第15話 訪問者

今日は日曜日。

という訳で息抜きに、と友姫と龍護は2人で出掛けていた。

とはいっても龍護は友姫の行きたい所に着いて行っている形だが・・・


「リューゴ!あのお店行ってみようよ!」

「わーったから落ち着けよ」


友姫は早足で嬉しそうにアパレル店に入る。

その後を龍護は歩いて追っていた。

中は華やかで入口の近くに女性ものの衣類。

奥に男性ものがあるようだ。

友姫が色々と回って服を選んでいる。

季節はこれから夏になる為、薄着が多い。

龍護が自分の服も見ておこうとした時だった。

友姫が龍護を呼んでいる。

その右腕には2着の服。

どうやら試着して感想を聞きたいようだ。

龍護が来た途端に、横にあった試着室に入る。

数分経って試着室のカーテンが開いた。

友姫が着たのは全体が白で胸元にピンクのリボンが着いたワンピース。

これで草原にいたら絵になりそうな程綺麗だ。


「どうかな?」


龍護は我に返って、いいんじゃないか?と素直に感想を言う。

だが友姫自身は納得してないようで、すぐに試着室のカーテンを閉めた。

そして再び別のを着てカーテンを開ける。

次に着てきたのは下はホットパンツ、上は白いTシャツとデニムジャケットといった少し露出が高い組み合わせ。

さすがにこれは龍護は目を逸らしてしまう。

というのも友姫はスタイルが良く、出るとこは出てるからだ。

その上露出が高い服を着てるからより一層その部分が強調されてしまう。


「リューゴ?どうしたの?」


キョトンとして龍護の様子を伺っている。


「いや・・・その・・・他の方がいいかな~?なんて・・・」


?と疑問符を浮かべる友姫。

だが何かを察してニヤニヤし出した。


「これにする」

「え!?」


そう言った途端に友姫は靴を履いてレジに向かう。

そのまま着るつもりだ。

龍護が止めようとしたが既に遅かった。

結局露出の高い服を買って着た友姫は着ていた服を袋に入れてもらい、龍護と外に出た。

完全にやられた・・・と龍護はため息を付く。


「あのワンピースの方がよかったんじゃ・・・」

「リューゴのリアクションが面白かったからいいの!」


勘弁して下さい・・・と言うも既に諦めていた。

ふと横にいる友姫を見る。

友姫は龍護より身長が低いから龍護からの位置だと色々と見えてしまうのだ。

友姫が龍護の視線に気付く。


「やっぱりこれにして正解!」

「お前な・・・」


龍護は友姫の服装を気にしつつも2人で歩き出した。



◇◆◇◆◇◆



少しして正午となる。

小腹が空いたのでどこかで昼食を摂ることにした。

近くにはファーストフード店やチェーン店が並んでいる。

龍護と友姫は学生の為、安いファーストフード店に入った。

先にカウンター席を取って友姫はお花摘みにと席を立つ。


「「ハァ・・・」」


横にいた人とため息が重なる。

その人を見るとどこかで見覚えのある顔だった。

というのも以前龍護とぶつかった女性だ。


「あの時の・・・」

「そういえば・・・」


2人揃って頭を下げる。


「その時は本当にすみません」

「あぁ、いえ。急いでいたのなら仕方ないですよ・・・そういえば以前もスーツでしたよね」

「まぁ・・・その・・・就職活動中でして・・・」

「もう内定は貰ったんですか?」

「その・・・今、10件目の面接が終わりまして全て他社にてのご活躍を期待されました・・・」


龍護が、あ・・・地雷踏んだ・・・と悟った。



◇◆◇◆◇◆



以前ぶつかった詫びとしてここは私が払いますと女性がお札を出す。

そこに友姫が帰って来てどうしたのか?と問いだす。

龍護はこの人は以前ぶつかった人だと説明するとそうなんだ~?と緩く納得していた。

カウンターはどうなのか?と言って女性はテーブル席に2人を案内して女性は注文をしに行く。

どうやら作るので待っててほしいらしく、番号札を持って戻ってきた。


「では改めて、私は八坂雪菜といいます」

「御親切にありがとうございます。俺は奪木龍護です」

