第24話姉弟の秘密

龍護は百貨店に来ていた。

義姉である恵美の誕生日プレゼントを選びに来ている。

とはいえ女性の感性が分からない為、龍護はプレゼント選びに手間取っていた。


「友姫も連れて来りゃ良かったかなぁ?」


だが今は授業中。

友姫も成績は良くなってきたが不安要素はまだ残っている・・・というか友姫が授業中を抜け出すイメージが出来ない。

あれでも真面目なのだ。

すると7頭の龍の置物を見つける。

伝説である【7頭の龍】を模した置物だ。

だが色や形的に年寄りが選びそうな感じがあったのでボツとなる。


「やべ・・・マジで詰んだかも・・・」


龍護は仕方なく無料通話アプリのメッセージ機能で『義姉に贈るものを選んでんだけど男の目線からはミスりそうだからアドバイス頼む』と休み時間になったタイミングでメッセージを送った。

その2分後、『オススメはアクセサリーとかかな。ティオなら女性向けのが豊富だから行ってみて』と返ってきた。


ティオ

様々な店が揃う巨大なショッピングモールで一部の店舗では若い男女のカップルが好みそうなキーホルダー等を取り扱う他、飲食店も豊富なのが有名である。


ならそこに行ってみるか・・・とルートを確認しようとした直後だった。

再びメッセージが来る。

『リューゴのお姉さん、大丈夫だといいね』とメッセージが返ってきた。

龍護は忘れてはいなかった。

恵美の彼氏、ルシス・イーラは【憤怒の龍】の所持者だったが何者かによって殺されている。

最愛の人を亡くして恵美は傷心していたのだ。

その時に一緒にいれば共に逃れられたのではないか?と思ってしまう。

だが龍護にとってルシスは敵となる。

本人は母国で決着を着けたいと言っていたがいつ、裏切られるか分からないのだ。

もしも龍護が話に乗ってルシスと停戦してもルシス本人にその気が無ければ不意を突かれて龍護の負けは濃厚となる。

対戦者が亡くなって喜ぶべきなのか、義姉の彼氏が亡くなって哀しむべきなのか・・・

龍護はそんな難しい立場になっていた。



◇◆◇◆◇◆



買い物を終え、龍護は自分の家に来ていた。

個人的に寄ろうと思った為だ。


「久々だな・・・」


龍護は持っていた鍵を使って玄関の鍵を解錠し、ドアを開けた。

だがすぐ異変に気付く。


明るいのだ。


(空き巣か・・・?)


龍護は警戒して姿勢を低く、そして足音を消して奥に進んで行く。

そしてリビングに着いた瞬間だった。


ガァン!!!!


龍護の頭に衝撃が走る。

あまりの痛みに龍護は頭を抱えた。


「・・・って龍護!?」

「え?」


声がした方を見てみるとそこには義姉である恵美がフライパンを持って立っていた。



◇◆◇◆◇◆



「んで俺を空き巣犯だと勘違いして姿を見ねぇまま頭をフライパンで思いっ切りぶっ叩いたと・・・」

「うん、その・・・ごめんね!?まさか龍護だとは思わなくって!」


ハァ・・・とため息が出てしまう。

確かに本当に空き巣犯なら先程の一撃で撃退出来ただろう。

だが相手は義弟。

警戒心があるのに評価するべきかトバッチリを喰らったのに文句を言うべきか微妙な事に龍護は怒れずにいた。


「てか、なんで姉貴が家にいるんだよ?」

「あ~・・・ちょっとね・・・今はルーの所には帰ろうとは思わなくてさ・・・今はこっちにいるの」

「・・・」


義姉の言葉になるほどな・・・と心の中で呟く。

恐らくルシスの事を思い出したくないから実家にいるのだろう。

だが急にパアッ!と笑顔になる。


「それに元気にしてる義弟の前で暗い顔なんかしてられないでしょ!」

「・・・」


義姉の心遣いに龍護は胸を痛めた。

恵美は立ち上がり、久しぶりに何か作るよ!龍護はテレビでも見ててと言ってキッチンへと向かった。

暇になった龍護はテレビの近くにあるソファーに座ってテレビを付けながら今までの事をスマホのメモ帳機能に書いて整理を始める。


【ルシス・イーラ】

・焼死体で発見されたが額に銃痕あり。

・親族に聞くも、分からないの一言。

・紋章は剥奪済。

・ルシスから渡されたサイトは閲覧不可能になった。


【ネスト・ジェーラス】

・名家出身。

・魔法適正がCの為、勘当を受ける。

・水死体として発見される。

・紋章は剥奪されている可能性高


この2者の共通点は何れかの龍の所持者である事、他の龍の所持者によって殺害された事の2点だ。

ならば


「同一犯でしょうね」


恵美の言葉に反応し、キッチンを見る。


「え・・・?今何て・・・?」


義姉が【七天龍の遊戯】を知っている────?


いや、そんな筈は無い。

遊戯の開始は脳内で告げられ、紋章も一般人には見えない。

なら今の言葉は何だ?


