第23話潜む影

後日、ネスト・ジェーラスは水死体として発見された。

テレビのニュースでは《謎の浮遊物体出現》として当時の映像が流れている。

そしてその時、繭から落ちた女子高生がネスト・ジェーラスと知るとネストを引き離した両親が『私達の娘を返せ』、『日本の安全管理はどうなっている』、『人殺し』等、自ら引き離したくせに偽善な言葉を並べて日本側、そして国立喜龍学園に多額の慰謝料を請求してきた。

日本は事を荒らげたくない為、要求に応じる他無かった。

それと同時に喜龍学園に大勢のマスコミが押し寄せ、生徒達にインタビューするも、教員達が先手として『彼等のインタビューに応じるな』と釘を刺しておいた為か、マスコミは有力な情報は得られなかった。

だがとある1人の生徒が目立ちたいからか、『3年生の方達と仲良くしていた』と情報を流してしまい、当時、話していた北野白、北野雫、安達野武、友姫・S・ラジネス、奪木龍護にインタビューしたいと再びマスコミが押し寄せ、ジェーラス家も龍護達と会って話をしたいと言ってきたのでこれ以上の混乱は招きたくないとして5人に出るように頼むしかなかった。

当然白、雫、野武は少し話しただけでそれ以上の事は知らない。

だが友姫と龍護は違う。

友姫はネストを倒した張本人。

龍護はネストと合同授業で一緒になっている。

その中でも1番にマスコミが集中したのが龍護だった。


『今回、死亡したネスト・ジェーラスさんに対してどんな思いですか?』、『ネスト・ジェーラスさんとはどんな関係で?』、『ネスト・ジェーラスさんの死について貴方は関係しているのですか?』等、ズカズカとプライベートな質問を飛ばしてくるマスコミに苛立ち、教員達からは『出席扱いにしておくから当分は家を出ない方がいい』と促され、龍護は事が収まるまで自宅待機を余儀なくされた。