「私は友姫・S・ラジネスだよ」


雪菜と名乗った女性は友姫に対して日本語が上手な事に驚いていた。

そして国籍が日本である事、ラジネスカンパニーの娘である事を話すと更に驚いていた。

そこに注文した品物がトレーに乗って店員が持ってくる。

3人揃って食べだした。


「そういえば八坂さんって何関係の就職をしようとしてるんですか?」

「言ってしまうと護衛、若しくは使用人関連ですね」

「それで今行き詰まってると・・・」

「・・・ハイ・・・」


龍護の言葉に八坂はズーン・・・と落ち込んでしまう。


「なら私のお父さんに相談してみます?」

「え!?」

「は!?」


友姫の急な発言に龍護と八坂は素っ頓狂な声を上げた。


「待て友姫!?いいのかよそんな重要な事勝手に決めて!?」

「そ、そうですよ!?私的には美味しい話ですけど!」


だが友姫が自分のスマホを開き、ラジネスカンパニーのホームページの求人ページを開く。

そこには本当に使用人の求人があり、体術が出来る人を探しているようだ。

どうします?と友姫が聞くと、八坂からは是非!と帰ってきた。

今日はここでお別れ、面接の件は友姫が父親に知らせておくとの事。

雑談もここまでとなり友姫が雪菜の携帯番号とメールアドレスが書かれた紙を貰ってそれぞれの帰路に着いた。



◇◆◇◆◇◆



「ただいま~!」

「ただいま帰りました」


おかえりの返事が無く、シーンとしている。

だが奥の部屋の襖が開いて友姫の母親の沙弥が出てくる。

お父さんは?と友姫が聞くとアメリカの方で会議があってさっき出ていったとの事。

完全に行き違った。

沙弥に面接をしてほしいと友姫が言って携帯番号とメールアドレスが書かれた紙を渡す。

沙弥は了承して早速、八坂雪菜へ面接の日程をメールで送信する。

雪菜も了解したようですぐに返信は帰ってきた。

当日は沙弥と日本支部の人事課の人、計2人が面接官として雪菜を面接する事になった。

スヴェンはそちらに関しては任せるとの事。



◇◆◇◆◇◆



当日。

八坂雪菜は1時間前からラジネス家の前に来ていた。

雪菜が着いた事をメールで報告すると数分後に玄関の門が開き、沙弥が現れる。

すると雪菜は驚いた表情をしていた。

そして同時に沙弥も驚いている。


「あら!?まさか雪菜!?」

「え!?先輩ですか!?スヴェン・S・ラジネス社長の妻って・・・えーっと・・・」

「・・・そういえば貴女って人の名前覚えるの苦手だったわね・・・東堂沙弥・・・まぁ今は沙弥・S・ラジネスだけどね」

「先輩・・・どうやってラジネスカンパニーの社長と知り合ったんですか・・・え?って事はあの友姫さんって・・・」

「私の娘・・・可愛いかったでしょ?」


どうやら八坂雪菜と沙弥は先輩と後輩の関係だったようだ。

意気投合している所に友姫と龍護がやって来る。


「あ、雪菜さんだ」

「あ!友姫さん!驚きましたよ・・・まさか先輩の娘さんだったなんて・・・」

「あれ?雪菜さん、沙弥さんと知り合いなんですか?」


龍護の質問に雪菜は中学と高校が同じで部活も同じだったことを説明する。

その説明に龍護と友姫も納得していた。


「あ~そしたらスヴェンに知り合いだった事言って形だけでも面接しておく?多分あの人ならOKしてくれるわよ?」

「え?今日って社長いないんですか?」


スヴェンが不在だった事に少しだけ残念な感じがしているようだ。

特に気にするべきでも無いなと龍護は思っていた。

理由としては自分の左手の甲に紋章が浮かばなかったからだ。

もしもここで浮かんでいたら龍護は警戒していただろう。

ここで話もなんだし、一旦中に入りましょう?と沙弥が提案して4人は中に入っていった。



◇◆◇◆◇◆



今、雪菜は面接を受けている。

だが面接という難い雰囲気は無く、雪菜、人事課、沙弥の3人は和気藹々と話していた。

恐らくこの状況で雑談をしていると言われたら納得してしまいそうな程だ。

そこに龍護がお茶を3人分持って来てそれぞれの前に置く。

一礼してその部屋を出ると、先に盆を台所に戻してから友姫のいる部屋に入る。


