第13話 遭遇

友姫の家に着き、龍護は家事の手伝いの準備をしようとしたところだった。

友姫がそれを止めたのだ。


「使用人がいるからリューゴは私の勉強見てよ」

「そうだな」


龍護は友姫とともに部屋に向かおうとしたが先に自分の荷物を置きに、自分が借りている部屋に向かった。

だが先程の尾行者の事が頭から離れない。

杞憂ならいいんだけど・・・と自分に無理矢理納得させて友姫の部屋に向かう。


「おーい友姫ー。始め・・・っておい・・・」


友姫は布団で気持ち良さそうに寝ていた。

教えてと言ってたくせに寝るとは何事かと心の中で愚痴りながら友姫の横に座り、起きるのを待った。



◇◆◇◆◇◆



18:00に友姫が漸く起きると目の前で笑顔だが額に青筋を浮かべる龍護がいた。

友姫は素直に、勉強します・・・と観念して教材を取り出す。


「ここはこの公式を代入して」

「ここ?」

「いや、その前」

「あ、ここか」


龍護は教える事に関しては微妙な説明だと自覚している。

だがそれは経験によるもの。

ならば場数で乗り越えようと自分に言い聞かせ、友姫の勉強を見ていた。


「2人とも、お疲れ様。夕食の準備が出来てるから一区切りして居間に来てね」

「はい、分かりました」

「リューゴ・・・お腹すいた~」

「このページ終わったらな」


うえ~・・・と嫌な顔をする。

面倒な所を先に終らせてスッキリした状態で夕食にするか、後回しにして夕食の後にまた勉強するかどっちか選んでいいぞ?と友姫に聞いた途端に、終わらせます・・・と半ば素直に友姫は応じていた。


