第26話仕組まれたコンサート①

ルシスとネストを殺した相手が《鷹野颯馬》という男性の可能性が高くなった翌日。

龍護は友姫の家にある大きな道場で友姫とスヴェンと空手の稽古を見ていた。


バァン!!!!


友姫が床に打ち付けられる音が響く。


「くっ・・・!!!!」


だがそれでも友姫は立ち上がり、スヴェンに挑んでいた。



◇◆◇◆◇◆



時間切れになり、友姫は結局スヴェンから1本も取れなかった。

座っている龍護の横で友姫が床に大の字になって、ぜぇ・・・ぜぇ・・・と荒々しく呼吸をしている。


「・・・大丈夫か?」

「一旦・・・休憩・・・」


だろうな・・・と思い、スヴェンを見る。


「?なんだい?」

「いや・・・俺もやってみようかな・・・って」


龍護の言葉にスヴェンの目がキランと輝く。


(・・・地雷踏んだ?)


そう思ったが既に遅く、スヴェンはすぐに龍護の道着を用意した。

スヴェンに着替え方を教わり、道着の紐を締める。

両者が開始線に立ち、一礼した。


「試しになにかやってごらん」

「うっす」


その言葉通りにスヴェンに迫り、右手で正拳突きを繰り出す。

スヴェンは手の平で軽く龍護の拳の横を叩き、受け流す。

だが龍護はすぐに左手で再び正拳突きを繰り出した。

それもスヴェンは身体を右にズラして正拳突きの直線上から抜ける。

当然龍護の正拳突きは空を切った。

そこをスヴェンは龍護の左足を狙って軽く自分の足を払う。

当てることに集中していた龍護は下の攻撃に気付かずに避けきれなく、見事に当たってしまう。


「うわっ!?」


追撃に、と言わんばかりにスヴェンは軽く左肘で龍護の背中を突こうとする。

だがそれを読んでいたのか咄嗟に龍護は右膝を曲げて姿勢を低くした。


「!」


姿勢を低くした龍護はそのまま床を蹴ってスヴェンから離れ、姿勢を直す。


「軽くしていたがいい判断だったね」

「そりゃどうも」


スヴェンは龍護に対して軽くしか身体を動かしていない。

それでも尚自分の姿勢を崩される。

龍護はスヴェンと自分に横たわる差を痛感していた。

だが龍護もバカではない。

先程のスヴェンと友姫の稽古。

これも観察に両者の動きを見ていてオリジナルの動きを思い付いていた。

ならそれを試し、スヴェンを見返す。

決意して龍護は再びスヴェンに迫る。


(次は左か・・・右か・・・?)


龍護が出したのは右手の正拳突き─────だがその正拳突きは距離が足らなかったのかスヴェンの目の前で失速してしまう。

だがこれこそが龍護の狙いだった。

左足を1歩、踏み込んで右足を横に凪る。


(!こっちが本命か!!!!)


