達を他所に2人は楠木魅子を捜索を再開した。



◇◆◇◆◇◆



「ハァッ・・・ハァッ・・・」


ビルとビルの隙間にある行き止まりに楠木魅子は逃げて身を潜めていた。

そしてその右腕は出血している。

暴走した部下達の発砲した銃弾を掠めていたのだ。

ビリッ!と自身が身に付けていた衣類を少しだけ破り、傷口に押し当てて止血する。

ズキズキと痛みが走るが気にしていられなかった。

そのまま口と左手で布を結び終え、ダラリと全身の力を抜く。

今日はもう酷使した為、【色欲の龍】の力は使えない。

絶え絶えの息を少しでも整えようと無心になりながら呼吸している。

「色欲完全領域」は龍の所持者が死なない限り発動し続ける。

つまりまだ鷹野の部下達は這いずり回っているのだ。

自身も戦えるなら戦って勝利を収めたいが武道等の戦術は一度も習った覚えが無い。

出来るとすれば鉄の棒を持って滅茶苦茶に振り回す程度である。

なんの取り柄も無い自分はダメな落ちこぼれである事は知っていた。

それでも・・・と【色欲の龍】の力を知った時は心が舞い上がった。

この遊戯で勝ち残れば人生をやり直せるのだ。

その僅かな可能性を持って楠木魅子は生き残ろうと必死だった。

だが、その夢は今儚く散った。

何かが楠木魅子の右太腿を貫いた。


「え・・・・・・?」


地面には赤い水溜まりが出来ていて、その赤い水は自身の太腿から流れていた。


「いっ・・・があああぁぁぁあああ!?!?!?!?」


数秒遅れて激痛が楠木魅子に襲い掛かる。

遠くにいた鷹野の部下のスナイパーが撃った弾丸が楠木魅子の右太腿も貫いたのだ。

ズルズルと足を引き摺って再びビルの陰に隠れようとした。

だがその右手もスナイパーの弾丸に貫かれる。


「────!!!!!!!!!!!!」


激痛が全身に広がるかのように楠木魅子の身体を支配する。


「い・・・やだ・・・」


ポロポロと涙が零れ落ちる。


「やだ・・・よぉ・・・死にたく・・・ないよぉ・・・!」


激痛で動けなくなった楠木魅子はスナイパーにとっては格好の餌だ。

スナイパーは楠木魅子の胴体に標準を合わせ、そして────胴体の真ん中を貫いた。


「ご・・・はっ・・・」


楠木魅子は吐血し、過呼吸になる。

すると先程の悲鳴を聞いたのか、何処からか龍護が現れた。


「楠木!!!!」


駆け寄って回復魔法を掛けるが損傷が酷過ぎて間に合わない。


「あな・・・た・・・本っ当に・・・・・・馬鹿ね・・・・・・回復・・・なんてして・・・・・・あなた・・・に・・・なんの・・・メリットが・・・・・・あるの・・・?」

「治療してんだから黙ってろ馬鹿女」

「ほんっ・・・とうに・・・口の・・・・・・減らない・・・ガキね・・・」


楠木魅子は諦めたような笑みを浮かべ、グッ・・・!と龍護の襟を掴んで寄せる。


「紋章を・・・うばい・・・・・・なさい」

「っ!アンタ何言って・・・!?」

「あの・・・・・・クズ男に・・・紋章を・・・・・・取られる・・・位なら・・・・・・あなたに・・・くれてやるわよ・・・・・・それと・・・1つ・・・言っておくわ・・・」


がはっ・・・!と再び吐血する。

そして楠木魅子の手はだんだん冷たくなっていく。


「鷹野・・・・・・っていた・・・・・・わね・・・?あいつは・・・・・・」


パチャ・・・・・・────


楠木魅子は目を閉じた。

そして首も重力に従ってダランと落ちる。


「おい・・・!おい!!!!楠木!!!!おいテメェ!!!!目ェ覚ませ!!!!何を言おうとした!?鷹野がなんなんだ!!!!」


龍護は必死に楠木魅子の身体を揺するが全く反応を示さない。

そこに友姫が焦った表情でやってくる。


「リューゴ!表通りに警察の車が来てる!早く逃げよう!」

「・・・っ!!!!」


龍護はせめてこれだけは・・・!と左手を翳しながら呪文を唱える。

すると左手の甲の白い紋章が少しだけ桃色の光を帯びていた。

それを確認して龍護と友姫はその場を去る。

その数分後に楠木魅子の死体は発見された。



◇◆◇◆◇◆



「融合・・・か・・・」


男がやはりと言いたげにしている。

融合は龍の所持者しか出来ない技である。

それが出来る上、【暴食の龍】は誰かも分かっている。

この男は【傲慢の龍】の所持者なので必然と残るのは【強欲の龍】となる。


「なら私の読みは当たっていたのか。それなら話は早い。君達」

「はっ」


近くにいた男女2人が姿勢を正す。


「奪木龍護の姉である奪木恵美とラジネスカンパニーの社長、スヴェン・S・ラジネスを拘束しろ」

「分かりました」


2人の男女はそれだけ言ってその部屋を後にした。


「さぁ・・・どうする?奪木龍護」


フフフ・・・と含み笑いをする男。

龍護の知らない所で恵美に危機が迫っていた。



来年も宜しく御願いします!!!!

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