第14話 故人の報せ
ルシス・イーラの葬式は母国で行われることとなった。
彼女である恵美は一人暮らしだったルシス・イーラの部屋で泣き続けていた。
龍護は友人として葬式に出ようとしたが親族から遠慮され、せめて亡骸だけでもと頼み込むと渋っていたが受け入れてくれた。
既に遺体は日本の検死院に保管されているとの事。
特別に許可を貰い、ルシスの遺体を伺う事が出来た。
保管されている場所に案内される。
遺体を見た龍護は言葉を失った。
顔の皮膚は焼けただれ、真っ黒に染まっている。
瞼は焼けてくっつき、そして腕や足は有り得ない方向に曲がっている。
だが親族や検死院の人に聞いてもこれは良く分からない、の一点張りだ。
少し疑問を持ちながらも再びルシスの亡骸に視線を移す。
見ただけで吐き気が催してしまう。
そして龍護は亡くなったルシスに対して不謹慎だと思いつつも、合掌した後にルシスの頬へ右手を翳す。
────────────
────────
────
浮かばない。
龍護の紋章もルシスの紋章も浮かび上がらないのだ。
龍の所持者同士が近くにいればお互いの紋章は浮かび上がる。
それが無いということは────
紋章を奪われた。
という事になる。
そして同時に龍護の中に疑問が浮かび上がった。
なぜ、殺した人物はルシスが七天龍の遊戯の参加者だという事を知っていたのか。
なぜ龍の所持者であるルシスの居場所を分かっていたのか。
なぜ、行方不明にせずに焼死体として周りに見付けさせたのか。
もしも行方不明にすれば探すのにも手間が掛かり、最悪は捜査打ち切りとなる。
自分の正体がバレたくないのであれば殺した後でどこかに埋めれば見つかる時間も遅くなり、その上その時自分が返り血等の対策をしてそれらを焼却処分する等の証拠隠滅を図っていれば犯人である証拠を減らす事が出来る可能性は十分に高い。
それをしなかったという事はする必要が無かったという事になる。
なら相手は何者なのか。
そしてルシスを所持者と知っているのなら自分達が参加者である事も知られている可能性も増えてくる。
だが再びここで先程の疑問が出来てしまう。
なぜ、その者達が龍の所持者である事を知っているのか。
この疑問に辿り着く。
そして次に考えるのは方法だ。
①どこからか盗聴されていたか?
若しくは、
②内通者がいる。
可能性としては後者が濃厚だ。
龍護の予測ではこうだ。
1.とある方法から龍護や友姫が龍の所持者である事を突き止める。
2.ルシスを殺した者に”内通した事を隠蔽する”という条件付きで報告。
3.そしてその者はルシス殺害し、遺体を燃やした後で内通者は姿を晦ました。
今の所考えられるのはこれだけだ。
龍護は遺族に挨拶をしてその場を去った。
◇◆◇◆◇◆
友姫の家に帰ってきた。
すぐに友姫が駆け寄ってきて紋章の事を聞いてくる。
龍護は首を横に振る。
それだけで説明は十分だった。
「龍護君」
部屋からスヴェンが顔を出し、龍護を招く。
「やはり奪われていたか・・・」
龍護は黙って頷く。
スヴェンが君の姉はどうしている?と聞く。
姉はルシスの借りている部屋で泣いている。とだけ言った。
姉の事は当分あのままにしておいてほしいと龍護が頼むとスヴェンは了承した。
◇◆◇◆◇◆
翌日。
龍護と友姫は登校していた。
自分の机に着いた途端にスマホの電源を付け、ネットニュースを見る。
《龍天町近くで外国人の焼死体が発見される》
《楠野魅子と婚約していた俳優の浅井幸樹に不倫が発覚!楠野魅子は婚約解消を決意》
《ロシアの動物園で檻が破壊され、中の動物が負傷。証拠品は無く、犯人は行方不明で現在も捜索中》
《総理大臣の小野崎熳作が新議案を決議》
2番目のニュースは野武が騒ぐな・・・と予想出来ていた。
個人的にも1番目以外のニュースは興味が無く、龍護はスマホを閉じた。
数十分経って野武が涙を浮かべながら入ってきた。
うわ・・・と若干引き気味の龍護を無視して近付いてくる。
「りゅうごおおおぉぉぉおおお・・・ぎいでぐれよおおおぉぉぉぉおおお・・・!」
「・・・浅井って奴が不倫したんだろ?」
「そうなんだよおおぉぉぉぉおおお・・・」
お前が泣くことか?と疑問に思い、龍護は再びスマホを開いて浅井幸樹の経歴を調べる。
だが驚いた事に浅井幸樹という男性は不倫をしそうな経歴ではなかった。
