第25話迫る闇
※一番下にお知らせがあるので本編を見てからご覧下さい。
「って事は帰りは明日なんすね」
『まぁね。八坂雪菜さんとの対面もその時かな』
漸く会議が終わってアメリカから帰ることとなったスヴェンと電話をしている龍護。
今は学園にいるが休み時間の為、学園のロビーでスヴェンと連絡を取り合っていた。
「結構時間掛かりましたね」
『そうだね。個人的にはもっと早く終わらせたかったんだけどお互いに案を一歩も譲らなくて困ったよ』
ハハハ。と軽い笑い声がスマホを通して聴こえてくる。
龍護は帰ってくる事を2人にも伝えますか?と尋ねるもスヴェンはそれを拒否した。
どうやら驚かせたいようだ。
龍護も分かりましたよ。と呆れ気味に言って電話を切った。
「リューゴ!」
後ろから友姫に抱き着かれる。
「危ねぇだろ」
「え~嬉しいくせに~♪」
スリスリと頬擦りしてる友姫と呆れるように笑みを見せる龍護。
そろそろ休み時間終わるよ?と言われてクラスへと戻っていった。
◇◆◇◆◇◆
今日の授業を終えて帰り支度を始める。
野武にゲーセンへと誘われたが友姫と共に断った。
「最近音沙汰無いね~」
「何がだよ?」
「【七天龍の遊戯】だよ」
確かに・・・と思った。
【嫉妬の龍】撃退以来、何の変化も無いのだ。
残っているのは─────
・強欲の龍
・怠惰の龍
・色欲の龍
・傲慢の龍
・暴食の龍
の5つ。
龍護と友姫は【強欲の龍】と【怠惰の龍】なので残りの3人を10月までに倒さなければならない。
そして何よりも2人は【嫉妬の龍】と【憤怒の龍】の紋章を持ってないのだ。
となると3人の内、誰かが1つ・・・あるいは両方を自分の紋章と付け足して持っているという事になる。
紋章を奪う事でその者は龍の力も持つ事が出来る。
つまり最初の龍の力も使えれば他の龍の力も同時に使う事が出来るのだ。
もしも1人が3つの龍を持っていたら相手としては厄介過ぎる。
それらが龍護にとって1番の悩みどころでもあった。
龍護と友姫が交差点を渡ろうとした時だった。
前方から見覚えのある車がやって来て2人の真横で停まる。
そして窓が開いて運転手が顔を出した。
雪菜だった。
「おかえりなさいませ」
「雪菜さん」
「雪菜だー!」
乗っていきますか?と聞かれ、2人は有難く乗せてもらうことにする。
「そういえば・・・雪菜さんて友姫の家に泊まり込みじゃ無いんですね」
「あ~・・・私、実家暮らしでして」
「そうなんすか」
「それを言うなら龍護さんは何故友姫さんの家に?」
龍護は返答に迷った。
素直に【七天龍の遊戯】に備えて、とは言いづらいのだ。
雪菜は無関係者であり、【七天龍の遊戯】で死ぬ事はない。
だからこそ真実を混じえた嘘を付くしかないのだ。
「俺の家・・・今は誰も居ないんすよ・・・義姉は彼氏が亡くなってずっと彼氏の家にいるし・・・それにあの家には俺と義姉以外に住んでる人が居ないんです」
「・・・申し訳ありません・・・不躾な質問でした」
全然構いませんよ。と受け流す。
「その・・・龍護さんのお姉さんはどんな方なんですか?」
「あーそれ私も気になる!」
「マジですか・・・」
はぁ・・・と溜息を洩らしながら龍護は義姉の事を話しだす。
「言っちまうと俺・・・義姉と血は繋がって無いんス」
「え?どういう事?」
「どうも拾われたらしくって、その拾った人が今の義姉なんですよね」
そうなんですか・・・と重々しい口調で応える雪菜と軽く俯いて龍護から視線を逸らしてしまう友姫。
龍護からしてみたらどうって事は無いかもしれないが2人からしたら本人の心の古傷を抉っている感じがしてならない。
「けど、なんで龍護さん・・・貴方は捨て────養子だって気付いたんですか?」
雪菜が捨て────で言葉を詰まらせ、直した。