漸く終えて居間に向かう。

ラジネス家の食卓は和食が大半を占める。

スヴェンが和食が好きで使用人に頼んでいるのだ。

今日の献立は焼いた秋刀魚と味噌汁、お新香、白米。

皆が揃って食べ始めた。


「龍護君、友姫の勉強はどうだい?」

「・・・はっきり言うと、微妙ですね・・・」


私だって頑張ってるのに・・・と龍護の言葉に口を尖らせる友姫。

ならまた後で頑張ろうな?と龍護が言うと勘弁してぇ~・・・と泣き目になっていた。



◇◆◇◆◇◆



食事を終えてそれぞれの部屋に戻っていく。

龍護は自室に戻ろうとしていたスヴェンを止め、帰り際にあった事を話すと詳しく聞こうという事になり、スヴェンは自室に龍護を招き入れた。

そしてお互いにキャスター付きの椅子に座る。

床は畳の上にカーペットを敷いている為傷付くことは無い。


「それで・・・先程の尾行者の件だが・・・」

「はい。でもこれは自分の勘なんですけど尾行者は俺ではなく友姫を追っていたように思えます」

「根拠はあるのかな?」

「なんというか・・・視線が時折こちらに向いてたんですが殆どが友姫に集中している感じはありました」


成程・・・とスヴェンは腕を組み、考え込む。


「龍護君。ちょっといいかな?」

「何でしょう?」

「少し後ろを向いてもらいたい」

「?まぁ・・・いいですよ?」


龍護はスヴェンの頼みに戸惑いながらも後ろを向いた。

するとプチッ!と何かを抜かれると同時に頭に一瞬痛みが走る。


「いっつ~・・・何なんすか・・・?」

「ちょっとね」


スヴェンの右手には龍護の短い髪の毛が1本だけ親指と人差し指で挟まれている。

それにスヴェンが自身の魔力を込めると髪の毛は蠢いて灰となって消えた。

だがその後にスヴェンの手の平に白い龍の紋章が浮かび上がる。

これには龍護も驚いていた。

ふと自分の左手の甲を見ると浮かんでいない。

恐らく本物の龍の所持者同士でなければ浮かばないのだろう。

少し興味深いデータを見付けたらしくそれを龍護に見せた。


どうやら男性の研究員の人が隔離施設で撮影をしているようで画面全体はほぼ真白く、恐らく撮影機も固定されている。

奥にもう1人、男性の研究員がいる。

男性の研究員が髪の毛を撮影機に近付けている為、髪の毛がどアップで見えている。

その髪の毛を男性に渡し、魔力を込めさせた。

すると男性が持っていた髪の毛は先程のスヴェンが持った髪の毛のように灰となって消え、代わりにその右掌に黄色い紋章が浮かび上がる。


「スヴェンさん・・・これは?」

「恐らくだが龍の力は一時的に譲渡出来るようなんだよ。これはその1つのようだ」

「その1つ?って事は他にも方法はあるって事ですか?」

「恐らくね。それと続きがあってね」


2人は再び画面を眺める。

髪の毛を渡した男性が一辺1cmの立方体の形をした鉄を男性に渡す。

すると鉄を渡された男性は躊躇しながらもその鉄を口に放り込んだ。


「は!?」


龍護の口から素っ頓狂な声が出る。

男性は驚きつつも掌を見せながら口に含んだ鉄を咀嚼しているようだ。

そしてその間、掌の紋章は黄色く鼓動を打つように光り出す。

そして飲み込んでも紋章は浮かび上がったままだ。


「黄色い紋章・・・【暴食の龍】の能力だと私は思っている・・・そしてその特性は」

「全てを喰らうことが出来る・・・的な?」

「半分正解だと思う。私は”有機物や無機物を関係無く無尽蔵に食べる事が出来、そして毒であればそれを無効に出来る”という能力だと思うんだ。そして同時にこれを見たら理解してくれると思ったんだけど一般人に龍の所持者の髪等を与えると一時的に能力を譲渡出来るようなんだ」

「・・・だから髪の毛を抜いたんですか」


そう、と短く返事をした。

そして力の受け渡しに関しては調べた所、3つ存在するらしいが1つは探している途中のようだ。

そして見つかっている2つは────


奪取

・相手を倒し、特定の呪文を唱え、相手から紋章を奪う。

※七天龍の遊戯で紋章を集める為に必要。能力と紋章を奪い、永続的に使えるが効果は少々落ちる。


付与

・相手の身体の一部(髪の毛等)を貰い、に自身の魔力を込める。

(こちらは一時的だが能力の低下はない)