逆に私立の有名な高校や大学を出ていてルックスも申し分ない。
そしてサッカー部に所属していたようで、高校、大学共にレギュラー、どちらも部長を務めている程だ。
そんな好青年がなぜ不倫を?と疑問に思う。
だが本人が実際にやったのだからその事実は覆る事は無い。
その後、龍護は泣いている野武を慰めるのだった。
◇◆◇◆◇◆
今日の授業を終えて皆が帰り出す。
龍護も帰り支度をしている時だった。
何か硬いものが指先に当たる。
何だ?と疑問に思って鞄の中を覗き込んだ。
その鞄の底にあったのは全体が透明で中の基盤が丸見えのUSBメモリ。
ルシスから借りたのを思い出す。
そういえば・・・とルシスとの会話を思い出していた。
ルシスは図書館で卒業論文として【七天龍の伝説】を調べると言っていた。
そしてUSBにはその卒業論文で使う資料のサイトのURLを載せてあると言っていた。
もしかしたらそこにスヴェンも知らない情報が乗ってるかもしれないと感じた龍護は急いで図書室に走る。
途中で友姫が何事か聞くも、先に帰ってろ!と一言だけ残した。
◇◆◇◆◇◆
図書館に入るとパソコンエリア(書籍が図書室に無い場合、そのパソコンで調べれば閲覧が出来るエリア)が4台全てが空いていた。
龍護は1番奥のパソコンの席に座ってパソコンを起動する。
数分経って漸く起動し、龍護は自分のアカウントでは無く共有アカウントでログインする。
こちらの方がパスワードを入れる手間が省けるのだ。
漸く最初の画面となり、件のUSBをUSBポートに差し込んだ。
パソコンで読み込みが行われて操作メニューが表示される。
龍護はその中の【ファイルを開く】をクリックする。
中には沢山のフォルダがあった。
その中に【奪木龍護】と名前のあるフォルダがある。
恐らく龍護に開いてもらう為にこのフォルダをつくったのだろう。
そのフォルダを開くと1つのWordファイルがあった。
再びそれを開く。
Wordにはhttp:gform.topというホームページのURLが書かれているのみ。
それをコピーしてインターネットに接続し、検索のボックスにペーストする。
Enterを押してそのホームページを開いた。
そのホームページは様々な研究結果が集まってるサイトだった。
人の心理に関しての研究結果や金属に関しての研究結果、中には宇宙に関しての研究結果等、様々な研究結果が載っている。
龍護は再び検索ボックスにカーソルを進め、《七天龍》と打ち込んで表示させる。
だが検索結果はゼロに終わった。
ならば・・・と考え、《7頭の龍》と打ち込んで再び検索する。
すると7頭の龍に関する情報、研究結果が3件存在していた。
閲覧数というものも存在し、人気の研究結果では閲覧数が1億件を超えるものもある。
7頭の龍の遊戯の閲覧数は3件の研究結果を合わせても45件。
他の研究結果と比べると圧倒的に少ない。
今はどうでもいいか・・・と、その1つのページを開く。
そこには龍の力を所持していた者達の名前が書かれていた。
龍護はその名前を頭の中で読み上げ、持参した紙のメモ帳に書いていく。
所々に偉人や政治家も含まれていた。
だがその人達は理由は分からないが遊戯が始まった5ヶ月後に全員、遊戯を終えている。
つまり、全員がペナルティになった事例が無いという事だ。
ますます疑問が浮かび上がる。
龍護と友姫のように結託していたのか────
それとも
(相手の弱みを握り、利用した・・・か・・・)
有権者であれば可能だろう。
そしてそれが本当なのであれば権力を使ってワンサイドゲーム仕放題だ。
龍護はページを戻り、2つ目の研究名に釘付けとなる。
【龍の能力について】
これが分かれば対策は簡単だ。
リンク切れになってない事を祈ってページを開く。
「は!?」
声が漏れてしまった。
図書室で本を読んでいた生徒からの視線が突き刺さる。
慌てて口を隠し、画面を見た・・・が、理解出来ない。
英語等であれば少しは解読できる。
だが今回に限ってそれすらも叶わないのだ。
理由は単純
文字化けとなっている。
いや、全体的ではない。
部分的になっているのだ。
7頭の龍の名前は読める。
だが肝心な能力についての一切が文字化けして読めないのだ。
(くそっ・・・エラーでも起こしたか・・・!?)
