第27話仕組まれたコンサート②
翌日、学校で龍護はクジが当たった事を伝えると野武は自分の事のように喜んでいた。
因みに白と雫はハズレたようだ。
・・・まぁ両者共にどちらでも良かったようだが・・・
すると野武は龍護に涙目で、サインでもなんでもいいから記念になる物を貰ってきてくれ!と本気で頼んできた。
それに対して龍護は引き気味に、考えておく。と言っていたが相手は楠木魅子。
多忙なスケジュールで対応出来ないだろうと踏んでいた。
◇◆◇◆◇◆
コンサート当日。
龍護と友姫は家でのんびりしていた。
予定では45分前になったら雪菜が車で運んでくれる予定なのだ。
最近はラジネス家が所有するリムジンでないので龍護本人は助かっているようだ。
「そろそろかね?」
スヴェンが龍護に話し掛ける。
「そう・・・ですね。そろそろ行きます」
「この前は物騒だったからね、思い切り楽しんでおいで」
ええ、と返事して部屋を出ようとしたその時だった。
「あぁそういえばちょっと面白いものを見付けんだ」
「面白いもの?」
スヴェンが手招きをして龍護はそれを見に行った。
そして時間となり雪菜が車を玄関の前で停め、2人を乗せ、喜龍学園へと向かった。
◇◆◇◆◇◆
体育館前には45分前にも関わらず既に男女混合の行列が出来ていた。
「すげぇ・・・」
「人気みたいだね」
恐らく先頭の者は1時間以上は待っていたのだろう。
そして龍護と友姫の後ろにもすぐに行列が出来た。
体育館の入口が開いて係員が番号を確認し始め、中へと入っていく。
暫くしてから龍護と友姫の番になり、係員がメールと名前を確認する。
2人とも確認が終わってパンフレットを渡された。
今回のプログラムのようだ。
恐らくこのパンフレットなら野武の土産になるな。と思って鞄にしまい、会場内に進んだ。
◇◆◇◆◇◆
「よくもまぁ、短時間で準備出来ること・・・」
体育館内は綺麗な内装に仕上がっていた。
ステージにはポップな字体で【楠木魅子マル秘コンサート!!!!】と書かれた横に長い垂れ幕。
会場はまだ明るいがそれでも尚、主張の強いカラフルなイルミネーションが壁全体に。
天井からは動物の姿をした風船のようなものがLEDを巻かれて吊るされていた。
恐らく暗くなったら嘸かし綺麗なのだろう。
そしてパイプ椅子1つ1つには非売品の団扇と様々なグッズが入った袋が置かれていた。
席は自由らしく、既に前方は埋まっていた。
龍護と友姫は詰めた方がいいだろうと考え、前方の端に座る。
「楽しみだね」
「まぁな」
飲食も自由らしく、他の客は炭酸飲料等を持ってきて飲んでいる者もいた。
暫くして全部の席が埋まり、あちらこちらで友人と話す声が聞こえ、体育館全体に響く。
開始30分前だというのにこの混み具合だ。
これが逆に楠木魅子の人気さを物語っている。
そんな中龍護はスマホで楠木魅子の経歴を調べていた。
年齢は28歳。
3年前に声優としてデビューし、去年から人気が出始め、今年でその人気は急上昇している。
そして最近ではハリウッド映画に出てくる人物の日本語吹き替えを担当している。
だが龍護は個人的に楠木魅子に対しては肩入れする程ではないな・・・と感じていた。
理由は簡単。
(どうも素人感が抜けないんだよな・・・)
別に龍護自身が声優を分かり切っているという訳ではない。
テレビで海外ドラマの日本語吹き替えで楠木魅子と他の声優が吹き替えを担当していて、他の声優の台詞を聞いた後に楠木魅子のセリフを聞くとどうにも素人感が拭えないでいるのだ。
なのにこれ程の人気ぶり。
楠木魅子の人柄等も評価されているのだろう。と龍護は自分に言い聞かせて自己解決した。
少しづつ会場が暗くなり始める。
それの同時にウオオォォォォオオオ!!!!という歓声が体育館全体を揺らす。
ステージの両端からドライアイスの煙が現れ、豪華な演出を醸し出している。
『皆さーん!!!!今日は私のコンサートに来てくれてありがとうー!!!!』
スピーカー越しに楠木魅子の声が聞こえる。
だが未だに姿を表さない。
だが龍護は少しだけ違和感を感じていた。
(なんか・・・いつも聴いてる声と違うな・・・)
龍護が感じていた違和感。
それは自分でもよく分からない。
ただ、声優をしている時と違い、聴き入ってしまう程、美しく綺麗な声なのは分かった。
未だに姿を表さない楠木魅子に対して騒ぎ出し、辺りを見回すファン達。
「皆ーこっちこっちー!!!!」
大きな声が聞こえ、全員が振り向くと体育館の2階に楠木魅子本人が豪華な衣装を着て立っていた。
そして再び龍護は違和感を感じる。
(あれ?楠木さんって結構可愛い?)
