第22話譲れぬ想い

「協力・・・?」

「そうだ」


龍護の提案にモニターを見ながら【嫉妬の龍】の”眼”はクスクスと笑い出す。


────何を言うかと思えば・・・ただの命乞いじゃ・・・


「俺が【強欲の龍】の所持者であってもか?」


その言葉に【嫉妬の龍】の”眼”はピクッと反応し、こちらを見た。

それをいい事に龍護は左手の白い紋章を見せる。

【嫉妬の龍】の”眼”は近くまで寄ってきてその紋章をまじまじと見た。


────まさか・・・本物ね・・・驚いたわ。で、貴方はどうやって私達に協力をするの?


正直言うとここから先は言ってしまったら全てが水の泡となってしまう。

だからこそ、こう答えるしかなかった。


「えっと・・・考えてる・・・」


龍護の答えに呆れたのか目を細める【嫉妬の龍】。


────はぁ、ネスト。もうこの男に用は無いからあの【怠惰の龍】の娘を倒すのに専念しましょ。


「・・・うん。そうだね」


2人が龍護から離れていく。

だがそれだけで十分だった。

この短い時間が龍護にとっては重要な時間だったのだ。

ネストと【嫉妬の龍】はそれに気付かないまま元いた所に戻る。

そして再びモニターを眺め始めた。



◇◆◇◆◇◆



友姫も外側から再び【嫉妬の龍】の監獄に近付いている。

その時だった。


ブーブー!


ポケットに入っているスマホにメッセージが届く。

一旦離れて文章を見た。

その文章を見て、友姫は笑みを浮かべながら《リューゴの事、信じるからね》とだけ打って送信し、一旦地面に降り、物陰に隠れた。



◇◆◇◆◇◆



【嫉妬の龍】とネストも友姫が隠れるのをモニター越しに追っていた。


────何をする気かしら?


「分かんない・・・けど油断しないで」


するといきなり友姫が出てきてこちらに迫って来る。


────追い返すわ。


「お願い」


ブレード達を集中させ、友姫を切り刻もうとしている。

だが友姫はそれらを寸での所で躱し続け、画面から外れること無くこちらに近付いている。


────くっ!早い・・・!


「私も手伝う!!!!」


ネストもブレード化した触手達を操作して友姫を撃ち落とそうとしている。

その内の1本が友姫に迫り──────すり抜けた。


────!?まさか・・・!?


【嫉妬の龍】が龍護を睨む。

当の本人はしてやったような表情を浮かべていた。

モニターの友姫は龍護が表面上に写した幻覚魔法だったのだ。


────このっ!!!!


龍護の背後から触手の槍が現れ、龍護の肩を後ろから貫く。


「ぐっ・・・!!!!」


痛みに耐えかねて龍護が作ったスクリーン上の友姫の幻影は消えてしまった。


────どうやら痛い目を見ないと立場ってものが分からないようね?


