第19話砕かれた心
ガチャと音が鳴ってドアの向こうからネストが出てきた。
空を眺めるも薄暗く、今にも雨が降りそうな感じがしている。
「うわ・・・傘持ってった方がいいかな?」
ネストは傘立てにあった黒い傘を持って学園へと歩いた。
◇◆◇◆◇◆
「雨降るかなぁ~・・・」
白が龍護の机に座って空を眺めていた。
すると後頭部に軽い衝撃が走る。
振り向くとそこには右手に教科書を持った龍護がいた。
恐らく先程の衝撃は教科書によるものだろう。
「人の机に乗って何してんだ」
「だからって無言で叩く事ないでしょ」
白はムッとしながらも素直に降りた。
「午後から降るかもな・・・」
「え~・・・ダッチーの力で雨雲吹き飛ばしてよ」
「・・・俺ってお前からどんな人に見られてんだ?」
龍護はジト目になりながらも席に座る。
白は友姫が一緒ではない事に気付いた。
龍護に理由を聞くと友姫は忘れ物を取りに行ったらしい。
アンタは戻らなかったの?と聞くが友姫自身が龍護に先に行っててと言ったようだ。
「ま・・・間に合った~!」
友姫が教室に入ってきた。
「何忘れてきたの?」
「お財布と教科書と筆記用具」
うん、殆ど全部だね。と白が突っ込む。
龍護が筆記用具なら貸したけど?というがどうやら友姫は自分のお気に入りの筆記用具じゃないとやる気が出ないらしい。
・・・やる気は。
教師が入ってきてホームルームが始まった。
◇◆◇◆◇◆
歴史の授業が始まり、内容は【7頭の龍の伝説】の細部。
7頭の龍は神が地上の人々に対して試練を与える為に創り出した生き物であり、それぞれの龍の能力は人間の【七つの大罪】をベースとした能力となっていると説明が始まった。
だがはっきり言ってしまうと7頭の龍は集まって侵攻をしていた訳では無く、世界各国で人々を襲っていたようだ。
だが伝説によれば7人の男女の勇者が世界各国に突如出現。
彼等は龍達を圧倒し、人々は勝利した。
その勇者達は当時の人から見たら奇妙な姿をしていたようだが今となると”召喚された”可能性が高いと専門家は述べているようだ。
理由としては・・・例を挙げると、当時使われていた剣の材料は青銅(銅と錫の合金)が一般的だが彼等の使っていたものは銃や鉄剣等の当時の武器よりはかなり強力な武器が多かったのが理由だ。
そして服装もだ。
原住民の使っていた麻等の服ではなく化学繊維(ポリエチレン等)のが使われ、その製法を教えていたとされる文献や資料が発見されたている事から専門家は召喚された者達と判断された。
だとすると転生者である龍護・・・雄輔以外にも転生者が存在し、その者達が龍を倒した事になる。
龍達を倒したことによってその者達は【英雄】と讃えられ、その勇者達が亡くなった所には石碑が建てられて今ではパワースポット、観光名所として有名となっている。
だが教師は【七天龍の遊戯】に関しては一言も話さなかった。
それもその筈。
歴史も浅く、物的証拠も知る人も殆ど存在しないのだ。
そしてもしもその証拠があっても隠蔽されるか、その能力を宿した者はひた隠しにし続けるだろう。
だとすればスヴェンの見付けたあの映像による記録はかなり貴重とも思える。
チャイムが鳴り、歴史の授業が終わった。
途端に生徒達は席から立ち上がる。
龍護は喉が乾いたので自販機に行こうとすると野武からカフェオレ頼むと言われたので仕方なく近くの校内にある自販機で微糖コーヒーとカフェオレも買ってきて野武に渡した。
2限目は数学。
友姫は物理より数学の方が出来るようだが勉強が苦手なのは相変わらずのようだ。
3限目は魔法法学。
簡単に言ってしまえばこの時間は魔法に関する法律を学ぶ時間で、どこで使用していいのか、また、禁止されている場所で使用したらどんな罰則があるのかを学べる時間である。
4限目は魔法学。
魔法法学と似ているがこちらは魔法そのものを学ぶ授業で基本は校庭で行われる実技授業だ。
因みに龍護にとってはこの時間は佐野先生が担当な為、微妙に嫌いな授業でもある。
◇◆◇◆◇◆
午前の授業が終わり、龍護達は食堂に向かった。
「あー!肩凝る~!」
「揉んであげよっか?」
「本当?お願い!」
友姫の肩を白が揉んでいる。
あふぅ~。と友姫も気持ち良さそうだ。
「龍護もやる?」
「いや、俺はいいや」
「ま、お願いされても私はやらないけどね」
「お前には頼まねぇから安心しろ」
あらそう?気が変わったから思いっきりやってあげましょうか?と白が黒い笑みを浮かべ、指の関節をボキボキと鳴らしながら近付いてくる。
暴力女は嫌われるぞ?と白に禁句を言った龍護は腹に1発痛いのを喰らっていた。
◇◆◇◆◇◆
午後の授業も滞りなく終わり、皆が帰り支度をしていた。
友姫は先生に呼ばれ、龍護に校門で待ってて欲しいと頼んだ後に先生に着いて行く。
白は白で自主練習のようだ。
雫に教室で待っててと頼んで校庭に向かう。
野武はというと予定があるようで急いで帰っていった。
「さてと・・・俺も待つか・・・」
龍護も帰り支度を終え、校門で待つ事にした。
◇◆◇◆◇◆
「うわ~・・・止んでて欲しかったな~・・・」
改めて校舎を出ると小雨だがポツポツと降っている。
龍護は個人的に雨が苦手だ。
というのも傘を持つのが面倒なのと以前、車が通った時に水を掛けられた事があるからだ。
仕方ねぇな・・・と龍護は鞄に入れていた折り畳み傘を持って広げ、校門で立っていた。
◇◆◇◆◇◆
ネストも空を見上げ、マジか・・・という表情をする。