捨て子────これを言ってしまったら龍護を精神的に更に追い詰めてしまうかもしれない。
そう瞬時に判断し、言葉を変えたのだ。
「アルバムですかね・・・出生のアルバムなら家族であれば絶対に持ってる筈なんです。けど俺には出生の写真は1枚も無かった・・・だから気付いたんです」
正確には交通事故で自分は亡くなり、自分としてこの世界に生まれ変わったのだが・・・
友姫の家が見え、龍護は、ここでいいですよ。と雪菜に車を停めさせた。
「龍護さん」
「はい?」
不意に龍護は雪菜に呼び止められた。
「龍護さんの辛いお気持ちは理解します・・・少しでもいい・・・私達を頼って下さい。その時はこの身を犠牲にしてでも貴方を御守りします」
龍護は”ありがとうございます”という意味を込めてヒラヒラと手を振って友姫の家に入った。
◇◆◇◆◇◆
パタン。
雪菜が借りているアパートに帰ってきた。
思い足取りでリビングにあるベッドにスーツのままダイブする。
「養子・・・か・・・」
実際はどんなにキツいのだろう?
生まれた瞬間に棄てられる。
どれだけ恐ろしく────────
どれだけ寂しいのか────────
親を持っている雪菜には理解出来なかった。
自分はその立場では無いからだ。
人は皆、相手がどんな思いを持ち、何を考えてるかは解らない。
自分は自分、他人は他人でしかないのだ。
もしも分かりたいのならその人になるしかない。
だがそれでは自分はどこへ行ってしまう?
その行為をして自分を見失ったら?
考えるだけでも恐ろしい。
だが共有する事は出来る。
丸投げする必要は無い。
重いのなら分ければいい────それが出来るのであればの話だが。
雪菜は少し龍護が可哀想に思えてきた。
(龍護さんは・・・どうしたいんだろう?)
拾われて本当の家族を知らないまま育てられて、もしも棄てた人に会ったら龍護はどんな反応をするのだろう?
雪菜は親切心から龍護の身辺を調べてみようと考え、パソコンを起動しようとして────止めた。
もしも家族が見付かって龍護に伝えるとして、その自己満足と呼べそうな行為で龍護が変わってしまったら?
それで今までの龍護が崩壊したら?
色んな憶測が頭を過ぎって電源ボタンを押そうとしている手が震える。
駄目だ。
これ以上は踏み込むな。
頭の中で警報が鳴る。
フウッ・・・!と息を吐き、自分を落ち着かせる。
その時、スマホに着信が入った。
「もしもし」
『雪菜ぁー?私。頼まれてた人探し終わったよ』
「そう、今から送れる?」
『オッケー。PC?』
「でいいよ」
『あーい』
じゃねーと電話口から軽い声が消え、パソコンを付ける。
数秒後にデスクトップが表示され、メールのアイコンの吹き出しのマークの中に”1”が表示される。
メールのアイコンをマウス操作でクリックし、メールの画面を開く。
そこに龍護が雪菜に頼んだ”ルシスとネストを殺害した人の顔と名前”が表示される。
頭は坊主頭で無愛想な顔、身体は鍛えられていていかにも軍人というべき格好だった。
そして階級は──────
◇◆◇◆◇◆
「将官の大将・・・ですか・・・」
「ええ」
龍護と雪菜は今、ファストフード店にいる。
昨夜、龍護のスマホに雪菜からの着信が入り、明日(今日)の昼に会う約束をしていたのだ。
そして先程両者が到着し、雪菜がファイルを渡しながら相手の階級を話したのだ。
「将官っていいますと・・・」
「士官の中ではトップで大将も将官の中でトップの座です」
うわぁ・・・と龍護はげんなりしてしまう。
軍人で、将官で、大将なのだ。
恐らくは幾千もの戦いを潜り抜けている。
そんな相手を相手にしなくてはならないのだ。
極力は避けたい。
だが生き残るには闘い、紋章を奪い取らなければならないのだ。
ハァ・・・と溜息が漏れる。
「あの・・・龍護さん」