となっている。


奪取に関しては龍護の推定通りだった。

だが例外として【強欲の龍】自らのコピー能力で相手の能力をコピー出来、【暴食の龍】は捕食した相手が龍の所持者だった場合、その龍の力を使う事が出来る。

付与は一時的で奪取程ではないが効果も落ちてしまうらしい。

そして今、スヴェンの掌には白い龍の紋章、【強欲の龍】の紋章がある。

つまり今のスヴェンも一時的だが【強欲の龍】の力を使えるのだ。

龍護に友姫を連れてきてくれと頼み、龍護は友姫を呼びに行く。


「どうしたの?」

「友姫、ちょっとお父さんと外に出てくれるかい?」

「え?う・・・うん」


友姫は戸惑いながらもサンダルを履いて外に出る。


「・・・そういえば友姫は何の龍の所持者なんだ?」


龍護の疑問に友姫は【怠惰の龍】と答える。

そしてその能力は────


相手の能力を無効化する。

但し無効化出来るのは自分を中心に相手が半径5m圏内のみ。

※身体の一部分を部分的に無効化も可能


らしい。

つまり友姫と対峙する他の龍の所持者は体術か武器を使って勝負しなければいけないらしい。

だとすると友姫は敵無しと思われる。

なぜなら友姫は5属性持ちで魔法適性はSランクだからだ。

その上体術にも優れている。

スヴェンは友姫に先程あったことを説明し、実際にスヴェンに龍護の【強欲の龍】の力が持てているか、を検証するらしい。

スヴェンが意識を集中させるとスヴェンの身体が輝き出し、大きくなっていく。

光が止むとそこには全てが真っ白で翼が左右で4枚ある、全長5m程の巨大な龍がいた。

そして目が開くとその瞳は紅く輝いている。

そこで龍護は気付いた。



龍護の見た夢の黒い龍とは真反対の色の龍である事を──────



「スヴェンさん!どうですか?」


龍護の問に龍化したスヴェンはコクンと頷く。

どうやら問題無いようだ。

近所に迷惑が掛かるだろうと心配していたが今は夜。

気付く者はほぼいないだろう。

友姫に龍護が【怠惰の龍】の力を使ってみろと言って、友姫は目を閉じて集中する。

すると地面が友姫を中心として半径5m程の透明な空間が出来上がり、地面が揺らぎ始める。

試しに触れてみるとただの芝生だ。

見えない、触れられない膜のようなものなのだろう。

龍化したスヴェンが友姫の少し右に向かって尻尾を真上から叩き付けようとした。

だが尻尾は途中で細くなり、消滅する。

【怠惰の龍】の無効化範囲は恐らく半球体状と思われる。

試しに揺らいでいる地面の真上、地上から約10mの所に龍化したスヴェンが手を伸ばすと消滅しなかった。

試しに龍護も闇属性の魔法を友姫に向かって使う。

幻影のモデルに使ったのは自分。

そして幻影に成功して自分を友姫に向かわせた。

だが途中で消えてしまう。

魔法も完全に無効化されるようだ。

実験もそこそこにしてスヴェンが龍化を解き、右手を見てみた。

紋章が消えている。

一般人に龍を持たせても使えるのは1回限りらしい。

今日はここまでだな、と3人は家に入った。


だが彼等は失念していた。

恐らくこのままお互いの龍の能力を使っていれば友姫の持つ【怠惰の龍】の力の唯一の、そして最大の弱点に気付けたのかもしれない────



◇◆◇◆◇◆



翌日の今日は土曜日。

龍護は1人、図書館に来ていた。

理由としては七天龍の遊戯に関して少しでもいいから情報を集めたいからだ。

奥の古典エリアに向かい、【七天龍の伝説】と書かれた緑色で硬い表紙になっている分厚い本を抜き取る。

閲覧エリアに行って本を広げた。

だがやはり七天龍の遊戯に関する情報は無い。

悩んでいたが向かいに誰かが座ったので本を再び読み始める。


「勉強熱心だね?奪木龍護君」


聞き覚えのある声。

前を見てみるとそこには【憤怒の龍】の所持者であるルシス・イーラが座っていた。

突然の事に立ち上がる龍護。


「・・・何の用だ?」

「まぁ落ち着いて座りなよ?まだ僕は何もしてないんだから」


両手を軽く上げてルシスは答える。

警戒しながらも龍護は黙って座った。

その時にルシスは龍護の持っていた本に目を付ける。


「七天龍の伝説か・・・」

「やっぱ参加者だから興味はあるんだな?」

「というか僕の大学の研究テーマだからね」

「は?」


どうやらルシスは七天龍の遊戯の参加者になってから七天龍の伝説に興味を持ち、実際に調べているようだ。


「言ってしまうと今の所は君と敵対する気は無いよ?」

「え?」


突然の発言に戸惑う龍護。


「そりゃあそうだろう。弟である君が死んだら僕の彼女は傷心してしまうからね・・・」

「・・・」


確かにそうだな・・・と龍護が若干納得し、情報収集を再開する。

するとルシスは音を立てず、龍護に基盤が丸見えの透明なUSBメモリを渡した。


「・・・何これ?」

「まぁ、研究資料と思っておいてくれ。そこにはとあるサイトのURLとWord形式の資料を入れておいた」

「いいのかよ?」

「一応、今は敵対しないという信用を込めて渡すよ」


そっか・・・と龍護がテーブルに置かれたUSBを拾おうとする。

だが先にルシスに取られてしまった。


「さすがにタダでは渡せないよ」

「アンタな・・・で、要求は?」

「君のアドレス」

「・・・はい?」


どうやらルシスは龍護のメールアドレスと引き換えにUSBを渡すようだ。

まぁ・・・それくらいなら・・・と龍護も紙にアドレスを書いてルシスに渡した。


「1つ言うと僕は僕の故郷で君と決着を付ける予定だ」

「故郷ってぇと・・・オーストラリアだっけ?でも何で?」

「理由?そうだな・・・」


ルシスが頬杖を付いて外を眺める。

その先には元気に遊んでいる子ども達がいた。


「僕は・・・日本が好きなんだよ。ここは素晴らしい・・・人は優しく、一生懸命で、まっすぐで、一途で、そして・・・愛する者がいる国だ。その好きな場所を血で染めたくない・・・からかな?」