「雪菜さん。どうだった?」

「あれは採用されるだろうな。和気藹々と話してる」

「本当!?私この家には歳が近い同性がいなかったから話し相手になってくれるかな?」

「う~ん・・・どうだろう?向こうは仕事でこの家の使用人になるし、もしかしたら勉強教えてくれるかもな?・・・勉強も俺より厳しいかもしれねぇぞ?」


冗談混じりに言ったが、うえぇ~・・・とあからさまに嫌な顔をする友姫。

少しして向こうで襖の開く音がした。

様子を見てみると3人が談笑して廊下に出てきていた。


「雪菜さん。お疲れ様です・・・どうでした?」

「あ!龍護さんと友姫さん!お陰様で採用されましたよ!」


ギュッ!と可愛く両手を目の前で握り締める。

採用され、安堵しているようだ。

人事課の人に初出勤の日は追って連絡すると言われた後、雪菜は社長とはいつ面識出来るのかを聞くも会議次第だから分からないとの解答だった。

そうですか・・・と残念な表情を浮かべる雪菜だったが帰ってきましたら挨拶をしに参りますと言って帰っていった。



◇◆◇◆◇◆



夜になり沙弥はファッション雑誌を、友姫はゲームを、龍護は本を読んで団欒していた。

ふと龍護はある事が頭に浮かんで居間にいた沙弥の元に訪れる。

龍護が気になっていたのは雪菜とどうやって出会ったのか。

個人的な疑問だ。

龍護に気付いた沙弥は向かいに座らせてその詳しい経緯を話した。

どうやら中学の頃の茶道部で一緒になり、そこで意気投合して仲良くなったようだ。


「因みにその中学ってどこなんです?」

「確か・・・伊勢中だったけど・・・」


伊勢中とは隣町の中学でサッカー部と卓球部が全国大会に行ける程の実力を持つ中学で、沙弥はその中学の茶道部にいた。

高校は公立の伊勢高校らしい。

電話が掛かってきて沙弥が今日はここまでねと立ち上がって電話の所へ行ってしまった。

龍護自身も聞くことは無いな・・・と思ったのか借りている自室に帰った。



◇◆◇◆◇◆



自室に戻った龍護はスマホで小説を読み始める。

だが更新が無かったようですぐにスリープ状態にした。

その時だった。

突然部屋がグラグラと揺れ始める。

地震だ。

震度は3辺り。

すると龍護の頭に衝撃が走る。

この部屋に来た際、棚の上にそのままにしていた本が落ちてきて龍護の頭に直撃したのだ。


「~~~~っ・・・」


かなりの痛みに悶絶する。

地震はとっくに収まっていた。


「何が落ちてきたんだよ・・・」


ふと視線を前にずらすとそれは伊勢高校の卒業アルバムだった。

気になってしまった龍護は沙弥に内緒でそのアルバムを開く。

3-2に沙弥はいたようだ。

部活も見てみようと考え、ページを捲っていった。



◇◆◇◆◇◆



「・・・いない・・・?」


龍護の中に違和感が生まれる。

いくら読み返しても八坂雪菜の名前は勿論、その姿も写真に収められていなかった。

だがその時、龍護のスマホに着信が入る。

スヴェンだ。


「はい」

『あ!龍護君!ちょっといい情報を手に入れてね!』

「?情報?」

『そう・・・七天龍の能力一覧さ』

「っ!!!!」


七天龍の能力一覧と聞いて雪菜の事は既に頭から離れていき、目の色が変わる。

どうやらスヴェンはメールにてその能力を自宅にあるスヴェンのパソコンに送るとのこと。

龍護は了承していつ頃送れるかを聞くとまだ話し合いが長引いてて分からないとの事。

分かりましたと返して電話を切った。

そしてよしっ!と心の中でガッツポーズをする。

漸く対策が出来るのだ。

これ以上に嬉しいことは無いだろう。

龍護は機嫌を良くして明日に備え、寝ることにした。

雪菜が沙弥の卒業アルバムにいなかった事すらも忘れて────



◇◆◇◆◇◆



翌日。

クラスの男子達はソワソワとしていた。

それもそのはず。

高校3年生のとある授業が待ちきれないのだ。

その名も【合同授業】。

別名【出会いの授業】。

喜龍学園は魔法等のエリートを集めた学園だ。