先程の正拳突きはフェイント。

そして1歩踏み込んだ事でスヴェンが下がっても避け切れない程の距離となる。

龍護は躊躇なく右足を横に振り抜いた。

だが当たる事は無かった。

スヴェンが跳躍して躱したのだ。


「マジかっ!?」


そしてそのままスヴェンは身体を回して龍護に裏拳を繰り出す。

急な反撃に龍護は上半身を後ろに逸らすが、チッ─────と前髪を掠めて何本かが衝撃で抜けた。

龍護は危険と判断し、後ろに下がる。


「あっぶね~・・・」

「私もギリギリだったよ。まさかフェイントを入れてくるとは・・・」


よく言うよ・・・と龍護は心の中で呟く。

先程の裏拳、スヴェンは龍護が躱せる速度で繰り出したのだ。

そうでなければ龍護はここで伸びていただろう。

龍護の付け焼き刃はスヴェンの裏をかくことが出来なかった。


「よくあんなのを思い付いたね」

「さっきの2人の稽古を見て思い付いたんですよ」

「ハハッ、だとしたらすぐに私は追い抜かれちゃうかもね」


本当にそう思ってんのかよ?と再び心の中で毒づく。


「まぁ、魔力を纏ってたら危険だっただろうね」

「そういえば研究してるんでしたっけ?」


まぁね。とスヴェンは実際に魔力を拳に纏わせる。

友姫の【怠惰の龍】の力を見た時に思い付いたようだ。

【怠惰の龍】の能力である【能力無効化】は基本は自分を中心に球体状に広がるが応用として手足等の部分的に纏わせる事も可能だ。

それを聞いてスヴェンは、魔力でも使えるのでは?と考え、現在練習中なのだとか。

すると道場の入口の引き戸が開き、雪菜が現れる。

雪菜はスヴェンを見た途端驚き、すぐにスヴェンの元へ駆け寄った。


「ラジネスカンパニーのスヴェン社長ですか!?」

「ん?君は・・・?」

「はい!スヴェン社長の妻の沙弥様の後輩で八坂雪菜と申します!この度は内定を頂き、ありがとうございました!」


そう言って雪菜は一礼する。

これが初対面だった。

龍護がスヴェンを見ると何か危惧している様な目になっている事に気付く。


「・・・スヴェンさん?」

「ん?あぁ、雪菜君だね?これから宜しく頼むよ」

「はい!宜しくお願いします!」


今日はこの後用事があるようで雪菜は、失礼します。と一礼して道場を去った。


「ふむ・・・」

「スヴェンさん?どうかしました?」

「いや・・・」


気のせいだな・・・とスヴェンは自分に言い聞かせるように呟き、今日はここまでだな。と稽古を引き上げた。



◇◆◇◆◇◆



スヴェンと雪菜の対面が終わって数週間が経つ。

龍護と友姫に髪の毛を数本貰いたいとスヴェンが言ってきた。

理由を聞くと、龍の所持者と一般人でDNAに違いは出るのか?を知る為に研究所で調べるようだ。

それに対して2人は同意し、お互いに髪の毛を10本づつ適当な長さに切って小さなポリ袋に入れる。

スヴェンは礼を言って仕事に行ってしまった。

龍護と友姫も学校の為、用意して家を出た。



◇◆◇◆◇◆



「おっ!龍護とラジネスさん。いいとこに来たな!」


白、雫、野武が集まっている。

・・・白と雫は呆れた顔をしているが・・・


「なんか用か?」

「お前楠野魅子って声優は知ってるよな?」

「まぁ、一応」

「19日にライブをやるらしいんだけど場所も時間も公開してないんだよ。つまり、このスマホの抽選で当たった人しか行けないライブでさ!」

「・・・ダッチーと友姫ちゃんも応募してほしいらしいよ」


そういう事・・・と龍護も呆れてしまう。

恐らく自分が行けなかった時に記念グッズを買っておいてほしいのだろう。

友姫はよく分からなそうにしていたが、面白そう!と乗り気なようだ。

結局いつものメンバー全員で応募する事となった。

応募の際はメールアドレス、名前、性別、年齢、職業、使っているスマホの機種を記入し、送信ボタンを押せば応募完了らしい。

早速全員が記入事項を打ち込んで応募する。

因みに席は50人となっているようだ。

かなりの倍率が伺える。

全員が応募し終わった所でチャイムが鳴って授業が始まった。



◇◆◇◆◇◆



今日の授業が終わり、龍護は友姫と帰ろうとしていた。

その際に野武から発表は当選者のみにメールで送られてくるらしい。

龍護は了承して友姫と帰路に着いた。


「野武ってその楠野魅子っていう声優さんの事、本当に好きだよね~」

「まぁ、あいつのオタク狂いは中学校から変わってねぇけどな」

「リューゴって野武とは中学校からの仲なんだ?」

「まぁな、絡んできたのは向こうからだったけど・・・」

「昔からあんな感じ?」

「そうd・・・いや、今よりもっと落ち着いてた」


龍護から見て野武はどこの学校にも必ず1人はいる大人しい子。という感じに見えていた。



◇◆◇◆◇◆



「ただいま~!」

「ただいま帰りました」


2人共、靴を脱いで家に上がる。

スヴェンは既に帰ってきていたようで部屋から出てきた。


「あれ?お父さん早かったね?お母さんは?」

「今日、同窓会みたいで帰り遅くなるって」


スヴェンは使用人に夕食の準備を頼んでノートパソコンを開く。

そして龍護を呼んだ。


「?なにか?」

「ちょっとね・・・友姫、部屋に行っててくれるかい?」

「分かった」


友姫が部屋に行くと同時にスヴェンはドアを閉める。

どうやら込み入った話らしい。


「龍護君、昨日は私のパソコンに・・・いや、私の部屋に入ったかな?」

「昨日・・・ですか・・・入ってませんよ」

「そうか・・・」

「・・・何かあったんスか?」

「いや・・・深夜にアクセス履歴があってね・・・このパソコンに【七天龍の能力】を送信しておいたんだけど消されていたんだよ」

(そういや送信するって言ってそのまま帰ってきたんだっけ・・・)