ルシスの見せた笑みは信用するには十分過ぎた。

そんなルシスを見て龍護にも笑みが浮かぶ。


「でもいいのか?自分の国を血で染めちまっても?」

「ウルル・・・エアーズロックって知ってるかい?」



エアーズロック


オーストラリアを代表とする観光名所だ。

広大な砂漠の中にある一枚岩であるエアーズロック(ウルル)は、地球の中心に居るのか、火星に居るのではないかという幻想的な世界に入る事が出来る。


「まぁな」

「僕はそこで君と決着を付けようと思っている。今は観光名所となっているけどその1日だけ、僕はその地を最後のバトルフィールドとして君を打ち倒したいと思ってるんだ」


ロマンチストだなと思った。

だがそのような終わり方も悪くないか・・・と思ったのか龍護はそれに乗ることにした。

ルシスが急に立ち上がる。

どうやら大学に戻るようだ。

龍護も情報収集はここまでとしてルシスを追った。



◇◆◇◆◇◆



「わざわざ一緒に帰らなくても良かったのに・・・まだ続けようとしてたんでしょ?」

「心配ねぇよ。それにそれ以上の収穫があったからな」


龍護は得意気にUSBを見せる。

あっ!とルシスは何かを思い出したようだ。


「ごめんそれ・・・というか中のURLのサイト・・・IDとパスワード無いと入れないんだった・・・」

「俺無理じゃん!?渡した意味!?」


ごめんごめんと平謝りして後で2つとも送ると約束したルシス。

呆れながらも頼むぞ?と龍護も納得したようだ。


「それじゃ、僕はこれで」

「おう・・・その時は負けねぇから」

「僕もだよ」


お互いに健闘を誓い合い、ルシスは大学に、龍護は友姫の家に帰っていった。



◇◆◇◆◇◆



夜の10:30。


「ハッ・・・・・・!ハッ・・・・・・!」


血だらけのルシスが道に倒れている。

息が荒く、ギリギリ立ち上がれる程だ。

道路は広いが周りは見通しが悪く、交通量や通行人も少ない上、街灯も無かった。

ブレーキ痕が続いており、その先には2台の黒い車が止まっている。

ルシスはせめて・・・と霞む視界と震える手で必死にとある人物にメールを打つ。

バタン!と音がして2人が車から降りてきた。

その後に武装した人が3人ほど車から降りてきて、サブマシンガンを構えながら近付いてくる。

その中の1人を見てルシスは驚愕する。

彼に伝えないと・・・!と再びキーを打つ。


ダァン!!!!