そして2週間が経った頃、漸くマスコミの姿も減ったのか、ジェーラス家が龍護との会談を申し込んできた。

喜龍学園側はお断りしたいと言ったが『なら国家間問題として貴方方を訴える』というようなメッセージを受け、仕方なく龍護との会談を許可せざるを得なかった。

だが龍護にとっては相手を黙らせるチャンスとして受け取り、会談に臨むことにした。



◇◆◇◆◇◆



当日。

学園長室の椅子に龍護は座っていた。

初めて入る所にソワソワするも、会談の時間になる。

机の上には1台のパソコン。

会談といっても画面越しのようだ。

着信が入り、応答する。


「はい、こちら国立喜龍学園です」


相手はジェーラス家のようだ。

すぐに画面に出すように言われたのか、教員は焦りながら回線を繋いだ。

龍護の目の前にあるパソコンに1人の男性が映し出される。

太っていて、髪は薄く、身長も低い。

デブ・チビ・ハゲ。

三拍子揃ったこの人がネストの父親なのか・・・と龍護は落胆をしてしまった。


『君が、リューゴ・ダツギかね?』


その目は明らかに龍護を見下している。

恐らくは自分がジェーラス家である事に酔いしれているのだろう。


「はい、私が奪木龍護です・・・貴方の娘さんであるネスト・ジェーラスさんとは合同授業で一緒になりました」

『なるほど・・・君は私の最愛の娘であるネストの死についてどう思ってる?』


自分で捨てておいて何が最愛だ、この偽善糞狸。と心の中で毒づきながらも龍護は答える。


「正直に言いますと痛々しい事件でした。ネストさんは合同授業では私のパートナーで、御本人にも伸び代はあったので尚更です」


伸び代────この言葉にネストの父親はピクッと反応する。


『伸び代?なるほど・・・君ほどの実力であればネストを見ても伸び代があると見えるか』


その言葉に苛立ちを覚える龍護。

途端に龍護が行動した。

教員達を学園長室から追い出したのだ。

これで学園長室にいるのは画面越しのネストの父親と龍護の2人のみとなる。


「ふぅ・・・これでアンタと正直に言い合い出来るな」


突然口調が変わり、えっ?と疑問に思うネストの父親。


「最愛の娘だとか、よくそんな思いもしてねぇ事言えるんだな?」

『何を・・・私は────』

「聞いたぜ?アンタ・・・ネストの魔法適正がCってだけで地元の名門校に行かせなかったんだろ?」


その言葉を聞いてネストの父親はチッ・・・と舌打ちをする。


『まぁ、確かにネストは落ちこぼれだ。ジェーラス家の恥でもある』

「つまり、アンタにとってネストはどうでもよかったと?」

『何を今更。伝統を受け継ぐ事が出来ない者に慈悲など存在すると思うかね?』


その言葉を聞いて龍護は確信した。

元々家に連れ帰る選択肢は存在してなかったのだと。


「なら・・・気兼ねなくこの映像を流せるな」


龍護は自分のスマホを取り出して画面を見せる。

そこにはネストが映っていた。


『・・・何のつもりだ?』

「聞けば分かりますよ」


龍護が再生ボタンを押す。


《私はネスト・ジェーラス・・・私は家族や親戚に冷遇されています》


これは以前、龍護とネストが2人でいた時に撮った映像だ。

ここからは完全に龍護のターンとなった。


「最愛・・・ねぇ・・・この動画をネットに上げたらマスコミはどんな反応をするだろうな?」

『・・・陰湿な脅しだな』

「どうとでも言え。偽善の塊のアンタが言うことでもねぇしな」

『・・・要求を聞こう』


龍護は《もう、学園には関わらないこと》、《ネストの葬式は故郷で行い、埋没する事》、《ネストの遺体に謝罪する事》を要求した。


「次にまた何かしに来たら動画を上げるからな」

『フン。2度と低能な庶民如きに関わりたくないわ』


そう言い捨てネストの父親は回線を切った。

そして龍護はダン!!!!と拳を机に叩き付ける。


「子どもの可能性を捨てるテメェみたいな屑親の方が低能だろうが!!!!」


ドアを開け、会談が終わった事を告げる。

まだ引っ掛かりはあるが無事に会談は終わる事が出来た龍護であった。



◇◆◇◆◇◆



翌日。

案の定、龍護は周りの生徒からあの後の事を聞かれたのだが話す事は無かった。

そして当の本人は今、机に伏してぐったりとしている。


「お、お~い・・・大丈夫・・・な訳無いか」


白が龍護の様子を見に来たが、ぐったりしている様を見てすぐに察していた。

そこに友姫が現れて少し1人にさせておこうと白に言って2人はその場を離れた。



◇◆◇◆◇◆



龍護は考えていた。

明らかにおかしすぎる────と。

龍の所持者が周りに集まり過ぎている。

1人目の脱落者である【憤怒の龍】の所持者、ルシス・イーラは龍護の義姉である恵美の彼氏。

2人目の脱落者である【嫉妬の龍】の所持者であるネスト・ジェーラスはこの学園の後輩。

何者かによって周囲に集められてる感じがしていた。

今のところ2人しか脱落していない為、確信は出来ないでいる。

だが今後、龍の所持者が龍護や友姫の近くに現れるのであれば誰かの作為である可能性は高くなる。

そのような事を出来るとしたらその張本人は何者なのか────


(・・・雪菜さんに頼んでみっか・・・)


龍護は教師に、まだ体調が優れない。と言って今日は帰ることにした。



◇◆◇◆◇◆



『ルシス・イーラとネスト・ジェーラスを殺害した人を調べてほしい・・・ですか』

「出来ます?」


龍護は友姫の家に戻り、雪菜と電話をしている。


『少し厳しいかもしれません』

「・・・ですよね・・・」


ダメ元は承知の上だったが実際に無理となると現実を見せられているような気がしてならない。

龍護が諦めて電話を切ろうとした時だった。


『一応伺いたいのですが緊急ですかね?』

「いや・・・それ程ではありません」

『では時間を頂けますか?知り合いにかなりの権力者がいるので運が良ければその人が調べてくれるかもしれません』

「そうですか・・・それじゃあおね────」

『ですが』


龍護がお願いします。と言いかけて雪菜の声が被さってしまう。


『理由は分かりませんがネストさんは水死体、ルシスさんは焼死体として発見されています。調べて行く上でもしも理由があったのだとすればそれは”犯人が隠蔽工作をした”となり、それが出来るのは限られた人物だけです。龍護さんの名前は伏せますがもしも貴方の名義で調べている事が判明した場合、貴方自身が消される可能性がありますので忠告させて頂きます』

「分かりました・・・すみません色々と」

『いえ、こちらも熱くなってしまいすみませんでした。それでは今から聞いてみますので結果をお待ち下さい』

「はい」


お互いに通話を切った。

そしてふと龍護はカレンダーを見る。

既に遊戯開始から4ヶ月が経過し8月になっていた。


「あ・・・そういえば・・・」


龍護はスマホのカレンダーを見ると9月20日に【!】のマークが表示されている。

その日をタッチし、項目を開いた。


【義姉の誕生日】


龍護の義姉である恵美の22歳の誕生日だ。

今日は8月6日の為、後3週間程度は余裕に空いている。


(・・・探してみるか・・・)


龍護は立ち上がり、出掛けることにした。



◇◆◇◆◇◆



雪菜は龍護との電話を切るとフゥ・・・と息を吐く。


「なんだかんだ言って奪木さんも子どもなのよね・・・」


フフッと笑みが零れてしまう。


「さてと・・・」


雪菜は電話帳アプリを開いて目的の人物に電話を掛ける。


「あ、雪菜です。ちょっと調べてほしい事がありまして・・・」


雪菜は伝えたい事を一通り伝え、借りているアパートへと帰っていった。

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