様々な憶測が龍護の脳内を駆け巡る。

そんな龍護に恵美が告げる。


「何って・・・ほら!今放送してるじゃない。【ロシアの動物園で檻が壊され、動物が怪我をする】って事件!やり口も全て同じみたいよ?なら同一犯としか思えないじゃない」


それか・・・と龍護は安堵する。

夕食が出来上がったようで恵美がテーブルに食事を置いた。

龍護と恵美もテーブルの椅子に座る。


「「頂きます」」


両者揃って食事を始めた。


「なんか久しぶりね」

「そうだな」


その後は互いに会話も無く、カチャカチャと食器と箸がぶつかる音だけが響く。

だが恵美がその沈黙を切った。


「ねぇ、龍護」

「ん?」

「貴方は・・・今の生活に満足?」

「・・・どうしたよ?」

「ちょっとね・・・」


龍護は頭に疑問符が浮かぶ。


「そろそろさ・・・言った方がいいと思ってね」

「何を?」

「私達・・・姉弟の秘密」



◇◆◇◆◇◆



”姉弟の秘密”


その言葉を聞いて動いていた箸が止まった。


「俺達の・・・秘密?」

「そう・・・」


再び龍護の頭に様々な憶測が駆け巡る。


・実は奪木家は【七天龍の伝説】の末裔だった。

・特殊な部隊、或いは機関を有している。

・特別な力を宿していて龍護はその力を受け継ぐ必要がある。


「私達はね────」


龍護が次の言葉を待つ。


「血が繋がってないのよ」

「・・・」


今更かよ!?と心の中でツッコンだ。


「なんだその事か・・・」

「そう、その事・・・って、え?」

「知ってたよ・・・そんな事」


当然だ。

奪木龍護────旧名、青葉祐輔。

車の事故で亡くなってこの世界にいる男、そして恵美によって拾われ、今の生活をしているのだ。

突然恵美が立ち上がり、龍護の側まで歩み寄る。


「なんだよ・・・?」

「なんで・・・」

「?」


ガッ!とグーにした両手で龍護のこめかみを挟む。


「なんで知ってんのよおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」

「いだだだだだだだだ!?!?!?!?」


突然グリグリとこめかみにグーにした両手を捻り込む。


「『血は繋がってなくても私と龍護の絆は永遠だからね!』、『姉貴・・・』っていう感動的な展開が台無しじゃない!!!!どうしてくれんのよ!?」

「知らねぇよ!!!!てか姉貴ってそんなにハートフルな人だっけ!?」


暫く龍護のこめかみを痛めつけて満足したのか自分の席に戻って食事を再開する恵美。


「少しは考えてよね」

「へいへい・・・っとそうだ・・・俺も聞きたい事があったんだ」

「何?」

「俺達の・・・両親ってどうしてんだ?」

「・・・」


その言葉に動いていた箸が止まり、恵美の表情が曇る。


「やっぱ・・・気になる?」

「まぁな・・・」

「そう・・・」


恵美が箸と茶碗を置き、フゥ・・・と一息付いてから龍護を真っ直ぐに見詰める。


「そっちも話した方がいいのかもね・・・」


その言葉に龍護も姿勢を正す。

だが半ば気付いていた。

もしも両親が健在ならすぐに話す筈だ。

だが今の恵美の顔は神妙であり、軽い話ではない。


恐らく・・・既に────


「私達のお婆ちゃんは去年亡くなったのは覚えてるわよね?」

「まぁな・・・」

「私がまだ幼い頃・・・龍護と会ってない頃の話になるわ・・・両親は────私とお婆ちゃんを残して家を出たの・・・そして」


恵美の言葉にズキッ・・・と龍護の心が痛んだ。

両親はいた。

だがその両親は恵美とお婆ちゃんを捨て────


「自らの探究心を埋めたいが為に両方どこかの海外で楽しんでるわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


────たのではなく、ただ単に我が道を行っているようだ。


「信じられる!?お母さんなんて『私は魔法をとことん研究したいから』って言って色んな研究室に足を運ぶわ、お父さんなんか『未知なる探究へ』って言って海外で遊び呆けているわ・・・馬鹿なの!?アホなの!?何がしたいの!?それにお婆ちゃんも『やりたい事が出来たんならそれにひた走りなさい』って言って2人が家を出るのを止めなかったし!」