その音と同時にスマートフォンを握っていたルシスの右手は撃ち抜かれた。

だがそれでも・・・!とルシスは必死に左腕を動かしてスマートフォンを手に取った。

もう時間が無いと思い、編集途中の文章をそのまま送信する。


「なぜ・・・貴方が・・・」

「・・・」


その者は冷えた目付きでルシスを見下ろしていた。

最後の足掻きとしてルシスは頬に紋章を浮かばせる。

ズキズキと痛む身体を必死に立ち上がらせながらルシスは怒りを溜め込んでいく。


「お前のような奴に・・・」


ルシスの身体に赤く光る線が張り巡り、そこから炎が上がる。


【憤怒の龍】の能力だ。


憤怒の龍の能力は怒れば怒る程に力が強化され、光る赤いラインが身体に現れる他、魔法適正無しに炎を纏い、その炎で戦闘もする事が出来る。


「負ける訳にはいかない!!!!」


ルシスは殴り掛かかろうとしたが難無く躱される。

すると男が周りにいた者達を退がらせる。


「・・・なんのつもりだ?」

「いやなに、優勝特典を使ってみたくなってね」


その言葉を発して男の目に浮かぶ紋章が鈍く輝き出す。

そしてドス黒い瘴気を発し始め、男を包み込むとその瘴気はどんどん大きくなり、しまいには2階建ての一軒家の高さを軽々超える大きさになる。

やがて瘴気は止み、中から黒い龍が現れた。

その姿を見てルシスは息を呑んだ。

すぐに我に帰って【憤怒の龍】の力を使い、炎を両手に灯してジェットエンジンのように逆噴射させて飛び上がる。

だが車に轢かれた痛みが残っている為か、炎の出力を安定させられない。

そしてそんなルシスに対し挑発するように黒い龍は咆哮する。

ビリビリと空気が振動し、ボロボロのルシスの身体に突き刺さる。

もう周りから見ても勝負は目に見えている。

にも関わらずルシスは必死に闘志を燃やしていた。

龍護と決着を付けると約束し、そして愛する者に明日も会う為だ。

残された力の全てを使い、飛び掛かる。


「うおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」


高温の炎を纏った拳を思い切り黒い龍の胴体に叩き込んだ。

そして続け様に少し距離を取って両手を龍に向けて広げ、炎を撃つ。

巨大な炎が黒い龍を包み込んだ。

全てを力を使ったルシスはフラフラとしながら地面に降り立とうとした。

その直前で黒煙の中から黒い龍の腕が現れ、ルシスを掴み上げる。


ルシスの強襲は失敗に終わった。


そんなルシスを嘲笑うかのように少しづつ手に力を込める黒い龍。

ルシスはもう力尽きてまともな声も出せず、「が・・・・・・あっ・・・・・・!!!!」と短い悲鳴を上げながらその身体からは血が吹き出し、ボキッ!メリッ!と骨や内臓が潰れていく音が響いた。

ダラン・・・とルシスの首が垂れるのを見て黒い龍は手を離す。

硬い地面にルシスの身体が叩き付けられるが悲鳴一つ上げなかった。


完全に息絶えていた。


黒い龍は消え、男は近付いてしゃがみ込み、ルシスの頬にある紋章に右手を添える。


「【我が元に集え】」


そう告げるとルシスの頬にあった赤い紋章は燃えるように消えて、男の右目に浮かぶ黒い紋章は赤と黒の紋章となり、2色に輝き出す。


「ターゲットは以下がなさいますか?」

「燃やしておけ」

「し・・・しかし・・・!」


黒スーツを着た女性は躊躇する。

だが男の目を見た途端に姿勢を正した。


「畏まりました」


先程まで躊躇していたにも関わらず指示を受けた女性はガソリンを持ってきて平然とルシスに満遍なく掛ける。

そして男とともに車へと戻り、ルシスに向かって拳銃を1発、発砲する。

その銃弾はルシスに被弾し、ガソリンにも火がついた。

それを確認すると車はスピードを上げてその場を離れた。


ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・


ルシスの近くにあるまだ辛うじて壊れてないスマートフォンに着信が入る。

その画面は歪みながらも《奪木 恵美》の名前が表示されていた。



◇◆◇◆◇◆



龍護に着信が入る。

友姫との勉強を中断して電話に出た。

相手は恵美だ。


「どうした?姉貴?」

『龍護?そっちにルーいる?』

「ルー?・・・あぁ・・・ルシスの事?いないけど」

『そっか・・・おかしいな・・・さっきから電話してるんだけど出ないんだよね・・・』

「え?大学にいねぇの?」

『いや、戻って来たは来たんだけど、また出掛けたから・・・』


どうやら大学に一旦戻ったものの帰って来てないらしい。

どうせ買い物でもしてるんだろ。と龍護は言ってお互いに電話を切る。

その時に龍護は2件のメールが入ってた事に気付いた。

送り主はルシスだ。

先に姉貴に連絡しろよ・・・と心の中で愚痴ったがメールを開ける。


《使用ID:ITD346SGK

パスワード:hfru453l》


1件目はUSBに入っているURLに使うIDとパスワードのようだ。

自分のスマートフォンのメモ帳にコピーして2件目を表示する。


《ぼくはもうながくない。かならずかちのこってくれ。

りゅうのしょじしゃにはs》


そこで切れていた。

尋常ではない事に気付く龍護。

だが気付いた頃には遅く、ルシスは既に亡くなっている。


後日。

ルシス・イーラは全身の骨が砕けた焼死体として発見された。

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