そう言って龍護の首を触手で締め上げる。


「あ・・・・・・が・・・・・・!!!!」


少しずつ遠のいていく龍護の意識。

そして気絶する寸前だった。

要塞内の床の1部が破壊され、下から無効化能力を纏った友姫が現れる。


「ラジネス・・・先輩・・・」

「ネストちゃん・・・」


友姫が視線を移すと気を失った龍護がいた。

すぐに駆け寄って右足の1部に【怠惰の龍】の無効化能力を凝縮させて檻を蹴破った。


「そんな・・・!!!!」


友姫が見せたのは無効化能力の範囲を狭める応用。

部分的に無効化範囲を集中させる事で無効化能力の力を強めたのだ。


「リューゴ!」


友姫が駆け寄って龍護を抱き起こす。


「リューゴ!しっかり!」


ペチペチ!と龍護の頬を軽く叩いて起こそうとする。

すると漸く龍護が目を覚ました。


「成功・・・したんだな・・・」


そう、龍護が今までやっていたのは陽動。

友姫が下からの侵攻には対応出来ない事を突き止め、龍護が側面からの侵攻に見せていたのだ。

友姫はここにいて。と龍護を壁に寄り掛からせる。

そしてネストと向かい合った。


「ネストちゃん・・・1つだけ聴かせて。あなたはその”眼”に唆されたの?」

「・・・」


ネストは口を紡ぎ、半歩友姫から離れる。


「答えなさい!!!!」


遂に痺れを切らした友姫がネストに怒鳴りつけた。

一瞬ビクつくネストだったが友姫に睨み返す。


「私は・・・このまま龍護先輩を連れて故郷に帰ります」

「そんな事・・・許されると思ってるの?」

「思ってません・・・ですから・・・」


ネストの周りに5本の土の槍が現れる。


「あなたを倒して連れて行きます!!!!」


一斉に槍が友姫に襲い掛かる。

だが友姫は立ち止まったままだ。


「分かった・・・何を言っても聞かないみたいね・・・なら、私は────」


ブン!!!!とたった一撃で友姫は能力無効化の膜を纏わせた右足で土の槍を一掃する。


「あなたを・・・────赦さない」

「・・・っ」


友姫から溢れ出る怒りと殺気。


自分が認められたいが為に他者を巻き込む。


そんなネストに友姫は怒りを露にしていた。

遂に友姫は駆け出してネストに迫る。

だがネストと【嫉妬の龍】も黙ってはいない。

すぐに先端を鋭利にした触手を友姫に突き付ける。

だが友姫は右腕全体に無効化の膜を張って触手を砕いていく。

だが途端に友姫の進撃が止まる。

足に触手が絡まっていた。

【嫉妬の龍】が背後から襲わせたのだ。


────貴女も少し痛い目に遭わせてあげる。


すると友姫の周りから何本もの触手が現れて友姫の全身を鞭打つ。

スパァン!!!!スパァン!!!!と音が鳴り響く度に友姫の制服は破け、血が滲み、口からは悲痛な声が漏れる。

そして上から触手が伸びてきて友姫の首に巻き付き、締め上げていく。


「ぐっ・・・・・・!!!!」


少しづつ呼吸が出来なくなり、意識が遠のいていく。

そこへ触手が友姫の腹を目掛けて鞭打った。

それと同時に首の触手は緩み、友姫は咳き込んでしまう。

だが呼吸が安定仕切って無いのにすぐに触手は友姫の首を締め上げた。

少しづつ痛ぶって殺す気だ。


(どうにか・・・しないと・・・!)


頭では分かってる。

だが友姫の足には触手が絡み付いたままだ。

いくら足掻こうとも解ける事は無い。

必死に無効化能力を使おうとしているが首を締めたり緩めたりされている為、そちらには意識を集中させる事も出来なかった。


だが方法はあった────


回復した龍護が友姫の身体の1部に触れながら【強欲の龍】の能力【コピー】を使ったのだ。

途端に白い小さな繭にくるめられた友姫と龍護。

ネストと【嫉妬の龍】は警戒しながら外の様子も注意していた。



◇◆◇◆◇◆



「ゲホッ・・・!ゴホッ・・・!」

「友姫、大丈夫か?」


龍護はすぐに光属性の魔法を使い、友姫を回復させる。


「大・・・丈夫・・・」


龍護はふぅ・・・と一安心する。


「それで・・・どうする?」

「私は、ネストちゃんを止めたい」


だろうな・・・といいながら立ち上がる。


「1つだけ、方法があんだけどこれは呼吸を合わせないとキツいかもしれない」


どうやら龍護は友姫に判断を煽るようだ。

それに対して友姫は────


「あまり狡い事はしたくないけど・・・分かった。龍護のいう方法でやろう」


そして龍護はその方法を友姫に伝えた。



◇◆◇◆◇◆



突如繭の1部が割れて中から友姫が飛び出してきた。

【嫉妬の龍】はそれに対して触手を叩き付ける。

当然友姫は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

だが繭から出てきたのは友姫だけで龍護は中々出てこない。

よく見ると反対側に穴が空いてるのが見えた。

すると突然ネストの左側からスタンガンを持った龍護が現れてネストの身体にスタンガンを押し付けようとしていた。

それを【嫉妬の龍】が触手を使ってスタンガンを破壊し、龍護の胴体を触手で貫こうとする。

龍護も必死で躱し続ける。


────っく!ちょこまかと!!!!


既にスタンガンを持った龍護はネストの目前。

だが黙って見ているネストでは無い。

目を逸らして土の槍を作り、龍護目掛けて飛ばす。

その槍は────龍護をすり抜けた。


「なっ・・・!?」


スタンガンを持った龍護自体が幻覚だったのだ。

そして【嫉妬の龍】は飛ばされた友姫を見る。

その友姫も姿を変え、龍護となった。


────まさか・・・!!!!


本物の友姫の居場所に気付くも既に遅く、右手に雷属性を纏わせ、龍護の幻覚で繭の中に潜んでいた友姫がネストに迫る。

そして────右手をネストの身体に押し付けた。


「ガアアアアァァァァアアアアッッッ!?!?」


それと同時にネストの身体中を電流が駆け巡り、ネストは悲鳴を上げながら気を失い、友姫にもたれ掛かった。

友姫がうなじの紋章を見る。

紋章はあったがジワジワと消えていった。

所持者が気を失い、その機能が失われ始める。


────そんな・・・!!!!


「へっ・・・俺達の・・・勝ちだ・・・」


────この・・・・・・クソガキどもがあああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!!!!


【嫉妬の龍】が触手を暴れさせる。

だが友姫は能力無効化を右手に纏わせて【嫉妬の龍】の”眼”と壁を繋ぐ管を両断した。


────いぎゃあああぁぁぁぁぁあああ!?!?!?