目の前で義姉がウガー!!!!とマシンガン並の速さで愚痴を零していく。

それに対して龍護は、え~・・・と若干(?)呆れていた。


「あ~!もう!さっきのも含めて愚痴ってたらイライラしてきた!今日はもう呑むわよ!龍護!アンタも呑みなさい!」

「え?ちょっ・・・俺(この世界じゃ)未成年・・・」

「ノンアルコールだから心配なし!いいから呑む!!!!」


恵美がチューハイとノンアルコールチューハイを持ってきて龍護にノンアルコールの方を渡す。

プルタブを開けるとプシッ!といい音がなった。

そして思い切り缶を傾けて一気に飲み干す。


「プハーッ!やっぱいいわね!」


おっさんかよ・・・と龍護はノンアルコールチューハイをチビチビ呑んでいた。



◇◆◇◆◇◆



「そしたらそいつ何て言ったと思う?『そこから先は管轄外ですので』だって!んなもん知らねぇっての!」


義姉は完全に出来上がっていた。

龍護はさっきから、へー、すごいなー、等を棒読みで言っている。


「そこで言ってやったのよ!『なら私のやってるのも管轄外なので止めさせて頂きます』って!その時のあいつの焦り具合といったら龍護に見せてやりたかったわ!」

「そーかい」


何度この話を聞いただろう。

義姉の顔は赤くなり、テーブルには何本もの空き缶が転がっている。


「ちょっと聞いてるの?」

「聞いてるよ」


だが龍護は内心ホッとしていた。

あれだけ彼氏を亡くしているのに今では大っぴらに愚痴を零しているのだ。

少しは心の闇も晴れたのだろう。


「私だって・・・必死にやってるのに・・・」


うわぁーん!と顔を隠すようにテーブルに突っ伏す。

そしてシーンとしてしまった。


「おーい?」


チョンチョンと義姉の頭を啄く。

だが・・・


「ZZZ・・・」


酔って寝ていた。


「ったく・・・」


龍護は立ち上がって義姉に肩を貸し、2階にある義姉の部屋に連れていく。


「あはは~身体が自然に動いてる~・・・♪」


うわ言を言ってる義姉を無視してベッドに寝かせる。

龍護は片付けようと義姉に背を向けた瞬間だった。


「ルー・・・」


その言葉にピタッと止まってしまう。


「なんで・・・なんでよ・・・なんでルーは死んじゃったの・・・?」


やはりまだ傷心は残っていたようだ。

龍護は知っている。

ルシスは何者かによって殺された事を。

だがそれを言う事は出来ない。

龍護にとって義姉は【七天龍の遊戯】の参加者ではない。

部外者なのだ。

その部外者を巻き込むつもりは無い。


「龍護は知ってる?ルーの卒業論文の最初の内容って【日本の文化と歴史】だったの」

「そうなん・・・え?最初?」


卒業論文について、違ってる事に気付いた龍護は振り向いた。


「なぜか分からないけど急に【7頭の龍の伝説】について調べてそれを卒業論文にしたの」


それを聞いて合点がいく。

ルシスは七天龍の伝説について調べていた事を。

恐らく派生で【七天龍の遊戯】の情報を集めようとしていたのだ。


「龍護・・・龍護は何か聞いてない?」

「なんで俺に聴くんだよ?」

「ルシスに最後に会った人って龍護でしょ?なら何か聞いてるんじゃないかって思って・・・」


恵美の問い掛けに龍護は言葉を詰まらせた。

勿論知っている。

だが────


「悪ぃ・・・詳しくは聞いてねぇんだ・・・」


目を左に逸らして言うしかなかった。


「・・・そっか・・・」


もしもここで言ってしまったら義姉は何かしらの行動を取りかねない。

事は慎重に進めないといけないのだ。

そうしないとネストの時のように多くの関係無い者が危険に晒されてしまう。


「私はもう大丈夫だから彼女さんの所に帰ってあげな」

「え・・・でも・・・」

「いいから行った行った!」


義姉の言葉に、分かった。と答え、部屋を出る。

そしてガチャという音の中に”嘘付き”という言葉が混じっていたが龍護の耳には届かなかった────



◇◆◇◆◇◆



「じゃ、帰るか・・・」


予め買っておいた誕生日プレゼントを眺める。

龍護はそのプレゼントをポケットにしまい、走って友姫の家へと帰っていった。



◇◆◇◆◇◆



恵美は龍護が帰るところを窓越しに眺めていた。


「本当・・・嘘が下手なんだから・・・龍護は気付いてる?貴方・・・嘘を付く時は決まって目を左へ逸らすのよ・・・」


恵美はポケットからスマホを取り出し、【インターネットアーカイブ】というサイトを検索する。

昔のサイトを遡れるサイトだ。

そこで【7頭の龍の伝説】を検索していた。



◇◆◇◆◇◆



「閲覧者?」

「はい、どうやら【インターネットアーカイブ】というものを使って【7頭の龍の伝説】を調べている者がいるようです。名前は奪木恵美」

「その者は?」

「【七天龍の遊戯】とは無関係者です」


なんだ関係無いのか・・・と男性はため息を付く。

【七天龍の遊戯】の関係者ならそこから逆探知すれば居場所が分かるが無関係者であれば探すだけ骨折り損だ。

放っておけ。とあしらう。

だが男性は知らなかった。

恵美の義弟こそが【七天龍の遊戯】の参加者であり、男性が欲しがっている【強欲の龍】の所持者である事を────


そして恵美も自分で危険の領域に入ってしまった事に気付く事は無かった────

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