「?はい?」
「少しお聞きしたい事が・・・」
「なんすか?」
「なぜ・・・殺した方の名前を知ろうと思ったんですか?」
「・・・」
そこをツッコムかー・・・と心の中で嘆く。
理由を決めてなかったのだ。
紋章を奪う為です。
と言ったら、何言ってるんだこの子は?と変な目で見られるに違いない。
先程も言ったように雪菜は【七天龍の遊戯】とは無関係なのだ。
もしも巻き込んでしまい、ネストの時のような大量殺人を引き起こす訳にはいかない。
龍護は極力部外者を巻き込まない方法を考えている。
「まぁ・・・なんといいますか?興味本位です」
「・・・そうですか・・・」
なんとか誤解という形で理解してもらえたようだ。
この世界のルールは奪木龍護・・・蒼葉雄輔がいた前世とはほぼ変わらない。
変わってる事と言ったら魔法がある事。
そして憲法の一部が増えたり減ったりしている点のみだ。
それ以外は殆ど前世の世界と変わっている点は無いのだ。
もしも雄輔が転生した先が中世ヨーロッパ等の古い時代であれば剣や銃等、護身用に持って、最悪の場合にはそれらの力を奮っていただろう。
それすらも出来ないのだ。
龍護は今、自分の無力さを痛感していた。
気まずそうにしている龍護を見て、あまり深追いしない方がいいと思ったのかそれ以上聞くことは無かった。
◇◆◇◆◇◆
「それでは私はここで」
「ご馳走様です」
龍護と雪菜はファストフード店を出て別れる。
件のファイルは龍護の手元にある。
再びそのファイルにある名前を見た。
「鷹野颯馬・・・か・・・」
ファイルに入っていたのは本人の履歴と大きい顔写真と小さな顔写真。
鷹野颯馬という人物は陸軍の将官であり、坊主頭、そして右頬に大きめの切り傷がある。
それ以外で特徴的なのは睨むような目である。
恐らく幾千の闘いを潜り抜けてきた為、戦闘であればエキスパートである可能性は高い。
龍護は嫌そうに溜息を付きながらファイルを鞄に入れ直してそのまま家に帰っていった。
◇◆◇◆◇◆
「私を追ってる者がいる?」
「はい。名前は奪木龍護・・・【怠惰の龍】の彼氏です」
1人の女性が座っている男性の前に立ち、報告を続けている。
男性は思考を巡らせた。
(恐らく【怠惰の龍】が部外者に頼んだのだろう・・・ん?奪木・・・?)
男性はこの”奪木”の苗字に心当たりがあった。
それもその筈、奪木龍護の義姉が以前【インターネットアーカイブ】で【七天龍の遊戯】について調べていた事を思い出したからだ。
「確か・・・奪木といえば・・・」
「はい。─────様が以前殺害命令を下した【憤怒の龍】の彼女に当たる者です」
2人揃って龍の所持者と関わったのか・・・と不運そうに呟く。
フゥ・・・と息を吐いて椅子から立ち上がろうとして止まる。
(まさか・・・)
男の頭にとある答えが浮かび上がる。
「その奪木龍護というやつを監視しろ」
「え?ですが彼は・・・」
「構わん」
女性は、分かりました。とだけ告げ、一礼してその部屋を出た。
男は再び座り直す。
(もしも私の考えがあっていれば・・・だがなぜ・・・?)
【強欲の龍】の所持者が龍護である可能性が高いと見た男。
もちろん龍護も命を狙われ始めていることに気付くことはない。
───────
【お知らせ】
書き溜めが減ってきた為、4月に1話を出した時点で休載とさせて頂きます。
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一応全体像は完成しておりますが私自身仕事(夜勤)の関係で執筆時間が思うように取れなく、苦戦している状態です。
ですが必ず戻ってきますのでそれまで暫しお待ち下さい。
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