何度も戻って開いてを繰り返したが文字は戻らない。
折角対策が施せると安堵したかったのだが不能と終わった。
試しに余った3つ目のページを開くとリンク切れとなっていた。
やらかした・・・と思い最初にアクセス出来たページを開いたが先程は開いたのにこちらもリンク切れ。
時計を見ると17:00。
スヴェンやスヴェンの奥さんが心配する頃だな・・・と考え、パソコンをシャットダウンする。
一応、名前の書いた紙は鞄に入れてパソコン室を出た。
「あっ!リューゴ」
廊下では友姫が待っていた。
帰ってなかったのだ。
「もーどうしたの?急に走り出して・・・」
「あ・・・いや・・・すまん・・・」
「帰ろ?」
友姫に頷いて2人揃って友姫の家へと帰った。
◇◆◇◆◇◆
「ただいまー!」
「ただいま帰りました」
友姫は靴を脱ぎ捨て、龍護はその靴を含め、自分の靴も揃えて家へと上がる。
2人が居間を通り掛かった時だった。
「う~ん・・・」
スヴェンがパソコンと睨めっこしたまま腕を組んで唸っている。
「スヴェンさん?」
「ん?おぉ、2人とも帰ってきてたのか・・・」
「どうしました?」
「いやね?以前は見られた資料が見られなくなってて・・・」
龍護がパソコンを覗き込んだ。
その画面は龍護が学園のパソコンで見た資料のサイトだった。
「・・・これ・・・俺も見ました・・・」
「どうだった?」
「ダメでしたね・・・文字が化けます」
「う~ん・・・以前は見られたんだけどな・・・」
リンク切れの可能性を尋ねてみるが、それは無いな。と一脚された。
仕方ない・・・とスヴェンはパソコンを閉じて自室に戻った。
◇◆◇◆◇◆
夕食を終えて龍護はラジネス家で借りている自室の布団で寝転び、今は亡きルシス・イーラの最後のメールを思い出していた。
《ぼくはもうながくない。かならずかちのこってくれ。
りゅうのしょじしゃにはs》
(・・・今思うとルシスって何を伝えようとしてたんだろうな・・・)
龍の所持者には────の後に続く文章が分からない。
(s・・・す・・・スヴェン・・・ってそりゃ友姫の親父さんだっての)
自分にツッコンで何してんだか・・・と考えを一掃する。
だがいつまで経っても続く文章が分からない。
「あー!ったく!行き詰まるとかめんどくせぇ!!!!!!!!」
頭をバリバリと両手で掻いた後に勢いよく起き上がり、風呂に入ってリフレッシュしようと早足で風呂場に向かう。
半透明のガラスが張られた引き戸をガラガラ!と勢い良く横へ開ける。
そして目の前に映ったのは風呂から上がって身体を拭いている最中の友姫。
「え・・・!?」
「あ゙・・・」
友姫の顔と身体はこちらを向いている。
つまり・・・友姫のあられもない姿が龍護の目に収まる。
「み・・・見るなあああぁぁぁあああ!!!!!!!!」
「イダダダダダダダ!?!?!?目がぁ!!!!目が抉れるからあああぁぁぁあああ!?!?」
咄嗟に友姫は右手の人差し指と中指で龍護の目を突いていた・・・
◇◆◇◆◇◆
友姫が着替え終わり、更衣室から出てくる。
「リューゴのエッチ・・・」
「いや・・・しゃーねぇだろ・・・【憤怒の龍】の所持者のルシスが送ってきたメールで頭が一杯だったんだよ・・・」
「・・・メール?」
「あぁ、これ」
龍護はポケットの中のスマホを出して友姫にメールを見せる。