持ってきた傘を広げて歩き出した。
すると目の前に龍護の姿が見えた。
途端に足の運びが早くなる。
そして
「龍護せ────」
「リューゴォ!」
横から友姫が傘を差さずに出てきて龍護に走っていった。
そして龍護の腕に抱き着く。
「くっつくなよ・・・」
「固い事言わないの!」
龍護は友姫の笑顔に苦笑で答え、友姫は龍護の腕に抱き着いたまま2人は帰っていく。
その様子をネストはずっと伺っていた。
そして知ってしまった。
龍護と友姫は付き合っているのだと
ピシッ・・・
ネストの傷付き過ぎた心に大きな亀裂が走る。
(・・・帰ろ)
ネストは自分の借りてるアパートに帰ることにした。
◇◆◇◆◇◆
雨は強くなり、ザー!という音を立てていた。
その中をネストが1人、重い足取りで傘をさして歩いていた。
だがネストの目に正気は無く、ハイライトが消えている。
ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・
ネストのポケットの中でスマホが鳴っている。
画面には父親の名前が表示されていた。
ネストはスマホを操作して通話を始める。
「・・・Alo・・・」
『私だ』
「Um pai・・・」
恐らくは成績の確認だろう。
『以前に言ってた件だが・・・忘れていい』
「え・・・?」
突然の言葉に希望を見出したのか、ネストの目に軽く輝きが戻り始める。
家に戻っていいのだろうか・・・?と期待が篭った。
『お前には黙っていたが養子を取ることになった』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
ピシッ・・・───
ネストの心はまるで次の言葉を知っているかのように再び罅が入る。
違う
そんな筈は無い
ネストの頭が否定しようにも父親からの無慈悲な言葉が再びスマホを介してネストの耳に入ってくる。
『とある者と契約を結んでな、Sランクで闇属性を持っている人を養子に貰える事になった。喜べ、お前は自由だ』
「・・・」
自由────確かに自由にはなれた。
だがネストの思っていた自由とは掛け離れた自由である。
勘当された。
頭が必死に否定する。
『まぁ、学費に関しては卒業まで面倒を見てやる。その後は好きにしろ』
「まっ・・・・・・」
ブチッ、ツーツーツー・・・────
スマホを持っていた右手に力が入らなくなり、ダランと垂れ、スマホが地面にカシャン!と音を鳴らして落ちた。
画面は罅割れ、雨が掛かる。
傘を持っていた左手も力を失い、傘は開いたまま、地面を転がる。
肩に掛けていた鞄も落ちて蓋が開き、中の教材が雨に晒される。
傘をさしていないネストを大量の雨が濡らしていく。
『お前には黙っていたが養子を取ることになった』
『とある者と契約を結んでな、Sランクで闇属性を持っている人を養子に貰える事になった。喜べ、お前は自由だ』
『まぁ、学費に関しては卒業まで面倒を見てやる。その後は好きにしろ』
脳が父親から告げられた先程の台詞を何度もネストに聞かせている。
そしてとうとう・・・
ネストは叫んだ
雨が落ちてくる天を仰ぎ、声にならない悲鳴を上げる。
それすらも雨はかき消していた。
だがそれでも────
ネストは叫んでいた。
言われた事を否定したいかのように涙を流しながら。
空からは今のネストの心を表わすように沢山の雨が降っている。
足に力が入らなくなり、ネストは雨が降る中、地面に両膝が付き、暫くの間動けなかった。
◇◆◇◆◇◆
パキッ!ガチャン!
「うわっ!?」
龍護の持っていたコーヒーカップの持ち手が折れ、カップも割れてコーヒーが机と本に掛かってしまう。
「やっべ!タオルタオル!!!!」
龍護はすぐに拭き取るが何ページにも渡って浸透してしまい文章が読むに読めない。
「どしたのー?」
友姫が龍護の部屋に入ってくる。
龍護が本の状態を見せると、あぁ~手遅れか・・・と苦笑気味に言った。
「これ買ったばかりなんだけどな・・・」
「ネットなら同じの売ってるかもよ?」
「・・・そうするか・・・」
「にしても買ったばかりのが割れるって不吉だねー」
「よせやい。縁起でもねぇ」
冗談冗談と笑い、友姫は風呂に向かった。
◇◆◇◆◇◆
ガチャ!とドアが開く。
外からずぶ濡れのネストが部屋に入ってきて玄関で靴を脱ぐ。
ポタポタと服から落ちた雨が床を濡らしていく。
持っていた鞄も手からすり抜けてドサリと床に落ちた。
本来なら気付いて乾燥させるネストだが気付けない程、心と身体は疲弊していた。
部屋の中心に着いてペタンと座ってしまう。
「・・・・・・」
ネストの心は完全に砕かれた。
それも物語るようにハハ・・・と軽い笑みが零れ、口の両端が若干上がってしまっていた。
絶望を感じ過ぎて感情が壊れ切ったのだ。
今まで必死に魔法を使ってきた。
家族に認められたい一心で。
だが龍護に出会って少しずつネストの心は変わっていった。
自分でも出来る事がある。
それに龍護は気付かせてくれたのだ。
だが先程、父親から告げられた勘当の通達。
ネストの心を壊すのには充分過ぎた。
そして自分で言ってしまった。
「私って・・・生きてる価値・・・あるのかな・・・?」
外はまだ雨が降っている。
その雨はネストの心を写しているようだった。
ネストはとうとう理解してしまったのだ。
自分は────
孤独になったのだと
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