まぁそれはいいや・・・とスヴェンの話を聞く。


「深夜にアクセスした履歴・・・誰かが使ったんですよね?」

「そうなんだが・・・う~ん・・・このパソコンにはパスワードが必要なんだ。それを掻い潜ってアクセスしてるんだよ」


スヴェンの言葉に龍護は疑問を持つ。

もしも本人の言ってる事が本当なのであればその人はハッキングをしているという事だ。

そのような高等技術誰が出来ようか?と疑問に思う。

内部・・・この家の何者かの手によって行われたのは確かとなる。

それをスヴェンに伝えると、その線も考えて使用人に確かめたら全員がパスワードを解けなかった。と返ってきた。

つまり外部による犯行。

後知ってるのは・・・


八坂雪菜。


(まさかな・・・)


だが確信は出来ない。

もしも雪菜による犯行なのであれば龍護や友姫自身の身も危うくなってしまう。

スヴェンは雪菜にも試しに解かせてみる。と言って部屋を出た。



◇◆◇◆◇◆



揃って夕食を終えて龍護は自室でふと考えていた。


(雪菜さんは護衛関連だった・・・という事は何かしらの特殊な資格を持ってる筈だ・・・)


龍護の中で段々と犯人が雪菜である線が強くなり始める。

恐らく友姫に聞かせないようにしたのは同性であり、年が近い事も含めているんだろう。

個人的に仲間外れにしてる気がしてならなかったが・・・


(ま、当日分かる事だな・・・)


龍護はそう思って眠りについた。



◇◆◇◆◇◆



翌日。

今日は休日という事で龍護は家にいた。

玄関の呼び鈴が鳴り龍護は迎えにいく。

ガラッとドアを開けるとそこには雪菜が立っていた。


「えっと・・・呼ばれたので伺ったのですが、何があったんでしょう?」

「なんかスヴェンさんのパソコンに誰かが不正に侵入したみたいなんです」


遠回しに雪菜が疑われている事を理解させると雪菜は、分かりました。と言ってスヴェンの元に行く。


「失礼します。社長、お呼びでしょうか?」

「あぁ、よく来てくれたね。ちょっとこのパスワードを解いてほしいんだ。方法は君に任せるよ」


言葉裏に”君の使える全ての手段を使え”という意味を込めて雪菜をパソコンの前に呼んだ。

分かりました。と雪菜も椅子に座ってキーボードを打っていく。


ドゥン!