そう、テレビ越しに見た楠木魅子より可愛く見えていた。
そして楠木魅子本人は即席で作られている階段を使って1階に降りて来て、ファン達がいる客席の真ん中にある渡り道を歩いて行く。
その間もファンサービスは忘れていない。
握手を求めるファンには数秒ながら握手をしてサインを求められたらその物品を回収する。
恐らく後で書いて渡すのだろう。
それを見て龍護は、仕方ねぇけどやるか・・・と野武の土産にする為に団扇(その裏にサインを書いてもらう)を持って立ち上がり、ファンが殺到する渡り道に歩いて行く。
そして楠木魅子が龍護を見た途端、彼女は目を一瞬見開いて、妖美な笑みを見せた。
だがその笑みは理由は分からないが、龍護にとっては背筋を凍らされるような感覚に陥った。
が、楠木魅子は平然として龍護から団扇を受け取る。
龍護がその寒気の理由が分からないまま楠木魅子は離れていき、壇上に上がった。
『皆ー!改めまして、楠木魅子でーす!!!!今日は沢山盛り上がろー!!!!』
マイク越しに楠木魅子が話すとファンの歓声が体育館中に響き渡る。
それでも尚、龍護は先程からある違和感を拭えない・・・のだが同時に少しづつ、その違和感も消えていっていることも気付けなかった。
◇◆◇◆◇◆
楠木魅子がとあるアニメのエンディングを歌ったり、ファンからの要望で曲を歌ったり等している。
(生で聞くから歌声も良かったのかな・・・ちょっとCDショップで曲探してみるか)
どうやら龍護もその声を聞き入っていたようだ。
すると横から肩をつつかれる。
友姫だ。
「・・・どした?」
「なんというか・・・普通じゃない?」
「そうか?」
どうも友姫からしたら楠木魅子の歌声はに惹かれるものはなく、普通のようだ。
だがその違和感は突然現れた。
友姫に触れられた途端に楠木魅子の歌声に一切の魅力を感じられなくなったのだ。
(どうなってんだ・・・これ・・・)
その証拠に友姫の手が龍護の服から離れた途端再び楠木魅子の歌声が美しく感じた。
(・・・まさか・・・)
龍護が小さな声で友姫に、もう一度俺に触れてくれ。と頼む。
友姫は若干疑問符を浮かべながらも龍護に軽く触れた。
するとたちまち楠木魅子の歌声にまた魅力が消える。
(って事はまさか・・・!)
龍護は警備員等にバレないようにスマホのカメラ機能を起動する。
とあるものを確認する為だ。
だがそれは全く見当たらない・・・が龍護の中で答えはほぼ出ている。
楠木魅子は七天龍の遊戯の関係者である可能性が高い─────と・・・
理由は簡単。
というのも龍護は今までの龍達を纏めてる時に気付いたのだ。
”七天龍の遊戯の能力は【七つの大罪】になぞらえている”
最初の死者はルシス・イーラで所持していた龍は【憤怒の龍】。
2人目はネスト・ジェーラスで【嫉妬の龍】の所持者。
龍護は【強欲の龍】の所持者で友姫は【怠惰の龍】の所持者。
憤怒、嫉妬、強欲、怠惰は七つの大罪に含まれていて残るは【暴食の龍】、【傲慢の龍】、【色欲の龍】の3人。
そして今回の楠木魅子の異変。
歌声や容姿を見て龍護は綺麗だなと感じていたが友姫に触れられてそれは無くなった。
相手を魅了していると龍護は見た。
そして現在、この世界には”相手を魅了する魔法”なんかは存在しない。
すると必然的に何かしらの能力を持っている可能性がある。
とすれば残るは龍の力の所持者という判断となり・・・楠木魅子の場合は恐らく─────
(色欲の龍か・・・?)
【暴食の龍】の所持者ではないのは確かだ。
となると後は【傲慢の龍】か【色欲の龍】のどちらかだ。
そして先程の違和感。
友姫に触れられなければ楠木魅子は可愛らしく、皆に可愛がられる存在となる。
つまり、友姫の持つ【怠惰の龍】の力が働いたのだ。
すると消去法で【色欲の龍】の所持者の可能性が浮上した。
そこで龍護はスヴェンにメールで────
《楠木魅子、色欲の龍の可能性高。情報求む》
と短いが確実に意味が伝わるメールを送った。
すぐに返信が帰ってきて中を見る。
《_~![!->?'&*@=@@*+?♡♪\*^☆→○》
(・・・は?)
文字化けをした文章が送られてきた。
(通信が妨害されてる・・・?)