【嫉妬の龍】は悲鳴を上げる。

恐らく壁と”眼”を繋ぐ管には感覚があったのだろう。

その断面から緑色の液体がボトボトと要塞の床に落ちて行く。


────私の・・・・・・コレ・・・・・・ク・・・・・・


【嫉妬の龍】の”眼”が閉じた。

その瞬間、友姫と龍護の勝利が決定した。


「終わった・・・のか・・・」

「うん・・・」


友姫が一旦ネストを床に横にする。


「殺ったのか・・・?」

「ううん・・・気絶する程度でやったから・・・」

「そっか・・・」


龍護と友姫は緊張の糸が解けたのか、その場で座り込んでしまう。


「まさか・・・ここまで大事になるとはな・・・」

「うん・・・」


相手に勝ったとはいえ友人に手を出したのだ。

友姫は根っからの真っ向勝負好き。

そして何十人もの無関係な人が亡くなった。

様々な罪悪感が友姫と龍護の心を締め付ける。

その時だった。

繭が揺れ始め、所々に罅が出来る。

核を失ったのだ。

繭型の要塞の外殻は崩れ始め、真下にあった池に次々と落ちて行く。

そしてその罅は内部にもすぐに伝わり、ネストが横になっている所を罅が囲む。


「ネストちゃん!!!!」


友姫は手を伸ばしたが既に遅く、ネストは池へと落ちていった。


「友姫!俺達も離れよう!掴まれ!」


友姫はすぐに龍護の腕を掴む。

そして龍護は闇属性の魔法で自分達の姿を消して浮上し、繭から脱出した。

すると龍護のスマホに着信が入る。

雪菜だ。


「雪菜さん?どこにいます?」

『【サンライフビル】というオフィスビルの前です!そちらはご無事ですか!?』

「こっちは問題無いっす。今からそっちに行きます」


龍護はそう言って電話を切り、雪菜の待つサンライフビルへと向かった。



◇◆◇◆◇◆



「ゲホッ・・・!!!!ゴホッ・・・!!!!」


池からネストが這い上がってきた。

だがすぐに何者かに襟を掴まれて地面に押し付けられる。

そこに深く帽子を被ったスーツの男性が歩いてきた。

その者に驚愕するネスト。


「なんで・・・あなたが・・・まさか・・・!!!!」


喜龍学園は中学の方では留学生は受け入れを行っていない。

だが自分が入れてそれに対して周りがなんの疑問を持たない事にネストはおかしいと思ったが現時点でその理由に気が付いた。


「まさか・・・あなたも龍の所持者だったの・・・!?」

「フッ・・・今更だな・・・幸福な一時はどうだったかね?」


ネストはその男性を睨み付け、反論した。


「あなたがいなければ最高でしたよ」

「それはそれは・・・1つ聞こう。君は今までに【怠惰の龍】の他になんの龍の所持者と遭遇した?」


ネストは教える気は無いのか、視線を逸らす。


「今教えれば君は必ず家族の元へ帰れるぞ?」

「・・・え?」


男性の口から放たれた唐突な誘い────だが────


「あなたみたいな・・・最低な屑に教えると思う?」

「あぁ、思わん・・・だから────」


男性は指示を出し、横にいた男性が懐から黒く光るものを握ってその先をネストの足に向け────引き金を引いた。


「────!!!!!!!!」


ネストは悲鳴を上げようにも押さえ付けていた男性が口を塞いでくぐもった声しか出せなくなる。


「紋章だけ頂いて────お別れだ」


銃を持った男性がネストの額に銃口を合わせる。

それと同時にネストの脳裏には龍護達と出会って今までの事が走馬灯として再生される。




初めて己の才能を認めてもらい────────




初めて人の暖かさに触れ────────




初めて友人が出来て────────




初めて自分を心配してくれて────────




初めて────────恋をした。


『先輩────』


ネストは初恋の人がいるであろう方向に手を伸ばす。


必死に助けを求めるかのように。


龍護と出会ってネストは変われた。

今思うともっと早く出会っていればどうなっていただろう・・・

その答えを知る術は既に無い。




だがそれでも・・・それでもいいからネストは帰りたかった




自分が何をしてきたか話したかった




家族と笑いたかった




自分が好きになった人を紹介したかった。




ネストの目に涙が溢れ、頬を伝う。


(先輩・・・さようなら・・・でも1つだけ言わせて・・・)


一方的な・・・そして届いてもそれは叶わないであろう言葉。


(先輩・・・貴方の事が────)


その瞬間、1つの小さな金属がネストの眉間を貫いた。

そして息絶えたネストに謎の男が手を翳す。


「【我が元に集え】」


紫色の紋章が淡く光り、少しづつ消えていく。

すると黒と赤に光る男の目に紫色の輝きが追加された。


「帰るぞ。それは棄てていけ」

「・・・はい」


男が近くにいたSPの女性に指示を送るが動こうとしない。


「・・・どうした?」

「あの・・・本当に宜しいのでしょうか?」


女性の問い掛けに男は何がだ?と質問で返す。


「彼女はあの名家の子ですよ・・・?それを棄てるなんて・・・!」


女性の言葉に男はハァ・・・と溜息を付き、腕を掴んで強引に引き寄せる。


「俺の目を見ろ」


突然の事にほぼ自然とその男の目を見る。

すると目から光が消え、無表情に変わってしまう。


「もう一度言う、棄てろ」

「かしこまりました」


女性は先程とは違い、なんの躊躇いもネストを池に投げ捨てた。

そしてその数時間後に一般人がネストの遺体を発見した。

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