画面には【パスワード、若しくはユーザー名が間違っています】と表示された。

再び雪菜はパスワードを打ち込む。

またドゥン!という音が出た。

違ったようだ。



◇◆◇◆◇◆



結果的に雪菜はパスワードを解く事が出来なかった。


「これでいいですか?」

「すまないね。少しお茶を飲んでいきなさい」


ありがとうございます。と一礼して高そうなソファーに座った。

少ししてスヴェンがコーヒーを持ってきた。

雪菜の前に置いてスヴェンは一口飲む。


「臨時使用人として雇ってるけど最近はどうかな?」

「はい。不自由なくやらせて頂いております」

「そうか、友姫や龍護君からの評判もいいんだよ」

「それはなによりです」


暫く雑談をして雪菜は、そろそろ失礼します。と言ってスヴェンの家を出た。



◇◆◇◆◇◆



日曜日、龍護は本屋に来ていた。

欲しい漫画が売られるのだ。

自転車を駐輪場に置いて鍵を掛け、本屋に入る。

途中で欲しい漫画を持った男性が出て来てまだあるか?と不安になる。

そして本屋の漫画コーナーに行くと・・・漫画は無かった。

やはり先程の男性が持っていた漫画で売り切れたようだ。

だが、まだ諦めてはなかった。

他にも本屋はあるのだ。

候補としては4件。

1番近いのは古本屋だがどうせなら新品を買いたい。

腕時計の時間は9:50。

その本屋の営業開始時間は10:00。

ここから自転車で向かうとして約20分。

10:10には着く計算だ。

間に合ってくれよ・・・と心の中で拝みながら龍護は自転車を走らせた。



◇◆◇◆◇◆



結果は惨敗。

かなり人気の漫画の為、すぐに売り切れていた。

店員に、次の入荷は3日後になる。と言われ、龍護が次の本屋に行こうとした時だった。


「あれ?龍護さん?」


聞き覚えのある声がして振り向くとそこには雪菜が私服姿で立っていた。


「雪菜さん?」

「どうしたんですか?こんな朝から」


龍護が本を買いに来た事を説明し、売り切れていたから次の本屋に行こうとしていた事を説明する。


「結構人気なんですね・・・」

「まさか2軒目もダメになるとは・・・」


龍護は残念そうに肩を落とした。

ふと雪菜はバッグの中をゴソゴソを探し出す。


「龍護さんの買おうとしてる漫画ってこれですか?」


雪菜が見せたのは金髪の男性と銀髪の男性が剣で鍔迫り合いをしている表紙の漫画だった。


「なんで持ってるんですか!?」

「私もこの漫画のファンなんですよ」


宜しかったら後で読んでみますか?と聞かれ、是非!と答える。

雪菜に、なら近くのファーストフード店に行きましょう。と誘われ、一緒に行く事にした。



◇◆◇◆◇◆



「その時の主人公のセリフがいいんですよね~!」

「分かります!あれは反則ですよ~!」


2人は漫画の話で意気投合していた。


「それにあの主人公、今年の《彼氏にしたいキャラランキング》で1位独占ですからね」

「そうそう!そういえばそのヒロインも《彼女にしたいキャラランキング》で1位取ってませんでした?」


ああ!そういえば!と龍護がスマホを取り出してその漫画のホームページを見る。


「龍護さんはお気に入りのシーンってあります?」

「これは個人的になんですけど五大王との戦闘シーンありますよね?それで主人公が追い詰められるところ。あの時のヒロインが庇って主人公の力が暴走して五大王全員を倒すシーンとかですね」

「あ~、分かります。あれは凄いですよね。ヒロインも主人公も一途だからもう・・・ね・・・それでその後主人公が抱き抱えた時のヒロインのセリフ」

「「『貴方と会えて・・・私・・・幸せだったよ』」」

「涙を流しながらのアレは泣けます」


お互いに手を出し合って握り合った。

どうやら共感してくれる人がいた事を知って同志が芽生えたようだ。


「そういえばアレ、アニメ化するんですよね?」

「え!?それは初耳ですよ!?」


龍護の言葉に雪菜がスマホサイトをチェックする。

どうやら放送は12月からのようだ。

すると龍護のスマホがメッセージを受信した。


「彼女からですか?」

「・・・いや・・・どうやらコンサートの通知ですね」


コンサート?と雪菜は疑問を投げ掛ける。

龍護がスマホの画面を見せる。


【おめでとうございます!

楠野魅子主催の限定コンサートに当選しました!

貴方の当選番号及び整理番号はこちらです。

【4849】

※当日に係員の方に当選番号を伝えて下さい。

開催期日は以下の通りとなります。

開催日:20XX年8月19日(土)

開催時間:午後14:00

開催場所:国立喜龍学園体育館

※当日は私服でお起こし下さい。

※スマホによる写真撮影、及び動画撮影はご遠慮願います。

※なお、お名前とスマートフォンの機種が不一致な場合、替玉参加と見なされます。

そのような事が起こった場合、発覚次第即刻退場となりますので御注意下さい。】


まさかの開催場所は龍護達の通う学園だった。


「おめでとうございます!」

「まさか当たるとは・・・」


すると再び龍護のスマホがメッセージを受信した。

相手は友姫のようだ。


『リューゴ!あのコンサート当選しちゃった!』


どつやら友姫も当選したようだ。


「どうも友姫の方も当たったらしいです」

「コンサートでデートですか・・・羨ましいですね」


そろそろ帰りますか・・・と雪菜が切り出してお互いに帰ることとなった。



◇◆◇◆◇◆



「・・・様の指示通り、楠野魅子のライブに奪木龍護と友姫・S・ラジネスを当選させました」

「宜しい」

「ですが・・・」

「?」


報告を終えた女性の表情が曇る。


「友姫・S・ラジネスは【怠惰の龍】として確定しております。ですが本当に奪木龍護が【強欲の龍】の所持者なのでしょうか?」

「それは私にも分からんよ。だから試すんじゃないか」


男は勝ち誇ったような笑みを止めない。

恐らく何かしらの策があるように見えた。


「友姫・S・ラジネスはいいとして、奪木龍護が龍の所持者であればこちらも動き易くなる。それにもしも本当に龍の所持者なのであれば既に切り札は持っているからな・・・」


そう言った男の視線の先には、パソコンの画面に映る龍護の義姉の奪木恵美の姿があった。



────────────────

後書き

他サイトでも掲載したのですが、少しづつ書き溜めが減ってきております。

その為、次回話を期に一旦休載とさせて頂く事になりました。

閲覧頂いている方々には大変申し訳なく思っております。

私も執筆時間を取りたいのですが仕事とプライベートの両立があまり出来ていない為このような判断をする事になりました。

一応終わりまでのメモはありますので完結は必ずさせようと考えていますので暫くお待ち下さい。

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