だがそれでも得意、不得意が現れてしまう。

そこで考えられたのが高校1年生と高校3年生の合同授業だ。

理由としてはこの合同授業はまだ魔法を制御し切れていない高校1学生に高校3年生が教育実習も兼ねて行う為だ。

1年生は魔法の制御の勉強が出来て、そして3年生は教え、方法を学びながら自分自身も復習できる。

そして何よりこの授業は男女合同となっている。

つまりは非モテの男子達はこの機を狙って彼女を作ろうとしているのだ。

・・・可能性はほぼZEROに等しいが・・・

それでも!と男子達は自棄になっていた。

当然野武もその1人だ。

因みに龍護が1年の時は尾野真波という高3の女子と組んでいたが龍護は魔法の才能を存分に発揮して真波は教える事が無く、ほぼ見ているだけとなっていた・・・

・・・その時に魔法科の佐野裕樹に完全に目をつけられたのはまた別のお話。



◇◆◇◆◇◆



授業当日。

総勢500人程が魔法練習場に集まっていた。

教師が壇上に上がってマイクを取る。


『えー今年も合同授業が始まります。1年生の皆さんは3年生の言う事をしっかり聞いて魔法を学んで下さい。3年生の皆さんは今までの学んだ事をよく思い出して1年生の皆さんを手伝ってあげて下さい』


長い話を終えてクラス分けが始まった。

龍護達は3年A組の為、担当する1年の組は1年A組という分け方だ。

そして男女の組み合わせもクジで同じ数字同士の者になる。

ここで同性同士にもなるし、異性同士にもなる訳だ。

龍護の元にクジが回ってきて1枚引いた。

その場で開くと数字は21となっていた。

3年生の人達がクジを引き終わる。

次に1年生達がクジを引く番だ。

全員がクジを引き終わってそれぞれ数字同士の者を探す。

今回は3分の1が異性同士と組んだようだ。

残りの3分の2になった男子達はorzの姿勢となっていた。

そして龍護の元にも同じ数字の中学生がやってくる。

女子だ。

だが龍護はその者に見覚えがあった。

新学期にぶつかった女子だ。


(あの子か・・・)


女子高生が近付いてくる。


「えっと・・・ネスト・ジェーラスです・・・その・・・お願いします・・・」

「おう、俺は奪木龍護だ・・・ってお前も留学生だったのか・・・ん?」


だがその時だった。

龍護がふとの左手の甲を見ると白い龍の紋章が現れる。


つまり龍護と組んだ女子中学生、ネスト・ジェーラスは龍の所持者ということになる。

龍護の様子を見て、ジェーラスは頭に疑問符を浮かべる。


その様子を校外から伺う男が1人。


「ターゲットが1人の男子高校生と接触しました・・・なのですが・・・」

『────?』

「いえ、その男子生徒が驚いた様子をしているのですが・・・」

『────、────』

「了解です」


男は通信を切って再び龍護とネスト・ジェーラスを観察する。

もちろん観察されるのを知らない龍護とジェーラスは魔法の授業に取り組んでいた。



◇◆◇◆◇◆



「んじゃ始めっけど出来る属性は何?」

「えっと・・・無と闇と・・・土です」


さっきからジェーラスは龍護と視線を合わせようとしていない。

それに関しては、何か理由があるのだろう。と龍護は追求しなかった。

早速闇属性の魔法の練習が始まった。

ここで誰もが疑問に思う事があると思う。


なぜ、属性が同じ同士で組まないのか────


これには理由がある。

それはお互いに無い属性を持つ生徒がどうすればいいかを無い者同士で考える事で他の属性の理解を深める事もこの授業にはあった。

恐らくこの先、属性が違う者達が集う機会も増えるだろう。

その為の予行練習でもあるのだ。

自分に無い属性同士が自分達の頭だけで解決へと向かい、価値観の違いを受け入れながら共に解決の道へと歩いていく。

これこそがこの合同授業の肝なのである。

・・・まぁ、大半が邪な理由で参加してるのが多いが・・・

というわけで今年も喜龍学園では合同授業が開催された。

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