「《ぼくはもうながくない。かならずかちのこってくれ。りゅうのしょじしゃにはs》・・・ダイイングメッセージ?」
「そうなの・・・かな?んでこの”s”の後に続く文章が分かんなくてな・・・」
再び考え出す横でキョトンとした顔で龍護を見る友姫。
その視線に龍護も気付いた。
「何だよ?」
「いや・・・簡単過ぎて・・・」
「は!?分かったの!?」
「多分・・・”支配人”じゃないの?」
「支配人・・・?」
友姫が言うにはホテル等の支配人を指すのでは?との事。
そしてもしもルシスがどこかのホテルで使用人をしていたのならばその上司に当たる支配人が龍の所持者である可能性は高いんじゃ?と友姫が推測した。
つまりルシスはその上司に殺されたのでは?という。
だが龍護は引っ掛かる。
もしそれで支配人が龍の所持者だったとしてルシスを焼き殺すか?と疑問に思った。
その上、遺体の全身の骨は砕けている。
ホテルに全身骨折出来る機械なんてある訳が無い。
さすがにそれはないだろう・・・と振り出しに戻った。
その後龍護は、俺、風呂入るわ・・・と考え込んでいる友姫の横を通って引き戸を開け、服を脱いでから風呂を浴びた。
「あ~・・・落ち着く・・・」
風呂に入ってリフレッシュ。
漸く落ち着いた時間を持てた。
そろそろ身体でも洗うか・・・と湯船から上がって身体を洗い始めた。
◇◆◇◆◇◆
「例のサイトのページは閲覧出来ないようにしたんだろうな?」
かなり豪勢な部屋で男が、黒スーツを着た女性からの報告を待つ。
「夕方には終えました。ですがリンク切れその前にする前に何者かに閲覧された履歴は1件のみ、残っております」
「名前は?」
「申し訳ありません・・・個人の特定は出来ませんでしたが学校名は履歴に残っておりまして【国立喜龍学園】の生徒のようです」
「・・・」
ふむ・・・と、考え始める。
恐らくは【怠惰の龍】の所持者である、友姫・S・ラジネス辺りだろう・・・と結論付けて近くにあった紙を小さく折り畳み、自分の鞄にしまう。
「あの・・・」
「?なんだ?」
「先程の紙は・・・一体?」
男の顔が眉を顰め、近付いてくる。
その様子を見て男の横にいた女性は身震いをしてしまう。
何か失言でもしてしまったか────
証拠隠滅として抹消されるのか────
そんな考えが女性の頭を過ぎる。
そしてその横を男は通り過ぎた。
「君が知る必要はない」
「・・・申し訳ありません」
首の皮1枚繋がったか?と安堵しつつも女性は頭を下げる。
「・・・紙の事は2度と聞くな」
「承りました」
今後女性は紙の事は聞くのは御法度だと心に強く刻み込む。
「【嫉妬の龍】はあの学園に入れたんだろうな?」
「はい。既に」
「宜しい。それと近い内にサニーの社長と密会を行う」
「サニーとですか?一体何を・・・?」
サニーという会社は電化製品や今話題のゲーム機を中心に製造をしている会社で日本を支える柱の1つとなっている。
女性にとってその会社とこの男が密会を行うという事に疑問を持つ。
だが男は動じることも無く女性にその計画を行わせた。
女性は失礼しますと言ってその部屋を後にする。
「安心しろ・・・半年後にはこの世界の全てが私のものになり、世界を意のままに動かせるのだからな・・・」
それだけを言い残して男は暗くなった空を軽く眺めてから部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。