そう考えるのが妥当だろう。
恐らく向こうは龍護達が龍の所持者である事に気付いている可能性も高い。
そして何らかの方法で近付いてくる場合もある。
龍護はいつ、どのタイミングで楠木魅子が仕掛けてくるか警戒を始めた。
◇◆◇◆◇◆
「皆ー!楽しんでるー?」
楠木魅子の呼び掛けに観客は声援で答える。
今の所おかしな動きはない。
(考え過ぎか・・・?)
自らを落ち着かせる為に配られたパンフレットの今日のプログラムを見る。
1.開演
2.歌披露
3.雑談
4.休憩
5.お便り紹介
6.握手会・写真会(※写真会はアプリ会員に限る)
7.閉会
(・・・ん?)
パンフレットをくまなく見ていると下の方に小さく────
※閉会前に個別雑談の抽選があります。
当選した方は閉会後、帰らずに役員の指示に従って下さい。
と書いてあった。
(個別って・・・そんな時間あんのかよ・・・?)
近くを役員の男性が通ったのでこの個別雑談について聞いてみる事にした。
「あぁ、個別雑談の事ですか。ライブの時は毎回やってますよ。けど当選者は1人か2人なので相当競争率も高いですね」
どうやら毎回やっているとの事。
とは言っても周りを見ると顔が普通だったり、オタクそうな見た目だったりと、楠木魅子に対していい印象を受けそうな者は少ない感じがした。
◇◆◇◆◇◆
休憩に入り、それぞれが別の行動をする。
トイレに行く者、パンフレットを読む者、持ってきた飲み物を飲み干す者等、様々だ。
「リューゴ」
「ん?」
ちょっと私も行ってくる。と行って友姫が席を離れた。
◇◆◇◆◇◆
タッタッタッとリズムのいい足音が廊下に響く。
土足でも汚れないようにと廊下やライブ会場には緑色のマットが敷かれている。
いつもとは違う雰囲気に友姫の足取りは軽かった。
角を通ろうとした瞬間に誰かとぶつかってしまう。
「痛っ!?」
「きゃあっ!?」
お互いに転んでしまうも、友姫はすぐに立ち上がる。
「ごめんなさい!大丈夫?・・・って楠木魅子さん!?」
「あたたた・・・あ、ごめんなさい大丈夫でしたか?」
友姫は、私は大丈夫です。と答え、楠木魅子に手を差し出す。
楠木魅子もその手を取り、立ち上がった。
「貴女が友姫・S・ラジネスさんね?あのラジネスカンパニーの」
「あ、知ってるんだ?」
「ええ、私が使ってる機材も全てラジネスカンパニー製だもの!あ、おトイレに行くつもりだったんでしょ?この後すぐ始まっちゃうから急いでね?」
「はーい。頑張ってねー!」
友姫は手を振りながらトイレへと走っていった。
「本当・・・急いでね?貴女の想い人さんが壊れる前に・・・」
楠木魅子は怪しい笑みを浮かべてその場を去っていった。
◇◆◇◆◇◆
トイレを終えた友姫が帰ってきて龍護の横に座る。
ここから後半となる。
壇上には机と椅子が一組設けられ、机の上には大きな白い箱が1つ置かれていた。
恐らくあれの中にハガキがあってランダムで取り出され、楠木魅子が読み上げるのだろう。
ファン達全員が座った所で照明が暗くなる。
『はーい!皆揃ったー?』
楠木魅子の問いにファン達は歓声で答える。
『続いてはお便りコーナーです!』
それではいってみよー!と白い箱に手を入れ、ハガキを出した。
『えーっと・・・ペンネーム《ドンジャラ》さんからのお便りです』
(・・・ん?ドンジャラ・・・?)
龍護にはこのドンジャラというペンネームに聞き覚えがあった。
というのもこのドンジャラという人は安達野武だからだ。
以前学園内で何かハガキを書いてるのが見えてそのペンネームがドンジャラだったのだ。
『では・・・楠木魅子さん、こんにちは。私は楠木魅子さんを初めて見てからファンでした。そんな楠木魅子さんに質問です。オタクっぽい男性は楠木魅子的にありでしょうか?・・・うーんそうですねぇ・・・』
楠木魅子が野武の質問に対して真剣に考えている。
そんな楠木魅子を見てて、何してんだあいつは・・・と龍護は溜息を付いた。
『私的にはありですよ?まぁ、その度合いにもよりますけどね!』
それでは次行きましょー!と再びハガキを取り出してその質問に答えていっていた。
皆様、申し訳ないのですが今回を機に七天龍の遊戯は一時的に休載させて頂きます。
理由としては執筆時間が取れなかった為です。
今後は再び執筆の方に集中してまた皆様に会える事を楽しみにしております。
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